第七十四話 ランキング戦前日
ランキング戦二日前。
流星竜舎。
レオン
「明日は一日休みだ」
恒一
「は?」
レオン
「休め」
恒一
「明後日ランキング戦だぞ?」
レオン
「だからだ」
恒一
「レオンがそんな事言うなんて雪でも降るのか?」
ボカッ!
レオン
「殴るぞ」
恒一
「殴ってから言うなよ!」
レオン
「頭を休めろ」
レヴ
『寝る』
恒一
「お前はいつも寝てるだろ」
レヴ
『今日は堂々と寝る』
レオン
「とにかく休め」
恒一
「わかったよ。ありがたく休ませて貰うよ」
そう言って恒一は竜のしっぽ亭へ帰っていく。
ランキング戦前日。
まさかの休みだった。
王都中央区。
恒一は一人で街を歩いていた。
屋台。
露店。
武具屋。
観光客。
ランキング戦を明日に控えた王都は祭りのような賑わいだった。
恒一
「暇だな」
ミリア
「あら?恒一じゃない」
恒一
「げっ」
ミリア
「何よその反応は!」
恒一
「いやぁ〜別に」
ミリア
「あんたがこんな所にいるなんて珍しいわね」
恒一
「そういうお前は何してるんだよ?」
ミリア
「明日は本番だから今日は休みにしたのよ」
恒一
「なんだ、俺と同じかよ」
ミリア
「あら、恒一も休みなの?」
数秒沈黙。
ミリア
「で?」
恒一
「で?」
ミリア
「どこ行くの?」
恒一
「特に決めてない」
ミリア
「じゃあ、私に付き合いなさいよ」
恒一
「なんでだよ」
ミリア
「暇だからよ」
恒一
「理由が酷ぇ」
しばらく王都を歩く。
服屋。
武具屋。
露店。
雑貨屋。
ミリア
「いや〜荷物持ちがいてくれて助かったわ」
恒一
「なんで俺がお前の荷物持ち持たなきゃいけないんだよ!」
ミリア
「そんなこと言ってるからモテないのよ?」
恒一
「ぐっ余計なお世話だよ」
そんな話をしながら二人が一本裏路地へ入った時だった。
恒一の足が止まる。
恒一
「……」
ミリア
「どうしたの?」
恒一
「……」
ミリア
「恒一?」
恒一
「……匂う」
ミリア
「失礼ね!そんなに汗かいてないわよ!」
恒一
「違ぇよ。なんか香辛料の匂いしないか?」
ミリア
「あら本当ね?こんな路地裏で珍しいわね?」
恒一
「この近くにあるぞ!!」
ミリア
「香辛料の匂いがどうしたのよ?」
恒一は全力で匂いのする方向へ走り出した。
看板。
香辛料専門店。
店内には無数の香辛料。
恒一
「うおおおおおおおお!!」
ミリア
「いきなり何よ!?うるさいわね!」
恒一
「胡椒!クミン!コリアンダー!」
「ターメリックにカルダモン!!」
「唐辛子にクローブ!シナモンまであるぞ!!」
ミリア
「声が大きいわよ!お店の人が困ってるでしょ!!」
「あんた、ちょっと落ち着きなさいよ!」
店主も困惑していた。
十分後。
店内。
香辛料が並べられている。
恒一
「よし」
ミリア
「何がよしなのよ」
恒一
「カレー作れる」
ミリア
「カレーって何よ?」
恒一
「めちゃくちゃ美味い至高の食い物だ」
ミリア
「雑ね」
恒一
「雑じゃねぇ!」
恒一は真顔だった。
恒一
「俺の故郷じゃ知らない奴がいない」
ミリア
「そんなに?」
恒一
「子供も食う」
ミリア
「ふーん」
恒一
「大人も食う」
ミリア
「うん」
恒一
「毎週食う奴もいる」
ミリア
「嘘でしょ?」
恒一
「本当だ」
ミリア
「飽きないの?」
恒一
「飽きない」
ミリア
「そんな料理ある?」
恒一
「ある」
恒一は香辛料を見つめながら言う。
恒一
「肉でも作れる」
恒一
「魚でも作れる」
恒一
「野菜でも作れる」
恒一
「家庭や店ごとに味が違う」
ミリア
「何それ」
恒一
「国民食だ」
ミリア
「そんなに?」
恒一
「ああ」
恒一
「断言する」
恒一
「食ったらお前も好きになる」
ミリア
「へぇ」
「でも、香辛料をそんなに使う料理を食べられるなんてあんた貴族の生まれなの?」
恒一
「いや、庶民の生まれだぞ?」
ミリア
「はぁ?あんた私をからかってるの?」
恒一
「なんでだよ?別からかってないぞ?」
二人がいまいち会話が噛み合わないやり取りをしていると。
店主
「全て合わせまして金貨三枚銀貨七枚になります」
恒一
「はい?」
「金貨三枚と銀貨七枚?」
店主
「はい。こちらの商品全て合わせまして金貨三枚と銀貨七枚になります」
恒一
(待て待て待て!)
(この世界の貨幣価値を日本円にするとたしか...)
鉄貨1枚 約100円
銅貨1枚 約1,000円
銀貨1枚 約10,000円
金貨1枚 約100,000円
恒一
(くらいだったよな?その上に大金貨とか白金貨ってのがあるらしいけど)
恒一
「いやいや!!高すぎだろ!?ふざけてるの!?」
店主
「最高級品ですので」
恒一
「たしかに量はあるけど精々銀貨1枚だろ!」
店主
「!?お客さんこれでもお安くしてるんですよ!」
「それとも冷やかしですか!!」
ミリア
「まぁ適正な値段よね」
「銀貨1枚なんてありえないわよ?」
恒一
「え...マジ?」
ミリア
「マジよ。香辛料なんて高級品何だから当然でしょ」
恒一
「いやいやいや、俺の故郷じゃ子供でも買えるんだぞ!?」
ミリア
「そんな国、聞いたことないわ」
「あんた、本当にどんな所から来たのよ?」
恒一
「う...遠い東の島国...」
ミリア
「まぁ、なんでもいいわ買うの買わないの?」
恒一
「いやいや、カレーだぞ!?」
「こんなに高いカレーおかしいだろ!?」
ミリア
「知らないわよ」
恒一
「ぐぬぬ……」
(37万....)
諦めようとしたその時。
ミリア
「はぁ...店主さんこれ全部包んで」
恒一
「は?」
店主
「ありがとうございます」
恒一
「待て待て待て待て!!」
「金貨三枚に銀貨七枚だぞ!?」
ミリア
「貸しにしとく」
恒一
「重い貸しだな!?」
ミリア
「そこまで言う料理なら食べてみたいじゃない」
恒一
「……」
ミリア
「何よ」
恒一
「...ありがとう。絶対後悔させないぞ!」
ミリア
「楽しみにしてるわね」
竜のしっぽ亭。
ガロン
「何だその荷物」
恒一
「革命だ」
ガロン
「嫌な予感しかしねぇ」
ガロンの言葉を無視して恒一は厨房へ直行する。
香辛料の袋が次々と並べられた。
ガロン
「おい」
恒一
「なんだよ?」
ガロン
「それ全部なんだ?」
恒一
「香辛料」
ガロン
「はぁ!?全部でいくらしたんだよ!?」
恒一
「......聞くな」
ガロン
「いや聞く!」
恒一
「金貨三枚銀貨七枚」
ガロン
「はぁぁぁぁぁ!?」
ミリア
「私が出した」
ガロン
「お前かぁぁぁ!!」
ミリア
「まぁまぁ」
ガロン
「まぁまぁじゃねぇ!!」
調理開始。
まず玉ねぎ。
大量。
ひたすら切る。
ガロン
「多くねぇか?」
恒一
「多い」
ミリア
「何人前作るの?」
恒一
「知らん」
ガロン
「知らんのかよ」
鍋へ投入。
炒める。
さらに炒める。
まだ炒める。
ガロン
「焦げてるぞ」
恒一
「焦がしてるんだよ」
ガロン
「馬鹿か?」
恒一
「ここから甘くなる」
ガロン
「意味分からん」
ミリア
「私も」
さらに炒める。
玉ねぎは茶色になった。
そこへ刻んだにんにくと生姜入れて香りが出るまで炒める。
さらに大量のトマト入れ、中火にしてを潰しながら炒める。
水気が無くなってきたらクミン、コリアンダー
ターメリック、カルダモン、シナモン、黒胡椒、粉唐辛子
クローブを入れて弱火で炒める。
香りが立って来たら、厚く切った肉を加え色が変わるまで
炒める。ヨーグルトは無かったのでそこは諦めた。
鍋いっぱいに水と店で使っている肉の出汁を入れて蓋をして煮立って来たら弱火にして灰汁を取りながら10分程煮込む
ガロン
「何種類入れた?」
恒一
「数えてない」
ガロン
「怖ぇよ」
香りが立ち始める。
その瞬間だった。
ガロン
「……」
ミリア
「……」
二人の顔が変わる。
ガロン
「何だこの匂い!?」
ミリア
「初めて嗅ぐ香りね」
恒一
「まだだ」
ガロン
「まだ?」
恒一
「本番はここからだ」
その頃。
クロムウェル商会。
バルド
「くしゅん!」
秘書
「風邪ですか?」
バルド
「違う」
何故か胸騒ぎがした。
バルド
「ミリアちゃんが何かやっている気がする」
秘書
「いつもの事では?」
バルド
「行かねば」
秘書
「仕事は?」
バルド
「そんな事は後だ!」
竜のしっぽ亭。
恒一は厨房の奥へ向かった。
そして。
大きな木桶を抱えて戻ってくる。
ガロン
「何だそれ」
ミリア
「あら?」
蓋を開ける。
ふわり。
白い湯気。
真っ白なご飯。
ミリア
「真っ白ね」
ガロン
「ああ」
ミリア
「前のは茶色だったわよね?」
ガロン
「玄米とか言ってたな」
恒一
「あれから少しずつ精米してた」
ガロン
「暇だったのか?」
恒一
「うるせぇ」
木匙でご飯を皿に盛る。
白い山。
その上へとろりとした黄金色のカレーが流れる。
ミリア
「……」
ガロン
「……」
恒一
「カレーライスだ」
全員
「???」
その時。
扉が開いた。
バルド
「ミリアちゃぁぁぁぁん!!」
ガロン
「来たぁぁぁぁぁ!!」
恒一
「早ぇよ!!」
ミリア
「呼んでないんだけど?」
バルド
「何故か来なければならない気がした!!」
ガロン
「気持ち悪ぃな!!」
実食。
最初に食べたのはガロンだった。
一口。
二口。
三口。
無言。
恒一
「どうだ?」
ガロン
「...待て」
ミリアも食べる。
無言。
バルドも食べる。
無言。
恒一
「何だよ!?」
ミリア
「待って!」
バルド
「少々お待ちください」
ガロン
「待て」
恒一
「だから何なんだよ!!」
三人は再び食べる。
さらに食べる。
そして。
ミリア
「米」
ガロン
「今まで家畜の餌」
バルド
「香辛料は高級品」
ミリア
「なのに...」
ガロン
「合う!」
バルド
「異常に合う!!」
三人
「「「売れる!!!」」」
恒一
「いや、味の感想言えよ!!」
そこへ。
レヴ
『何だこの匂い』
フェルド
『美味そうだな』
竜二頭登場。
レヴ
『肉だ』
フェルド
『肉だな』
恒一
「肉じゃなくてカレーだ」
レヴ
『肉カレーだ』
フェルド
『肉カレーだな』
恒一
「まぁそうだけど...」
結局。
二頭にもカレーライスを差し出す。
レヴとフェルドが食う。
沈黙。
次の瞬間。
レヴ
『!!!!!!』
フェルド
『!!!!!!』
恒一
「なんだ!?」
レヴ
『美味い!!』
フェルド
『何だこれは!?』
ミリア
「フェルドが興奮してる!?」
ガロン
「初めて見たな」
レヴ
『肉だ』
恒一
「そうだな」
レヴ
『米だ』
恒一
「そうだな」
レヴ
『肉だ』
恒一
「知ってる」
レヴ
『美味い!!』
恒一
「...語彙が死んでるぞ」
フェルド
『これは危険だ』
恒一
「何がだ?」
フェルド
『毎日食べたくなる』
レヴ
『恒一これを毎日持ってこい!』
恒一
「ふざけんな!できるか!!」
その後。
おかわり。
おかわり。
おかわり。
ガロン
「もう一杯」
ミリア
「私も」
バルド
「追加で」
レヴ
『足りん』
フェルド
『追加だ』
気付けば。
大鍋は空。
ご飯の入った木桶も空。
全員満足顔だった。
ガロン
「美味かったぁ...」
ミリア
「美味しかったわぁ」
バルド
「素晴らしい!」
レヴ
『最高だ!!』
フェルド
『また作れ』
恒一
「そうかい。美味かったならよかったよ」
「さて、俺も久々に食べよう」
静寂。
恒一
「……俺の分は?」
全員
「……」
恒一
「え?」
鍋を見る。
空。
木桶を見る。
空。
恒一
「おい」
レヴ
『美味かった』
フェルド
『また作れ』
ガロン
「最高だった」
ミリア
「大成功ね」
バルド
「素晴らしい投資案件です」
恒一
「俺食ってねぇんだけど!?」
大爆笑が店内に響いた。
ランキング戦前日。
この日恒一の作ったカレーライスは竜のしっぽ亭に
新たな騒動の種を残した。
そして。
作った本人だけが食べられなかった。
恒一
「カレーライス食わせろォォォォォ!!」
恒一の悲痛な叫びが、竜のしっぽ亭に響き渡った。
――第七十四話 終――




