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第六十二話 ガロンの夢とクロムウェル親子①

ランキング戦まで残り三ヶ月。


竜のしっぽ亭は昼営業を終え、珍しく静かな時間が流れていた。


レヴはテラス席で寝転がり。


恒一はまかないを食べ。


ガロンはグラスを磨いている。


レヴ

『肉』


ガロン

「お前、さっき食っただろ」


レヴ

『あれは昼飯だ』


ガロン

「今も昼だ」


恒一

「毎日同じ会話してないか?」


レヴ

『重要なことだ』


ガロン

「重要じゃねぇ」


店内に笑いが起きる。


そんな時だった。


ガロンがふと窓の外を見る。


ガロン

「狭ぇな」


恒一

「店が?」


ガロン

「ああ」


レヴ

『確かに』


恒一

「お前が言うな」


ガロン

「最近は騎手も増えたしな」


ガロン

「竜も増えた」


ガロン

「競走場帰りの客も増えた」


ガロン

「もっと広けりゃ色々出来るんだが」


恒一

「例えば?」


ガロン

「騎手同士が集まって、ファンも来れて、竜もくつろげる」

「そんな場所があったら面白ぇだろ」


恒一

「確かに」


ガロン

「まぁ夢みてぇな話だ」


ミリアは黙って紅茶を飲んでいた。


ミリア

(面白そうな話ね)


ガロン

「ただそんな金はねぇ」


ミリア

(そういえば……)

(あれが使えるそうね)


この時、誰も気がついていなかった。


ミリアの頭の中で壮大な計画が動き始めた事に。


翌日。


竜のしっぽ亭の前に巨大な馬車が停まった。


恒一

「誰だ?」


ガロン

「知らん」


馬車の扉が開く。


現れたのは巨大な男だった。


スキンヘッド。


全身ムキムキの筋肉の塊。


品の良い高そうなスーツ。


恒一

「商人には見えねぇな」


ガロン

「同感だ」


恒一

「傭兵団長じゃねぇのか?」


ガロン

「それだ」


男は店内へ入る。


そしてゆっくりと店内を見回した。


カウンター。


厨房。


テラス席。


酒棚。


床。


壁。


常連達の席。


一つ一つを確認するように。


じっくりと。


恒一

「何か見てるぞ?」


ガロン

「さぁな」

「だが妙な野郎だ」


男は一周見終わると静かに頷いた。


バルド

「なるほど、面白い店だ」


恒一

「何で分かるんだ?」


ガロン

「まだ何も食わせてねぇぞ」


ガロンは小さく笑いながら男をみる。


バルド

「だからですよ」


全員


「?」


バルド

「料理だけで繁盛する店はあります」

「ですが!料理だけで二十年以上続く店は少ない」


ガロン

「……」


バルド

「常連がいる、笑い声がある」

「故郷に戻ったような古めかしさがある」

「良い店です」


ガロン

「……変な野郎だな」


その時。


扉が開いた。


ミリア

「お待たせ。少し遅くなったわね」


その瞬間、ガロン達の目の前から大男の姿が消えた。


バルド

「ミリアちゃぁぁぁぁぁん!!!」


ドゴォォォン!!


恒一

「うぉっ!?」


ガロン

「店揺れたぞ!?」


レヴ

『敵襲か!?』


バルド

「会いたかったぞミリアちゃぁぁぁん!!」


ミリア

「昨日も会ったでしょ」


バルド

「一日でも長いのだ!!」


ミリア

「パパうるさい!」


店内沈黙。


恒一

「……パパ?」


ガロン

「……パパ?」


レヴ

『パパ?』


全員


「パパぁぁぁぁぁぁぁ!?」


ミリア

「何よ」


恒一

「何よじゃねぇよ!?」


ガロン

「お前の親父さんだったのか!?」


バルド

「見ればわかるであろう?」


恒一

「似てねぇ!!」


ガロン

「全然似てねぇ!!」


バルド

「目元がそっくりではないか!!」


恒一

「分からん」


ガロン

「分からんな」


数分後。


バルド

「ごほん。改めまして」


バルド

「クロムウェル商会会頭」

「バルド・クロムウェルです」


恒一

(会頭かよ……)


ガロン

「で?」


バルド

「はい?」


ガロン

「そんな大商会の会頭さんが何しに来た?」


バルド

「ミリアちゃんに呼ばれまして」


恒一

「……何で?」


ガロン

「俺が聞きてぇよ」


ミリアはニヤリと笑った。


恒一

(あ...この顔はろくでもないこと考えてやがる)


ガロン

「おい、その顔やめろ」


ガロンと恒一はミリアの笑顔を見て嫌な予感がした。


ミリア

「ガロンさん」


ガロン

「な、なんだよ...?」


ミリア

「昨日の話をパパに話してみてよ」


ガロン

「昨日の話し?」


ミリア

「店を広くしたいって話よ」


ガロン

「あん?恒一と昼に雑談してた時の話しかぁ?」

「どうしてそんな話をしな....」


ミリア

「いいから話す!」


ガロン

「何で命令口調なんだよ……」


ガロンは頭を掻きながら話し始めた。


ガロン

「別に大した話じゃねぇぞ」

「最近騎手も増えた、竜も増えた、競走場帰りの客も増えた」

「だからもう少し店が広けりゃなって話だ」


ガロンは照れくさそうに鼻先を掻きながら言葉を続ける。


ガロン

「騎手が集まれて」

「ファンも来れて」

「竜もくつろげる」

「そんな場所があったら面白ぇなって」

「まぁ夢みてぇな話だ」


ガロンの話が終わるとミリアは焦れったいと言わんばかりに

バルドの前に身を乗り出す。


ミリア

「どう?」


ミリア

「パパ、面白そうじゃない!?」


バルドは腕を組む。


バルド

「ふむ」


数秒。


バルド

「確かに興味深い話ではあります」

「しかし...その話だけでは判断材料に欠けますね」


ガロン

「おいおい!何だよ?」

「勝手に二人で話を進めるなよ!」


バルド

「とりあえず....」

「料理を一品頂けますか?」


ガロン

「人の話を聞けぇぇぇぇ!!」


ミリア

「いいから黙って作って来なさいよ!!」


ガロン

「何で俺が怒られてんだ!?」


十分後。


しっぽ亭自慢の肉料理が運ばれてくる。


レヴ

『俺の分は?』


ガロン

「ねぇよ」


レヴ

『客だぞ』


ガロン

「うるせぇよ!!」


そんなバカなやり取りを横目に

バルドは肉を口に運んだ。


無言。


もう一口。


さらにもう一口。


恒一

「どうだ?」


バルドは答えない。


さらに食べる。


ガロン

「大商会の会頭様のお口には合わなかったかい?」


バルド

「逆です」


全員


「?」


バルド

「何故...」

「何故!私は今までこれを食べなかったのでしょう!!」


恒一

「あん?そんなにか?」


バルド

「そんなにです」


バルドは真剣な顔になる。


バルド

「味」「量」「価格」「提供速度」

「全てが高水準です!」


ガロン

「そんな大層なもんじゃねぇよ」


バルド

「ガロン殿!!!」


ガロン

「な、何だぁ!?」


バルド

「何故これを王都全域で展開していないのです?」


ガロン

「そんなこと、俺が知るかよぉ!!」


バルド

「勿体ない...実に勿体無い!」


ガロン

「褒めてんのか?」


バルド

「最大級に」


そして。


料理を全て食べ終わるとバルドは椅子にもたれた。


バルド

「料理は美味い」

「立地も良い」

「騎手も来る」

「竜も来る」


バルドは目を瞑り考えると。


バルド

「投資価値はあります」


ガロン

「そりゃどうも」


恒一

「おぉ」


バルド

「ですが...」


空気が変わる。


バルド

「店を少し広げる程度なら私が直接動く規模ではありません」


恒一

「あー」


ガロン

「まぁ当然そうだろうなぁ」


今まで黙って様子を見ていたミリアが口を開く。


ミリア

「そうかしら?」


全員


「?」


ミリア

「ねぇ?」

「竜のしっぽ亭の裏手には何があると思う?」


恒一

「裏?」


ガロン

「路地しか知らんぞ」


レヴ

『肉置き場』


ガロン

「そんな場所は用意してねぇ」


バルドはミリアが言っている意味がわからず首を傾げる。


バルド

「はて?」


ミリア

「あるじゃないのよ。使われていない施設が」


ようやくバルドはミリアが何を言いたいのか理解した。


バルド

「……あぁ、蒼星館ですか」


恒一

「何だそれ?」


ガロン

「初耳だぞ」


ミリア

「クロムウェル商会所有の元保養施設よ」


恒一

「そんなのあったのか!?」


ガロン

「知らねぇぞ!?」


ミリア

「今は使われていない館だけ残ってるのよ」


バルド

「確かにそうですね」


ミリア

「使われてないなら壊しちゃいましょう」


全員


「は?」


ガロン

「館だぞ!?」


ミリア

「だから?」


恒一

「だから!?」


ミリアは立ち上がった。


ミリア

「今の竜のしっぽ亭は残す」

「入口も残す!」

「厨房も残す!!」

「常連席も残す!!!」


ガロン

「何言ってんだァ?当たり前だろぉ!?」


ミリア

「その代わり」

「蒼星館を解体」


ガロン

「待て!何故そうなる!?」


ミリア

「土地を統合」


ガロン

「だから待て!」


ミリア

「大型宿泊棟」


ガロン

「話しをきけぇ!」


ミリア

「竜専用入口」


レヴ

『採用』


ガロン

「お前は黙れぇ!!」


ミリア

「大型竜テラス」


レヴ

『それも採用』


ミリア

「地下訓練施設」


ガロン

「増えた!?」


ミリア

「地下会議室」

「飛行竜発着場」


恒一

「増えてる増えてる」


ミリア

「竜も入れる大型浴場」


レヴ

『即採用』


ミリア

「肉料理専門フロア」


レヴ

『最優先で採用!決定!!』


恒一

「お前どんな立場なの?」


バルドが腕を組む。


商人の顔になる。


バルド

「競走場近接」

「宿泊施設」

「竜設備」

「イベント運営」


ミリア

「物販」


バルド

「良いですね」


ミリア

「竜グッズ」


バルド

「良いですね!」


ミリア

「騎手トークショー」


バルド

「良いですね!!」


ガロン

「親子で盛り上がるな!!」


ミリア

「地下二階」


ガロン

「勝手に増やすな!!」


ミリア

「最新魔導設備」

「宿泊棟は別館方式」


バルド

「素晴らしいですね!!!」


ガロン

「増えるなぁぁぁぁぁ!!」


バルド

「面白い...」


ガロン

「おい」


バルド

「非常に面白い......」


ガロン

「おい」


ガロンが必死に止ようとする中バルドは目を輝かせて。


バルド

「採用です」


恒一

「早っ!?」


ミリア

「決まりね!!!」


ガロン

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」


ガロンが店中に響き渡る声で叫ぶ。


ガロン

「俺の店ぇぇぇぇぇぇ!!」


その時。


店の裏手口の扉が開いた。


フェルド

『邪魔する』


恒一

「いつからいたんだ?」


フェルド

『今来た』


状況を見る。


ミリア。


バルド。


絶叫するガロン。


数秒。


フェルド

『……またか』


フェルドは呆れたように首を振りミリアを見る。


ミリア

「何よ?失礼ね」


よくわからず一頭だけこの状況を楽しんで

尻尾を振るレヴナント。


レヴ

『面白いな』


ガロン

「面白くねぇぇぇぇぇ!!」


ランキング戦まで残り三ヶ月。


ガロンの小さな夢はクロムウェル親子によって

王都最大級の計画へと変わってしまった。


― 第六十二話 終 ―

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