第五十三話 E級初戦
早朝。
ガロンの宿屋。
昨夜の壮行会が嘘のように静かだった。
恒一は眠そうな顔で食堂へ降りる。
そして。
思わず足を止めた。
恒一
「早いな……」
既に全員揃っていた。
レオン。
ミリア。
そして。
大型開閉扉の向こう。
拡張されたテラスでは。
レヴとフェルドが朝食中だった。
恒一
「お前ら朝から食ってるな」
レヴ
『当たり前だ』
フェルド
『レース前だからな』
恒一
「緊張とか無いのか」
レヴ
『何故だ』
フェルド
『勝つために来た』
恒一
「頼もしいな……」
ミリアが笑う。
ミリア
「緊張してるの?」
恒一
「少しな」
ミリア
「私は楽しみだけど」
恒一
「お前はそうだろうな」
ミリア
「E級初戦なんて一回しかないもの」
恒一
「それはそうか」
その時。
厨房からガロンが出てきた。
大皿を持っている。
ガロン
「ほら、これを食え」
目の前に置かれたのは。
分厚く切られたステーキ。
付け合せのマッシュポテト。
パン。
野菜スープ。
朝から豪華だった。
恒一
「多くない?」
ガロン
「これくらい、少ないくらいだ」
恒一
「食欲無いんだけど」
ガロン
「食え」
レオン
「食べろ」
ミリア
「食べなさい」
レヴ
『食え』
フェルド
『食え』
恒一
「圧が強い...」
ミリアが吹き出した。
結局。
恒一は全員に見張られながら朝食を食べた。
食事が終わる。
しばらくして。
出発の時間になった。
レヴが立ち上がる。
フェルドも続く。
テラスの空気が少し変わる。
もう。
遊びではない。
レースだ。
恒一
「行くか!」
レヴ
『ああ』
フェルド
『うむ、行こう』
ミリア
「負けないわよ!!」
恒一
「こっちの台詞だよ」
ガロンは腕を組んだまま見ていた。
恒一
「店長」
ガロン
「何だぁ?」
恒一
「行ってくる」
ガロン
「おう」
少しだけ沈黙が流れる。
そして。
ガロンはいつもの調子で豪快な笑顔で言った。
ガロン
「楽しんでこい!」
恒一
「……ああ」
レヴ
『勝つ』
ガロン
「それでいい」
宿屋を出る。
後ろを振り返ると。
ガロンが手を上げていた。
レオンが歩き出す。
ミリアも続く。
そして。
E級競竜場。
会場へ近付くにつれ。
人の数が増えていく。
新人戦とは比べ物にならない。
歓声。
熱気。
ブックメーカー。
露店。
そして。
巨大な競竜場。
恒一
「すげぇ……」
ミリア
「これがE級よ」
恒一
「新人戦の倍はいるな」
レオン
「それだけ注目度が高い証拠だ」
入口を抜ける。
その時だった。
巨大なオッズ掲示板が目に入る。
一番人気。
ボルグ&アイアンシェル。
単勝一・八倍。
圧倒的人気。
恒一
「うわぁ……」
ミリア
「まぁ当然ね」
その下に。
フェルド。
そして。
レヴの名前。
恒一
「俺達は六番人気か」
ミリア
「妥当じゃない?」
恒一
「ひどくない?」
レヴ
『問題ない』
恒一
「お前は気にしないよなぁ」
その時。
周囲がざわついた。
「あいつだ」
「ボルグだ」
「今日も勝つだろ」
人混みが割れる。
そこを歩いて来たのは。
大柄な男。
ボルグだった。
その後ろには。
巨大な地竜。
アイアンシェル。
重い足音が響く。
ドン。
ドン。
ドン。
周囲の空気が変わる。
恒一は思わず息を飲んだ。
ボルグが止まる。
そして。
恒一達を見る。
ボルグ
「来たか」
恒一
「ああ」
ボルグ
「逃げるなよ」
恒一
「そっちこそ」
ボルグの口元がわずかに上がった。
アイアンシェルがレヴを見る。
アイアンシェル
『来い』
レヴ
『言われなくても』
短いやり取り。
だが。
十分だった。
レース前控室への案内が始まる。
出走者達が集まっていく。
恒一はレヴの首筋を軽く叩いた。
恒一
「よし!行くぞ、レヴ!!」
レヴ
『ああ』
E級初戦。
ついに始まる。
― 第五十三話 終 ―




