第五十七話 もう一人の王者
祝勝会から一夜明けたガロンの宿屋。
恒一は眠そうな顔で食堂へ降りてきた。
そして。
思わず吹き出した。
恒一
「何してんだ!?」
食堂のテーブルに突っ伏している男がいた。
ボルグだった。
ボルグ
「頭が痛い……」
恒一
「二日酔いかよ」
ボルグ
「ぐっ気持ち悪い...」
テラス側から。
アイアンシェルの声が聞こえる。
アイアンシェル
『すまない。酒を呑むと毎回こうなのだ』
ボルグ
「余計なことを言うな.....」
アイアンシェル
『事実だ』
レヴ
『面白い』
そう言って、レヴナントは面白そうにボルグを眺める。
ボルグ
「.....」
恒一達が朝食を終えた後、まだ自分で歩けないボルグを
アイアンシェルが背中に乗せ恒一達と競竜協会へ向かう。
協会前では、既にミリアとフェルドが待っていた。
ミリア
「いつまで待たせる気なのよ?」
恒一
「今来たところだ」
ミリア
「そういう言い訳は聞き飽きたわ」
フェルド
『二日酔いを見ていたから遅れたのか?』
恒一はボルグとアイアンシェルを見る。
ボルグ
「……」
アイアンシェル
『……』
恒一
「まぁ、それもある」
ミリアとフェルドが呆れた目でボルグを見つめる。
そこにレオンが合流。
レオン
「いつまでふざけている。さっさと入るぞ」
そう言われ全員で協会へ入ると、周囲の視線が集まった。
「あいつだ」
「レヴナントの騎手」
「昨日の勝者だ」
「アイアンシェルに勝った」
恒一
「見られてるな」
ミリア
「当然でしょ」
レオン
「もう無名ではない」
受付へ向かう。
職員が笑顔で書類を差し出した。
職員
「E級初勝利おめでとうございます!」
恒一
「あ、ありがとうございます」
職員
「こちら賞金になります」
革袋が渡される。
ずしりと重い。
恒一
「重っ!?」
職員
「優勝賞金です」
恒一は袋を開く。
金貨がぎっしり詰まっていた。
恒一
「こんなに貰えるのか!?」
ミリア
「E級だもの」
レオン
「妥当だ」
恒一
「金持ちじゃん!」
浮かれる恒一見たレオンが何か考えたように。
レオン
「ふむ...気のせいだ」
恒一
「何でだよ?」
職員はさらに資料を差し出した。
職員
「ランキング更新です」
恒一は紙を見る。
そこには。
E級ランキング。
一位 ボルグ&アイアンシェル
一位 ゼノス&グランヴァルド
三位 ミリア&フェルド
八位 恒一&レヴナント
恒一
「八位!?」
ミリア
「初戦でそこまで上がるの?」
レオン
「異例だな」
恒一
「というか」
「一位が二人いるんだけど?」
レオン
「そうだな」
恒一
「同率?」
レオン
「同率だ」
恒一
「何で?」
レオン
「決着が付いていない」
恒一
「は?」
レオン
「何度も戦って」
「全て引き分けだ」
恒一
「そんな事ある?」
レオン
「ある」
その時だった。
協会の入口が開く。
周囲がざわつく。
「あいつだ」
「帰って来たぞ」
「同率一位だ」
空気が変わる。
赤髪の男が入って来た。
大柄。
背中には大剣。
そして。
豪快な笑み。
男は真っ直ぐ恒一達へ向かって来る。
男
「お前か!」
恒一
「?」
男
「レヴナントの騎手ってのは!」
恒一
「そうだけど?」
男
「面白かったぞ!!」
恒一
「は?」
男
「昨日のレースだ!!」
男
「最高だった!!」
周囲が苦笑する。
ボルグがよく言うため息と同じような顔をレオンがしていた。
男
「特に最後!」
男
「アイアンシェル抜いた所最高だった!!」
ボルグの声が後ろから聞こえる。
ボルグ
「騒がしいぞ」
恒一
「何処に行ってたんだ?」
ボルグ
「...トイレだ」
アイアンシェル
『...水浴びだ』
何があったのか察した恒一はアイアンシェルを見て。
恒一
「災難だったな」
ボルグ
「.....」
アイアンシェル
『気にするな。いつものことだ』
男は豪快に笑う。
男
「相変わらずだな!」
レオンが小さく呟いた。
レオン
「ゼノス」
恒一
「ゼノス?」
男は胸を張る。
ゼノス
「E級一位!E級の王者だ!」
レヴを見る。
レヴも見返す。
しばらく沈黙。
そして。
ゼノスが笑う。
ゼノス
「いい目してるな」
レヴ
『お前もな』
ゼノス
「気に入った!」
恒一
「勝手に気に入るな」
ゼノス
「無理だ!」
その時。
協会の外から重い足音が響いた。
ドン。
ドン。
ドン。
巨大な黒竜が姿を現す。
全身を覆う黒い鱗。
鋭い金色の瞳。
圧倒的な存在感。
恒一の神眼が発動した。
【グランヴァルド】
速度:A
持久力:A
飛行適性:A
魔力量:A
特殊能力:???
続いて。
【ゼノス】
魔力量:A
特殊能力:???
恒一
(強い……)
レヴが笑った。
レヴ
『面白い』
グランヴァルド
『同感だ』
ゼノスは豪快に指を突き付ける。
ゼノス
「次は俺だ!」
恒一
「いきなりだな!」
ゼノス
「強い奴と走りたい!」
ボルグ
「相変わらずだな」
ゼノス
「当たり前だ!お前との決着もつけねぇとな!」
ボルグ
「いつでも相手になってやる」
ゼノス
「次のレースはたのしくなりそうだなぁ!」
「行くぞ!グランヴァルド!!」
そう言って、豪快に笑いながらゼノス達は去っていった。
恒一とレヴナントはゼノス達の後ろ姿を見つめながら
さらに厳しいレースを予感させていた。
E級は終わらない。
むしろ、ここからが本番だ。
協会からの帰り道、恒一は賞金袋を握って考える。
ずっしりと重い...
恒一
「よっしゃ!」
「しばらく金には困らないな!」
浮かれた恒一を見てもレオンは何も言わなかった。
ただ。
少しだけ目を逸らした。
― 第五十七話 終 ―




