第五十一話 勝ち筋
共同調整日の翌日。
恒一は訓練場の柵にもたれながら空を見上げていた。
恒一
「無理だろ」
レヴ
『何がだ』
恒一
「ボルグだよ」
恒一
「あれどうやって勝つんだ」
昨日の模擬走行を思い出す。
アイアンシェルは速くない。
だが。
抜けない。
近付けない。
前を取られたら終わり。
そんな走りだった。
レヴ
『勝てばいい』
恒一
「簡単に言うな」
レヴ
『簡単だ』
恒一
「どこがだよ」
レヴ
『先に前へ出る』
恒一
「出られたら苦労しないんだよ」
その時だった。
レオンが現れる。
レオン
「なら考えろ」
恒一
「出たな丸投げ師匠」
レオン
「考えるのも竜騎手の仕事だ」
恒一
「それはそうなんですけどね」
レオンは柵へ腰を下ろした。
珍しい。
説教ではないらしい。
レオン
「昨日見ただろ」
恒一
「ああ」
レオン
「どう思った」
恒一
「嫌な相手」
レオン
「それだけか」
恒一
「速くない」
レオン
「そうだ」
恒一
「でも抜けない」
レオン
「それも正解だ」
レオンは頷いた。
レオン
「ボルグは速さで勝つ騎手じゃない」
レオン
「位置取りで勝つ」
恒一
「やっぱりか」
レオン
「だから正面から行けば負ける」
恒一
「でしょうね」
レオン
「勝ちたいなら別の方法を考えろ」
恒一
「その方法が分からないんですよ」
レオン
「だから考えろ」
恒一
「丸投げじゃねぇか!」
レヴ
『丸投げだな』
レオン
「うるさい」
その時。
聞き慣れた声が響く。
ミリア
「朝から騒がしいわね」
恒一
「来たな」
ミリア
「何よその言い方」
フェルドも後ろから歩いてくる。
ミリアは恒一の隣へ腰掛けた。
ミリア
「何の話?」
恒一
「ボルグ攻略」
ミリア
「ああ」
ミリア
「無理ね」
恒一
「即答!?」
ミリア
「だって勝った事ないもの」
恒一
「お前でもか」
ミリア
「二着なら何回かあるけど」
恒一
「それ十分凄いだろ」
ミリア
「悔しいわよ」
ミリアは不満そうに頬を膨らませた。
レオン
「フェルドでも抜けんか」
ミリア
「抜けない」
ミリア
「前を取られると終わり」
恒一
「やっぱりか」
レヴ
『なら前を取ればいい』
ミリア
「それも難しいのよ」
レヴ
『何故だ』
ミリア
「アイアンシェルはスタートが上手い」
ミリア
「ボルグも上手い」
ミリア
「だから先手を取られる」
恒一
「完成されてるな」
ミリア
「そういう事」
しばらく沈黙が流れる。
勝ち筋が見えない。
その時だった。
恒一は昨日見た神眼の情報を思い出す。
【アイアンシェル】
特殊能力:
重装甲
恒一
(重装甲……)
昨日は気にしていなかった。
だが。
今になって引っ掛かる。
重装甲。
装甲。
恒一
(待てよ)
恒一
(装甲って事は……)
恒一
(装甲じゃない場所もあるのか?)
レオン
「どうした」
恒一
「いや」
恒一
「ちょっと気になる事があって」
レオン
「言ってみろ」
恒一は少し考える。
まだ確信はない。
だが。
何かが引っ掛かっていた。
アイアンシェルは強い。
それは間違いない。
だが。
本当に弱点が無いのか。
恒一
(そんな訳ないよな)
どんな相手にも弱点はある。
新人戦で学んだ事だった。
ボルグにも。
アイアンシェルにも。
きっとある。
恒一は立ち上がった。
恒一
「レオンさん」
レオン
「何だ」
恒一
「もう一回走ります」
レオン
「ほう」
恒一
「少し試したい事があります」
レオンの口元がわずかに上がった。
レオン
「なら走れ」
恒一
「はい」
レヴ
『やる気になったな』
恒一
「勝てない相手は嫌いなんだよ」
レヴ
『奇遇だな』
レヴ
『俺もだ』
E級初戦まで。
あと四日。
王者への挑戦は。
もう始まっていた。
― 第五十一話 終 ―




