第六十五話 接触訓練とフェルドの苦難
ランキング戦まで残り二ヶ月。
クロムウェル商会専用訓練場。
広大な地上コースをフェルドが駆け抜ける。
その背にはミリア。
周囲には商会所属の竜騎手達。
ミリア
「行くわよ!」
フェルド
『いつでもいい』
飛空竜部隊ではない。
全て地上用の競走竜だ。
レオンの指摘を受けたミリアは、真面目に接触戦対策を始めていた。
竜騎手A
「囲め!」
竜騎手B
「逃がすな!」
左右から二頭。
後方から一頭。
三方向から包囲する。
しかし。
フェルド
『遅い』
ドン!!
地面を蹴った瞬間。
フェルドの姿が消えた。
竜騎手達
「は?」
気付いた時には遥か前方。
包囲は一瞬で突破されていた。
三十分後。
ミリアは腕を組んでいた。
フェルド
『どうした?』
ミリア
「これじゃ駄目ね」
フェルド
『何がだ?』
ミリア
「全部」
竜騎手達も肩で息をしている。
竜騎手A
「申し訳ありません」
ミリア
「謝らなくていいわ」
ミリアは溜息を吐く。
ミリア
「圧倒的に弱いのよ」
竜騎手達
「酷くないですか!?」
フェルド
『事実だ』
竜騎手達
「フェルド様まで!?」
ミリア
「レオンさんの言う通りなのよ」
ミリア
「ランキング戦では必ず接触される」
フェルド
『そうだな』
ミリア
「でも今の訓練じゃ」
「接触される前に終わる」
フェルド
『それの何が問題だ?』
ミリア
「大問題よ!」
「実際、アイアンシェルに進路を塞がれたでしょ?」
フェルド
『……否定できん』
ミリア
「だから接触される前提で走る練習が必要なのよ」
フェルド
『なるほど』
ミリアは考える。
もっと速く。
もっと強引で。
もっとしつこくて。
そして。
絶対に自分へ接触しようとしてくる相手。
ミリア
「あ」
フェルド
『嫌な予感がする』
ミリア
「そうね」
フェルド
『何がそうなんだ...?』
ミリア
「パパだわ!」
フェルド
『帰る』
一時間後。
クロムウェル商会本館けの玄関前。
ミリア
「パパ」
バルド
「呼んだかいミリアちゃぁぁぁぁん!!」
ドゴォォォォン!!
扉が勢いよく開いた。
フェルド
『来ると思った』
ミリア
「訓練に付き合って」
バルド
「任せろ!!」
フェルド
『内容を聞かないのか?』
バルド
「ミリアちゃんの頼みだからな!!」
フェルド
『駄目だこの親』
ミリアは事情を説明した。
バルドは真剣な顔で聞く。
意外にも。
本当に真面目に。
バルド
「なるほど」
ミリア
「接触戦対策よ」
バルド
「つまり」
フェルド
『つまり?』
バルド
「ミリアちゃんに接触すればいいのだな」
ミリア
「そうよ!」
フェルド
『待て!!』
バルド
「理解した!!」
フェルド
『駄目だ...全く聞いてなさそうだ』
訓練場。
フェルドの背にミリア。
フェルドの後方には何故か準備運動をしているバルド。
フェルド
『何故人間と走る』
ミリア
「気にしない」
フェルド
『気にする』
バルド
「では始めよう!!」
フェルド
『待て!』
バルド
「ミリアちゃぁぁぁぁん!!」
ドン!!
地面が爆発した。
フェルド
『速い!?』
ミリア
「来たわよ!!」
フェルド
『人間だぞ!?』
バルドが全力疾走で迫る。
笑顔で。
両腕を広げながら。
バルド
「パパはいつでも歓迎だぞぉぉぉぉ!!」
フェルド
『歓迎していない!!』
急加速。
回避。
しかし。
バルド
「甘い!!」
フェルド
『何故追い付く!?』
ミリア
「右!」
フェルド
『見えている!』
回避。
バルド
「左から行くぞ!!」
フェルド
『宣言するな!!』
ミリア
「左!」
フェルド
『分かっている!!』
回避。
バルド
「素晴らしい!!」
フェルド
『何がだ!?』
さらに三十分後。
フェルドは気付いていた。
フェルド
『なるほど』
ミリア
「何か分かった?」
フェルド
『ああ』
再び。
バルドが迫る。
バルド
「ミリアちゃぁぁぁぁん!!」
フェルド
『右から来る』
ミリア
「ええ」
フェルド
『なら』
今度は避けない。
ギリギリまで引き付ける。
バルド
「捕まえたぁぁぁ!!」
ミリア
「今よ!」
フェルド
『任せろ!!』
急停止。
急旋回。
横へ滑るように移動する。
バルドの手が空を切った。
バルド
「おおっ!?」
フェルド
『そういう事か』
ミリア
「ええ!そう言う事だったのよ!」
フェルド
『接触を避け続けるのではない』
ミリア
「接触される前提で動くのね!」
フェルド
『なるほど』
バルド
「素晴らしいぞミリアちゃぁぁぁん!!」
ミリア
「ありがとうパパ!」
バルド
「今日は祝宴だな!!」
フェルド
『話が飛んだ』
夕方。
訓練終了。
ミリアは確かな手応えを感じていた。
フェルドもまた。
新たな感覚を掴んでいた。
そして。
フェルドだけが遠い目をしていた。
ミリア
「どうしたの?」
フェルド
『何故私はランキング戦の訓練で』
『ミリアの父親から全力で逃げ回っていたのだ』
ミリア
「細かいことは気にしない」
フェルド
『気にする...』
ミリア
「成果はあったでしょ?」
フェルド
『……あった』
ミリア
「ならいいじゃない」
フェルド
『納得はしていない』
ミリアは楽しそうに笑った。
ランキング戦まで残り二ヶ月。
ミリアとフェルドは新たな武器を手に入れた。
そしてフェルドは心の底から思った。
フェルド
『レオンより理不尽だ』
― 第六十五話 終 ―




