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第五十二話 壮行会

E級初戦まで。


あと一日。


夜。


恒一は訓練を終え。


ガロンの宿屋へ戻ってきた。


店の扉を開けた瞬間。


歓声が上がる。


「おおーっ!」


恒一

「何だこれ」


ガロン

「お前達の壮行会だ!」


恒一

「聞いてないんだけど...」


ガロン

「今言った!!」


恒一

「雑!」


店内には常連達が集まり。


料理と酒が並んでいた。


常連A

「主役が来たぞ!」


常連B

「明日はいよいよ初戦だな!」


恒一

「ありがとう。でもレオンさんとレヴも呼んで来ないと」


ガロン

「必要ない。もう呼んである」


恒一

「どこに?」


ガロンはニヤリと笑い。


壁際のスイッチを押した。


次の瞬間。


ゴゴゴゴゴ……


店の奥にある大型開閉扉が動き出す。


恒一

「え?」


扉が開く。


その先には。


レオン。


ミリア。


レヴ。


フェルド。


そして。


見覚えのあるテラス。


だが。


以前より明らかに広い。


恒一

「何だこれ!?」


新人戦後。


レヴのために改築したテラス。


元々は宿屋の裏庭だった場所だ。


しかし今は。


隣の空き地まで繋がり。


大型竜が三頭いても余裕がある。


恒一

「広くなってる……」


ガロン

「拡張した」


ミリア

「私の提案よ」


恒一

「あの空き地の話か」


ガロン

「そうだ」


恒一

「でも土地代高かっただろ?」


ガロン

「普通なら買ってない」


そう言うと。


ガロンはミリアを指差した。


ガロン

「ミリアが協力してくれてな」


ミリア

「少し交渉を手伝っただけよ」


ガロン

「少しじゃない!半額近くまで下げただろ!?」


ガロンは顔に冷や汗を浮かべながら、何かを思い出した様子でミリアに言い返す。


恒一

「何したんだ……」


ミリア

「企業秘密」


豪商の娘は伊達ではないらしい。


ガロン

「まぁ何にせよ。これで三頭まで竜を入れられるぞ!」


フェルド

『快適だ』


レヴ

『悪くない』


恒一

「お前らもう馴染んでるな」


壮行会はそのまま続く。


話題は当然。


明日のレースだった。


常連A

「でも相手ボルグだろ?」


常連B

「《鉄壁》は強いぞ」


恒一

「やっぱ有名なんだな」


ガロン

「有名だぞ。E級じゃ知らん奴はいない」


恒一

「そんなレベルか」


ガロン

「勝率八割三分だ。ちなみに俺なら絶対に賭ける」


恒一

「誰に?」


ガロン

「ボルグ」


ガロンは何をあたり前のことを?といった口調で返す。


恒一

「このクソ店長ぉ!!」


店内は爆笑に包まれた。


だが。


笑いながらも。


誰もがボルグの強さを知っていた。


恒一

「勝てる気がしねぇ……」


ミリア

「前を取られたら終わりね」


恒一

「そう。前を取られたら終わり」


ガロンは酒を飲みながら言った。


ガロン

「後ろから大外回って差せばいいだろ」


恒一

「……」


恒一はガロンの言葉を聞いて一瞬、思考が停止した。


ガロン

「ん?」


恒一

「もう一回」


ガロン

「後ろから大外回って差せばいいだろ」


その横で。


レオンが腕を組む。


レオン

「可能性はあるな。正面から行けば勝てん」


恒一

「じゃあ!!」


レオン

「だがレヴにそこまでの脚があるか……」


レヴ

『ある』


即答だった。


レオン

「自信だけはあるな」


レヴ

『当然だ』


その瞬間。


恒一の中で何かが繋がった。


前で戦う必要はない。


最後に全部抜けばいい。


レヴの加速なら。


届くかもしれない。


恒一

「勝てるかもしれない」


レヴ

『当然だ』


その時だった。


常連A

「景気付けに追加注文だ!」


常連B

「唐揚げ三皿!」


常連C

「ソーセージ追加!」


恒一

「盛り上がってるなぁ」


常連A

「恒一」


恒一

「ん?」


常連A

「お前が作れ」


恒一

「は?」


ガロン

「聞こえなかったか? お前が作れ」


恒一

「いや俺明日レースなんだけど!?」


ガロン

「だから何だ」


恒一

「だから何だじゃねぇ!」


レオン

「働け」


ミリア

「働きなさい」


恒一

「お前らもか!」


その時。


レヴが前足を上げた。


レヴ

『こっちも肉追加』


恒一

「は?」


レヴ

『肉を追加しろ』


それを見たフェルドも皿を前に出して。


フェルド

『サラダも頼む。山盛りで』


恒一

「お前まで!?」


レヴ

『明日はレースだ』


フェルド

『栄養補給は大事だ』


恒一

「お前らなぁ...俺も明日は出場するんだよぉ!!」


レオン

「栄養補給は大切だな」


ミリア

「当然ね」


ガロン

「食わなきゃ走れねぇ」


恒一

「味方がいねぇ!!」


店内は爆笑に包まれた。


数分後。


厨房。


恒一

「何で自分の壮行会で働いてるんだよ……」


ガロン

「従業員だからな」


恒一

「ブラックだ……」


宴会は続く。


ガロンは酒を飲みながら。


忙しく働く恒一を見る。


そして。


ニヤリと笑った。


ガロン

(まぁボルグ本命は変わらんが、あいつらの複勝くらいは買っとくか。面白そうだからな)


E級初戦まで。


あと一日。


挑戦者達の夜は更けていった。


― 第五十二話 終 ―

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