第六十三話 ガロンの夢とクロムウェル親子②
ガロン
「待てぇぇぇぇぇぇ!!」
ガロンの叫びが響き渡る竜のしっぽ亭。
ガロン
「俺の店だぞ!?」
ミリア
「そうね」
バルド
「その通りですね」
ガロン
「だったら何で勝手に話が進んでんだ!?」
恒一
「それは俺も思った」
レヴ
『面白そうだからだな』
ガロン
「黙れ肉ドラゴン!!」
レヴ
『俺は肉じゃない』
フェルド
『肉ドラゴンで間違いない』
レヴ
『じゃお前は草ドラゴンな』
ガロン
「うるせぇ!」
ミリアは椅子に座り直した。
そして。
まるで今から商談を始める商人のように微笑む。
ガロン
(あ、この顔ダメだ)
(絶対ロクな事考えてる顔じゃねぇ)
ミリア
「まず勘違いしてるわね」
ガロン
「何をだよ?」
ミリア
「店を取り上げる話じゃないわ」
ガロン
「……あ?」
バルド
「当然です」
ガロン
「どういうことだ?」
バルド
「私は投資家であり経営者であり商人ですが」
「悪徳商人や馬鹿な経営者、小銭稼ぎ投資家ではありません」
恒一
「急に辛辣だな」
バルド
「竜のしっぽ亭の価値はガロン殿です」
ガロン
「は?」
バルド
「料理」
「店の雰囲気」
「常連客との関係」
バルド
「その全てがガロン殿ありきです」
ガロン
「……」
バルド
「ガロン殿がいない竜のしっぽ亭に価値はありません」
恒一
「そこまで言う程のオヤジかねぇ?」
バルド
「言います」
ミリア
「だからオーナーはガロンさんのまま」
ガロン
「……ほぉ?」
ミリア
「店長もガロンさん」
ガロン
「……うむ」
ミリア
「料理長もガロンさん」
ガロン
「そうだな」
ミリア
「面倒事だけ増える」
ガロン
「ちょっと待て」
恒一
「そこだな」
ミリア
「だから業務提携よ」
ガロン
「業務提携?」
バルド
「クロムウェル商会が施設を用意する」
ミリア
「経営者はガロンさん」
バルド
「業務提携後は売上の二割を商会へ」
ガロン
「二割!?」
バルド
「代わりに」
バルドは指を一本づつ立てていく。
バルド
「設備投資」
二本目。
バルド
「施設管理」
三本目。
バルド
「設備管理」
四本目。
バルド
「食材、物販商品の仕入れルート確保」
五本目。
バルド
「宣伝広告の企画運営」
六本目。
バルド
「会計」
バルド
「これらを当商会の負担で全て対応いたします。」
ガロン
「待て待て待て待てぇ!!」
恒一
「ほぼ全部じゃねぇか?」
バルド
「ですから二割です」
ガロン
「安くねぇか!?」
バルド
「むしろ安いです」
恒一
「言い切った」
ガロン
「悪い話じゃねぇな...」
ここまでバルドに言われてガロンの心が揺らぎ始める。
ミリア
「それに」
ミリアは当然のように言った。
ミリア
「従業員も必要よね」
ガロン
「あん?なんでだよ?人を雇う金なんてねぇぞ」
ミリア
「今何人?」
ガロン
「俺と恒一の二人だ」
ミリア
「馬鹿なの?」
ガロン
「うるせぇ」
恒一
「否定できない」
ミリア
「宿泊棟」
「浴場」
「竜テラス」
「イベント施設」
「全部二人でやる気?」
ガロン
「……」
恒一
「無理だな」
レヴ
『過労死するな』
フェルド
『確実に』
ガロン
「竜に心配されてる……」
バルド
「では従業員もこちらで用意しましょう」
ガロン
「は?」
バルド
「料理人見習い」
「給仕」
「受付」
「宿泊管理」
「清掃」
バルド
「全てこちらで手配します」
恒一
「大商会すげぇ」
ミリア
「教育もするわよ」
ガロン
「……」
ガロンは少し黙った。
正直。
悪い話ではない。
むしろ。
良すぎる。
だからこそ怪しい。
ガロン
「何企んでやがる?」
ミリア
「失礼ね」
バルド
「全く心外です」
ガロン
「親子揃って言うな」
恒一
「でもさ」
全員が恒一を見る。
恒一
「従業員が増えたら俺どうなるんだ?」
ガロン
「そういやそうだな?」
「優秀な従業員がいれば恒一は要らねぇな」
ガロンはニヤニヤと笑いながら恒一を見る。
恒一
「おい!酷すぎるだろ!」
ミリア
「あんた竜騎手でしょ」
恒一
「確かそうだけどよ」
ミリア
「むしろそれ以外ある?」
バルド
「新人王、E級八位の竜騎手ですからねえ」
「これから更に竜騎手として忙しくなるでしょし」
フェルド
『他の仕事してる暇なんてないぞ』
レヴ
『俺もそう思う』
恒一
「お前ら……」
バルド
「そういことで運営は我々が支援します」
ミリア
「ガロンさんも従業員もいる」
バルド
「だから恒一殿は騎手に専念してください」
恒一
「……」
恒一としてそれは正直ありがたかった。
気付けば。
ガロン以外の全員が賛成していた。
ガロン
「おい」
誰も聞いていない。
ガロン
「おいって」
ミリア
「まず設計ね」
バルド
「解体班も呼びましょう」
恒一
「早くね?」
ミリア
「一ヶ月あれば十分ね」
ガロン
「おい!だから待てって!」
レヴ
『肉料理フロアは』
バルド
「当然作ります」
レヴ
『採用』
恒一
「お前もうクロムウェル商会の役員だろ」
ガロン
「だから俺の話を!!」
「クソ!どうにでもなりやがれ...」
そして――
一ヶ月後。
ランキング戦まで残り二ヶ月。
竜のしっぽ亭前。
ガロンと恒一と竜の二頭は言葉を失っていた。
恒一
「……」
ガロン
「......」
レヴ
『……』
フェルド
『……』
目の前にあるのは。
もはや酒場ではなかった。
正面は昔と変わらぬ竜のしっぽ亭。
常連達の居場所。
ガロンの厨房。
懐かしい入口。
だがその奥。
巨大な宿泊棟。
竜専用テラス。
飛行竜発着場。
地下施設へ続く魔導昇降機。
最新魔導設備。
竜も入れる大型温泉施設。
イベントホール。
物販エリア。
そして。
王都中の騎手と竜が集まれる巨大複合施設。
恒一
「……一ヶ月だよな?」
バルド
「はい」
恒一
「一ヶ月だよな?」
ミリア
「一ヶ月よ」
恒一
「どうやったらこうなるんだ?」
バルド
「クロムウェル商会ですので」
恒一
「説明になってねぇ」
ガロン
「俺もそう思う」
恒一が振り返る。
そこには。
真新しい制服を着た従業員達に囲まれながら。
呆然と立ち尽くすガロンの姿があった。
従業員達
「店長!」
「店長!」
「店長!」
ガロン
「やめろ」
従業員達
「店長!」
ガロン
「やめろって!」
ミリア
「似合ってるわよ」
ガロン
「うるせぇ!」
レヴ
『肉はどこだ』
ガロン
「お前はブレねぇな!」
その瞬間。
【竜との交流宿屋 竜のしっぽ亭】と書かれた看板が
新たに掲げられた。
王都最大級。
騎手と竜の集う場所。
新たな伝説の始まりだった。
ガロン
「もう宿屋じゃねぇぇぇぇぇぇえ!!!」
この日、ガロンの叫びが王都中に響いた。
― 第六十三話 終 ―




