第五十話 鉄壁
E級初戦まで五日。
恒一は出走表を眺めながら唸っていた。
恒一
「ボルグねぇ……」
昨日から何度も見ている名前。
《鉄壁》ボルグ。
E級王者。
勝率八割三分。
だが。
名前だけでは強さは分からない。
レヴ
『気になるか』
恒一
「そりゃな」
恒一
「初戦の相手だし」
レヴ
『見ればいい』
恒一
「見れるなら見たいけどな」
その時だった。
レオン
「見れるぞ」
恒一
「うおっ」
レオン
「驚くな」
恒一
「急に出てくるからだろ」
レオン
「今日は共同調整日だ」
レオン
「各竜舎が集まる」
恒一
「へぇ」
レオン
「ボルグも来る」
恒一
「マジか」
レオン
「ああ」
レヴ
『丁度いい』
恒一
「お前嬉しそうだな」
レヴ
『強い奴は嫌いではない』
恒一
「競竜脳め」
三人は共同レース場へ向かった。
王都郊外。
複数の竜舎が利用する大規模施設。
既に多くの竜騎手達が集まっていた。
ミリアの姿もある。
フェルドが羽を広げながら待機していた。
ミリア
「来たのね」
恒一
「ボルグ見学にな」
ミリア
「なら丁度いいわ」
恒一は何となく神眼を発動した。
まずはミリアを見る。
【ミリア・クロフト】
種族:人間
状態:正常
総魔力量:1,850
使用可能魔力:1,850
特殊能力:
風感知
竜騎手適性:B+
恒一
(風感知?)
恒一
(空気の流れを読む能力か?)
ミリア
「何ジロジロ見てるのよ」
恒一
「いや別に」
危なかった。
神眼の事は秘密だ。
次にフェルドを見る。
【フェルド】
種族:疾風竜
状態:正常
総魔力量:7,200
使用可能魔力:7,200
速度:B+
持久力:B
魔力操作:B
飛行適性:C
特殊能力:
疾風走行
総合評価:B+
恒一
(やっぱり強いな)
新人戦の頃から分かっていた。
だが。
改めて見るとE級上位の実力が分かる。
その時だった。
周囲がざわつく。
視線が一方向へ集まった。
恒一も振り返る。
そして。
思わず息を呑んだ。
巨大だった。
灰色の鱗。
岩のような体躯。
太い脚。
重厚な首。
翼は無い。
だが。
存在感だけで周囲を圧倒している。
恒一
「でかっ……」
ミリア
「アイアンシェルよ」
レヴ
『重装地竜か』
恒一は神眼を向けた。
【アイアンシェル】
種族:重装地竜
状態:正常
総魔力量:8,500
使用可能魔力:8,500
速度:B
持久力:A+
防御力:A+
魔力操作:C
飛行適性:なし
特殊能力:
重装甲
総合評価:A-
恒一
(硬っ……)
恒一
(しかも魔力量も高い)
普通に強い。
完成された競竜だ。
その隣。
大柄な男が立っていた。
短く刈った黒髪。
鋭い目。
無駄な動きが無い。
《鉄壁》ボルグ。
恒一は神眼を向ける。
【ボルグ】
種族:人間
状態:正常
総魔力量:2,800
使用可能魔力:2,800
特殊能力:
鉄壁
竜騎手適性:A
恒一
(異名じゃなく能力かよ……)
思わず驚く。
レオン
「どうした」
恒一
「いや」
恒一
「何でもない」
当然誤魔化す。
その時。
模擬走行開始の鐘が鳴った。
ボルグとアイアンシェルがコースへ向かう。
レオン
「見ておけ」
レオン
「E級の王だ」
スタート。
アイアンシェルが飛び出す。
速い。
だが。
圧倒的ではない。
恒一
「思ったより普通だな」
ミリア
「よく見なさい」
次の瞬間だった。
アイアンシェルが内へ寄る。
後続の進路を塞ぐ。
一頭が外へ回される。
さらに別の一頭も押し出される。
誰も前へ出られない。
恒一
「うわ……」
レオン
「分かったか」
レオン
「速さじゃない」
レオン
「位置取りだ」
アイアンシェルは前を譲らない。
抜かせない。
近付かせない。
気付けば。
誰も追い付けなくなっていた。
ミリア
「だから《鉄壁》」
恒一
「嫌な相手だな……」
模擬走行はそのまま終了した。
アイアンシェル先頭。
完勝だった。
恒一はふとレヴを見る。
【レヴナント】
種族:飛行竜
状態:封印
総魔力量:1,000,000
使用可能魔力:100
特殊能力:
竜王因子
恒一
(やっぱりおかしい……)
アイアンシェルが8,500。
フェルドが7,200。
それでも十分強い。
だが。
レヴは百万。
桁が違う。
本当に封印されているのだ。
その時だった。
ボルグがこちらへ歩いてくる。
真っ直ぐ。
レヴへ向かって。
足が止まる。
数秒。
沈黙。
ボルグ
「噂の飛べない飛行竜か」
ボルグ
「本当に存在していたとはな」
レヴ
『有名なのか』
ボルグ
「少しな」
ボルグ
「飛べない飛行竜で新人戦を勝った」
ボルグ
「そんな話は聞いた事がない」
レヴ
『そうか』
ボルグ
「だから興味があった」
レヴ
『期待外れだったか?』
ボルグ
「いや」
ボルグ
「面白そうだ」
レヴは小さく鼻を鳴らした。
ボルグ
「初戦」
ボルグ
「楽しみにしている」
恒一
「……ああ」
ボルグ
「全力で来い」
そう言い残し。
ボルグとアイアンシェルは去って行った。
レヴ
『強いな』
恒一
「ああ」
レヴ
『だから勝ちたい』
恒一は苦笑する。
正直。
勝てる気はしない。
だが。
負ける気にもなれなかった。
E級の王者。
《鉄壁》ボルグ。
初戦の壁としては。
これ以上ない相手だった。
― 第五十話 終 ―




