第四十九話 E級初戦の相手
魔力測定から二日後。
恒一は宿屋の食堂でテーブルを拭いていた。
ガロン
「手が止まってるぞ」
恒一
「あ」
恒一
「すみません」
ガロン
「考え事か?」
恒一
「まあ」
ガロン
「レヴの事か」
恒一
「それもあります」
分かった事は多い。
レヴは飛べないのではない。
封印されている。
総魔力量は百万。
だが。
封印の解き方は分からない。
そして。
《龍王因子》
恒一だけが知る言葉。
竜王因子と似ている。
だが意味は分からない。
恒一
(何なんだよ……)
考えても答えは出ない。
今は情報が少なすぎた。
ガロン
「難しい顔してるな」
恒一
「そんな顔してました?」
ガロン
「してる」
ガロン
「若いんだから悩め悩め」
恒一
「ガロンさんも悩むんですか?」
ガロン
「酒代の値上がりには悩む」
恒一
「平和だな」
ガロンは豪快に笑った。
恒一も少しだけ笑う。
考えても仕方ない。
まずは目の前の事だ。
店の準備を終え。
朝の営業を乗り切る。
昼前になる頃には客足も落ち着いていた。
ガロン
「行ってこい」
恒一
「いいんですか?」
ガロン
「初戦が近いんだろ」
ガロン
「負けて帰ってくるなよ」
恒一
「頑張ります」
ガロン
「最初からそう言え」
恒一は苦笑しながら宿屋を出た。
向かう先は流星竜舎。
訓練場へ到着すると。
既にレオンとレヴが待っていた。
レオン
「遅い」
恒一
「昼前です!」
レオン
「俺より後だ」
恒一
「理不尽!」
レオン
「乗れ」
恒一
「話を聞け!」
レオン
「乗れ」
恒一
「はいはい!」
恒一はレヴの背へ飛び乗った。
レヴ
『落ちるなよ』
恒一
「誰のせいで何回落ちたと思ってる」
レヴ
『数えていない』
恒一
「俺は数えてる」
レオン
「走れ!」
レヴは地面を蹴った。
一気に加速する。
恒一は姿勢を低くした。
レオン
「もっと重心を前だ!」
恒一
「これ以上か!?」
レオン
「ボルグ相手に勝ちたければな!」
恒一
「ボルグ?」
レオン
「走りながら考えろ!」
無茶苦茶だった。
訓練は続く。
スタート。
加速。
減速。
コーナリング。
障害物回避。
何度も何度も繰り返す。
レヴの背中の動きも以前より読めるようになってきた。
レオンに怒鳴られる回数も少しだけ減った。
気付けば夕方が近付いていた。
恒一
「もう無理だ……」
レヴから降りた瞬間。
恒一は地面へ倒れ込んだ。
レヴ
『情けないな』
恒一
「お前も疲れろよ」
レヴ
『疲れている』
恒一
「全然見えねぇ」
その時だった。
聞き慣れた声が響く。
ミリア
「情けない顔してるわね」
恒一
「こんにちは」
ミリア
「挨拶だけ元気なのが腹立つわね」
恒一
「何でだよ」
ミリア
「何となく」
相変わらずだった。
ミリアは恒一とレヴを見比べる。
ミリア
「訓練は順調そうね」
恒一
「見ての通りだよ」
ミリア
「確かに」
ミリア
「ボロボロね」
恒一
「否定できない」
ミリアは少し笑った。
そして。
ミリア
「変わったわね」
恒一
「何がだ?」
ミリア
「騎乗姿勢」
ミリア
「前より安定してる」
恒一
「それ褒めてるのか?」
ミリア
「少しだけ」
レオン
「まだ甘いがな」
恒一
「どっちなんだよ」
ミリア
「でも前よりはマシになってるわ」
恒一
「お」
恒一
「珍しく褒めたな」
ミリア
「少しだけよ」
恒一
「今日は雨か?」
ミリア
「殴るわよ」
恒一
「ひでぇ」
だが。
少しだけ嬉しかった。
ミリアがこういう言葉を口にするのは珍しい。
ミリアは小さく咳払いをした。
そして懐から一枚の紙を取り出す。
ミリア
「そういえば」
ミリア
「これ見た?」
恒一
「何だ?」
ミリア
「E級初戦の出走表」
そう言って紙を差し出した。
恒一は受け取る。
そこには出走者の名前が並んでいた。
恒一
「八組か」
ミリア
「その中にボルグがいる」
恒一
「《鉄壁》だっけ」
ミリア
「優勝候補筆頭よ」
恒一
「初戦から当たりが重いな」
ミリア
「それだけじゃないわ」
ミリアは出走表の一箇所を指差した。
ミリア
「ここ」
恒一
「ん?」
そこには見慣れた名前があった。
ミリア・クロフト
恒一
「同じ組だったのか」
ミリア
「今気付いたの?」
恒一
「今見たからな」
ミリア
「言っとくけど」
ミリア
「ボルグより先に私を抜けると思わないで」
恒一
「そっちかよ」
ミリア
「当然でしょ」
レヴが面白そうに鼻を鳴らした。
レヴ
『強いのか』
ミリア
「当たり前よ」
レヴ
『なら勝つ価値がある』
ミリア
「面白い事言うじゃない」
恒一
「いやいや」
恒一
「まず完走を目標にしよう?」
ミリア
「負ける気満々じゃない」
恒一
「現実的なんだよ」
だが。
少しだけ楽しみでもあった。
《鉄壁》のボルグ。
ミリアとフェルド。
強敵がいる。
だからこそ。
勝つ意味がある。
恒一は出走表を見つめた。
E級初戦まで。
あとわずか。
まずは目の前の壁を越える。
全てはそこからだった。
― 第四十九話 終 ―




