第四十三話 違和感
流星竜舎。
恒一とレヴナントは訓練場に立っていた。
今日も飛行訓練。
そして。
今日も飛べる気はあまりしなかった。
恒一
「いや」
恒一
「今日こそ飛ぶ」
レヴナント
『昨日も聞いた』
恒一
「今日は本当だ」
レヴナント
『昨日も聞いた』
レオン
「始めるぞ」
恒一
「無視された」
レヴナントは翼を広げる。
黒い翼が朝日に照らされた。
恒一は手綱を握る。
集中する。
脚ではない。
翼。
必要な場所へ。
必要な分だけ。
魔力を導く。
レヴナントの翼が淡く光る。
恒一
「来た!」
レヴナント
『来ている』
恒一
「よし!」
羽ばたく。
ドンッ!
強い風が巻き起こる。
砂埃が舞う。
だが。
飛ばない。
恒一
「何でだよ!」
レヴナント
『分からん!』
再挑戦。
失敗。
再挑戦。
失敗。
再挑戦。
失敗。
昼になった。
恒一
「おかしいだろ」
レヴナント
『おかしいな』
二人とも同じ結論だった。
翼には魔力が流れている。
羽ばたきも出来る。
なのに飛ばない。
その様子を。
レオンは黙って見ていた。
恒一
「何か分かったか?」
レオン
「分からん」
恒一
「お前が?」
レオン
「ああ」
恒一
「珍しいな」
レオン
「珍しいな」
本人も認めた。
午後。
レオンが言った。
レオン
「貸せ」
恒一
「え?」
レオン
「手綱だ」
恒一は素直に渡した。
レオンはレヴナントの前に立つ。
レヴナント
『珍しいな』
レオン
「黙っていろ」
レヴナント
『はい』
珍しく素直だった。
レオンは目を閉じる。
魔力を流す。
いや。
操る。
長年培った技術。
無駄の無い魔力操作。
レヴナントの翼が光る。
昨日までとは比べ物にならないほど綺麗に。
強く。
深く。
魔力が通る。
恒一
「おお……」
レヴナント
『凄いな』
レオン
「飛べ」
レヴナントは羽ばたく。
ドォッ!!
強風が吹き荒れる。
地面が揺れる。
だが。
飛ばない。
沈黙。
恒一
「……」
レヴナント
『……』
レオン
「……」
恒一
「飛ばないな」
レヴナント
『飛ばんな』
レオン
「飛ばないな」
三人とも同じ感想だった。
レオンは腕を組む。
考える。
飛行竜。
翼あり。
魔力操作可能。
羽ばたき可能。
それなのに。
飛べない。
レオン
「おかしい」
恒一
「何が?」
レオン
「飛行竜なら飛ぶ」
恒一
「……」
レヴナント
『飛ばんぞ』
レオン
「飛ぶはずだ」
その言葉には確信があった。
夕方。
訓練終了。
恒一とレヴナントは竜舎へ戻る。
だが。
レオンだけは残った。
夜。
流星竜舎。
事務室。
机の上には古い書類が並んでいた。
レオンは無言でページをめくる。
レヴナント購入時の資料。
健康診断書。
競走登録情報。
過去の売買記録。
レオン
「……」
一枚の書類で手が止まる。
【飛行能力】
飛行不能
そこまでは知っている。
問題はその下だった。
【原因】
空欄
レオン
「何故だ」
普通なら記載される。
怪我。
先天的異常。
翼の損傷。
筋力不足。
必ず理由がある。
だが。
何も書かれていない。
レオンは別の書類を見る。
そこにも。
理由は無かった。
レオン
「おかしいな」
誰に言うでもなく呟く。
そして。
もう一枚。
購入時の査定資料。
そこには。
【価値評価】
最低ランク
【理由】
飛行不能のため
それだけだった。
レオン
「飛べない理由を誰も知らんのか」
静かな部屋。
窓の外では。
レヴナントが眠っている。
レオンは書類を閉じた。
そして小さく呟く。
レオン
「一度調べる必要があるな」
その目は真剣だった。
飛べない理由。
レヴナントの過去。
そして。
誰かが隠したかもしれない真実。
その全てに。
少しずつ近付き始めていた。
― 第四十三話 終 ―




