第五十八話 絶望の再来
恒一は朝から機嫌が良かった。
ガロンの宿屋にあるテラス席のテーブルの上には
ずっしりと重い賞金袋。
昨日受け取ったばかりの金貨が入っている。
恒一
「いいなぁ」
袋を持ち上げる。
ジャラッ。
心地良い音が響く。
恒一
「実にいい」
レヴ
『昨日からそればかりだな』
恒一
「だって金だぞ?」
レヴ
『そうだな』
恒一
「しかも俺が稼いだ金だぞ?」
レヴ
『そうだな』
恒一
「しばらく働かなくても――」
レヴ
『無理だな』
恒一
「なんでだよ?こんなにあるんだぞ?」
その時だった。
ドサッ。
目の前に紙の束が置かれる。
恒一が見上げるとそこにはレオンが立っていた。
恒一
「何これ?」
レオン
「請求書だ」
恒一
「嫌な予感しかしない...」
レオン
「正解だ」
恒一は恐る恐る見る。
レヴナント飼育費。
訓練費。
E級登録費。
装備費。
治療積立金。
各種維持費。
恒一
「……」
レオン
「……」
恒一
「高くない?」
レオン
「普通だ」
恒一
「嘘つけ!」
レオン
「今まで立て替えていた分だ」
恒一
「聞いてない!!」
レオン
「言ってない」
恒一
「最悪だぁぁぁぁ!!!」
レヴ
『高いな』
恒一
「お前のせいだからな!?」
レヴ
『そうか』
恒一
「他人事か!」
レオン
「合計は最後のページだ」
恒一は最後のページを見る。
そして。
固まった。
恒一
「高ぇぇぇぇぇ!!」
宿屋に叫び声が響く。
その時。
ドサッ。
さらにテーブルの上に紙束が置かれた。
恒一
「……何?」
今度はガロンだった。
ガロン
「請求書だ」
恒一
「またぁ!?」
ガロン
「ああ」
恒一
「何の金だよ!」
ガロン
「祝勝会」
恒一
「は?」
ガロン
「祝勝会費用」
恒一
「俺の?」
ガロン
「お前の」
恒一
「高くない?」
ガロン
「安いぞ」
恒一
「絶対嘘だ!」
ガロン
「ちなみに追加がある」
恒一
「嫌だぁぁぁぁ!!」
ガロン
「見るんだ」
恒一
「絶対に見ない!!」
ガロン
「見るんだ」
恒一
「はい……」
恒一は仕方なく請求書の束を見る。
数秒後。
恒一
「何でだぁぁぁぁぁ!!」
ガロン
「うるさい」
恒一
「ボルグとアイアンシェルの分入ってるじゃねぇか!!」
ガロン
「入ってるな」
恒一
「何で!?」
ガロン
「祝勝会だからな」
恒一
「俺のだろ!?」
ガロン
「主役だったからな」
恒一
「そんなルール初めて聞いた!!」
ガロン
「今決めた」
恒一
「最悪だ!!」
そこへ。
ミリアが入って来た。
フェルドもいる。
ミリア
「朝から騒がしいわね」
恒一
「だって見ろよこれぇぇぇ!」
請求書を押し付ける。
ミリアは眺める。
そして。
吹き出した。
ミリア
「アハハハ!」
恒一
「笑うな!!」
ミリア
「無理」
フェルド
『破産か』
恒一
「縁起でもない事言うな!」
レオン
「まだ破産ではない」
恒一
「まだ?」
レオン
「まだだ」
恒一
「その言い方やめろ...」
ガロン
「計算してみろ」
恒一は賞金袋を見る。
請求書を見る。
また賞金袋を見る。
そして。
計算する。
沈黙。
さらに計算する。
もう一度計算する。
恒一
「……」
レヴ
『どうした』
恒一
「三分の一しか残らない」
レヴ
『残るだけマシだな』
恒一
「誰のせいだと思ってる」
レヴ
『レオンとガロン』
レオン
「違う」
ガロン
「違う」
恒一
「そこだけ息合うな!!」
店内は爆笑に包まれた。
その時だった。
宿屋の入口の扉が開く。
入って来たのは。
ゼノスだった。
恒一
「何でいるんだよ」
ゼノス
「暇だった!」
恒一
「帰れ!」
ゼノス
「断る!」
宿屋の裏手口には巨大な影。
アイアンシェルとボルグがいた。
恒一
「何でお前らまでいるんだ!?」
ボルグ
「ガロンに呼ばれた」
ガロン
「ああ」
恒一
「何でだよ!」
ガロン
「客だからな」
アイアンシェル
『肉はあるか』
レヴ
『俺も食う』
フェルド
『私はサラダだ』
恒一
「増えるな!」
ガロンはニヤリと笑う。
ガロン
「安心しろ」
恒一
「おう」
ガロン
「今回は請求しない」
恒一
「当たり前だ!!」
店内が笑いに包まれる。
その中で。
ゼノスがふと思い出したように口を開く。
ゼノス
「そういや」
恒一
「何だ」
ゼノス
「来週のE級ランキング戦」
「俺と当たるぞ」
一瞬。
店内が静まる。
恒一
「……は?」
レオン
「そうだったな」
ミリア
「そう言えば、決まってたわね」
恒一
「初耳なんだけど!?」
ゼノスは豪快に笑う。
ゼノス
「楽しみにしてるぞ!!」
レヴも笑った。
レヴ
『面白い』
恒一だけが頭を抱えた。
せっかく残った賞金。
そして平穏。
その両方が。
また遠ざかっていく気がした。
― 第五十八話 終 ―




