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第五十六話 勝利の宴

その日の夜。


ガロンの宿屋は、かつてないほど賑わっていた。


「乾杯だー!!」


「レヴナント万歳!!」


「E級王者を倒しやがった!!」


「今日は朝まで飲むぞ!!」


店内は熱気に包まれていた。


恒一は常連達に囲まれている。


常連A

「勝ったな!」


常連B

「最後の追い込み見たか!?」


常連C

「鳥肌立ったぞ!」


恒一

「俺もまだ信じられないよ」


大型開閉扉の向こう。


拡張されたテラスでは。


レヴが巨大な肉を頬張っていた。


レヴ

『当然の結果だ』


恒一

「お前は初めから信じてたなぁ」


レヴ

『勝つと言った』


恒一

「どこからその自信が来るんだよ...」


店内に笑いが起きる。


その隣では。


フェルドが山盛りのサラダを食べていた。


フェルド

『相変わらず美味い』


ミリア

「それ何皿目?」


フェルド

『数えていない』


ミリア

「でしょうねぇ」


レオンは少し離れた席で酒を飲んでいた。


珍しく穏やかな顔だった。


その時だった。


常連Aが突然立ち上がる。


常連A

「待て」


常連B

「ん?」


常連A

「今気付いたんだがな」


常連C

「俺もだ」


全員の視線がテラスへ向く。


レヴ。


フェルド。


そして空いている一席。


常連A

「一着」


常連B

「二着」


常連C

「三着がいねぇな」


恒一

「何言ってるんだ?いるわけないだろ」


その瞬間。


宿屋の扉が開いた。


店内が静まり返る。


そこに立っていたのは。


ボルグだった。


ボルグ

「すまない」


恒一

「ボルグ?」


ボルグ

「祝勝会をしてるとは知らず...」

「邪魔をするつもりはない」

「食事をしようと思って来たが改めて来よう」


常連達がざわつく。


だが。


ガロンは気にした様子もない。


ガロン

「気にするな」

「一緒に食ってけよ」

「今日は祝いの日だ」

「勝った奴も負けた奴も関係ねぇ」


ボルグは小さく頭を下げた。


そして。


周囲を見回す。


ボルグ

「一つ聞きたい」


ガロン

「何だ」


ボルグ

「竜も入れると聞いたんだが」


ガロン

「ああ?」


ガロンは少し考えてから。


ガロン

「裏手から回ってくれ、竜用の入口がある」


ボルグ

「いいのか?」


ガロン

「いいも何も、そのために作ったんだ」

「うちでは竜も立派な客だからな」


ボルグ

「……助かる」


しばらくして。


テラス側の大型開閉扉が開く。


ドン。


ドン。


ドン。


重い足音が響く。


アイアンシェルだった。


アイアンシェル

『ここか』


ボルグ

「ああ」


レヴが顔を上げる。


レヴ

『何しに来た』


アイアンシェル

『竜が入れる店と噂になっていたのでな』

『少し興味があった』


フェルド

『確かに珍しい』


アイアンシェル

『竜が食事出来る店は少ない』


ガロン

「当たり前だ」

「お前さんも立派な客だからな」


アイアンシェル

『そうか』


ガロン

「まぁとにかく座れ、何を食うんだ?」


アイアンシェル

『肉はあるか』


ガロン

「あぁ、とびきり美味い肉があるぞ」


アイアンシェル

『なら問題ない』


レヴ

『俺も肉だ』


フェルド

『私はサラダだ』


アイアンシェル

『草ばかり食っているな』


フェルド

『ふん、健康的と言え』


レヴ

『肉の方が美味い』


フェルド

『否定はしない』


恒一

「仲良いなお前ら」


レヴ

『違う』


フェルド

『違う』


アイアンシェル

『違う』


店内は爆笑に包まれた。


そして。


数秒後。


常連達が固まる。


常連A

「待て」


常連B

「待て待て!」


常連C

「今度こそ揃ったぞ!!!」


テラスを見る。


レヴ。


フェルド。


アイアンシェル。


常連A

「一着」


常連B

「二着」


常連C

「三着」


全員

「揃ってるじゃねぇか!!」


店内が爆発した。


常連A

「今日のレース再現するぞ!」


常連B

「俺アイアンシェル役!」


常連C

「俺実況!」


実況役

「アイアンシェル先頭ォォォ!!」


常連B

「ガオー!!」


恒一

「何やってんだお前らぁ!?」


実況役

「残り百メートル!!」


実況役

「レヴナントだァァァ!!」


店内

「うおおおおおお!!」


恒一

「酔っ払いしかいねぇ......」


すると。


常連Bが突然叫んだ。


常連B

「くそぉぉぉ!!」


恒一

「何だよ?」


常連B

「お前が勝ったせいだ!!」


恒一

「は?」


常連B

「アイアンシェル単勝に全額いったんだぞ!!」


恒一

「知らねぇよ!」


常連A

「俺もだ!!」


常連C

「三連単アイアンシェル固定だった!!」


恒一

「俺のせい!?」


常連全員

「お前のせいだ!!」


恒一

「理不尽すぎる!!」


ガロン

「ちなみに俺は複勝取った」


そういうと、ガロンはニヤニヤと常連達を眺めた。


一瞬。


店内が静まる。


そして。


常連全員

「裏切り者ォォォ!!」


ガロン

「何でだ!?」


常連A

「アイアンシェル本命だったんだろ!?」


常連B

「夢を見ろ!!」


常連C

「保険かけるな!!」


恒一

「いや待て」


ガロン

「何だ?」


恒一

「単勝じゃないのかよ!?」


ガロン

「ボルグが本命だったからなぁ」


恒一

「そこは俺に賭けろよ!!」


ガロン

「だから複勝で賭けただろぉ!」


恒一

「保険かけてんじゃねぇ!!」


常連達

「裏切り者ォォォ!!」


ガロン

「うるせぇ!勝負と商売は別だ!!」


レオン

「正しいな」


恒一

「正しいのかよ!」


ミリア

「あら?レオンもレヴの複勝買ってたわよね?」


レオン

「当然だ」


恒一

「お前も複勝かよ!?味方がいねぇ!!」


店内は大爆笑に包まれた。


さらに時間が過ぎる。


ボルグの前に酒が置かれる。


ボルグ

「……少しだけだ」


そして。


三十分後。


ボルグ

「良かったぞォォォ!!」


恒一

「誰!?」


ボルグ

「最後の差しは素晴らしかったァァァ!!」


恒一

「近い近い近い!」


ボルグ

「競走とはァァァ!!」


ボルグ

「最後まで諦めぬ心だァァァ!!」


ミリア

「うるさい!」


レオン

「酔ったな」


ガロン

「あぁ酔ったな」


その時だった。


テラス側から。


低い声が聞こえた。


アイアンシェル

『すまない...』


恒一

「ん?」


アイアンシェル

『ボルグは酒が入るとこうなる』


フェルド

『毎回か?』


アイアンシェル

『毎回だ』


レヴ

『大変だなぁ』


アイアンシェル

『普段は静かなのだがな』


店内では。


ボルグ

「恒一ィィィ!!」


恒一

「うわ来た!!」


ボルグ

「次も全力で来いィィィ!!」


恒一

「分かったから離れろ!」


フェルド

『本当に大変そうだな』


レヴ

『ああ......』


アイアンシェルは少し考える。


そして。


アイアンシェル

『お互いにな』


レヴ

『違いない』


フェルド

『否定出来ん』


三頭は静かに食事を続ける。


店内では。


ボルグ

「競走とは魂だァァァ!!」


恒一

「誰か止めてくれ!!」


笑い声が絶えない。


祝勝会の夜は、まだ終わりそうになかった。


― 第五十六話 終 ―

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