第四十二話 翼へ
翌朝。
流星竜舎。
恒一は珍しくやる気に満ちていた。
恒一
「今日はいける気がする」
レオン
「気のせいだ」
恒一
「朝から酷いな」
レオン
「現実だ」
レヴナント
『いつもの事だ』
恒一
「慣れるな」
訓練開始。
まずは脚への魔力操作。
恒一は手綱を握る。
意識する。
流すのではない。
導く。
必要な場所へ。
必要な分だけ。
恒一
「右前脚」
レヴナント
『来た』
恒一
「左前脚」
レヴナント
『来た』
恒一
「後脚」
レヴナント
『来た』
恒一
「よし!」
レヴナント
『昨日より良いな』
レオン
「少しだけな」
恒一
「褒めろよ」
レオン
「調子に乗る」
恒一
「乗らない」
レオン
「乗る」
恒一
「否定できない」
午前中いっぱい。
何度も繰り返した。
失敗もした。
全身へ漏れた。
逆の脚へ流れた。
だが。
昨日とは違う。
確実に上達していた。
昼。
木陰で休憩。
レヴナント
『不思議だな』
恒一
「何が?」
レヴナント
『少ない魔力の方が動きやすい』
恒一
「確かに」
今までは力任せだった。
大量の魔力を流していた。
だが今は違う。
少ない。
細い。
それでも伝わる。
レオン
「だから魔力操作と言う」
恒一
「もっと早く教えろ」
レオン
「考えろと言った」
恒一
「それしか言わないな」
午後。
レオンが言った。
レオン
「次だ」
恒一
「次?」
レオン
「翼だ」
恒一とレヴナントが同時に固まる。
レヴナント
『翼』
恒一
「いよいよか」
飛行。
ずっと目指していたもの。
アレクシス達がいる世界。
D級への条件。
その入口。
レオン
「やれ」
恒一
「説明は?」
レオン
「無い」
恒一
「本当に説明しないな」
レヴナントは翼を広げた。
巨大な黒い翼。
恒一は手綱を握る。
そして。
意識する。
脚ではない。
翼。
ゆっくり。
慎重に。
魔力を送る。
レヴナントの翼が淡く光った。
恒一
「来た!」
レヴナント
『来ている』
恒一
「出来たぞ!」
レオン
「当然だ」
恒一
「少しは褒めろ!」
だが。
次の瞬間。
何も起きなかった。
翼は光っている。
魔力も流れている。
それなのに。
飛ばない。
浮かない。
羽ばたかない。
恒一
「……あれ?」
レヴナント
『……』
恒一
「もう一回」
再挑戦。
翼へ魔力を送る。
光る。
終わる。
恒一
「何でだ?」
レヴナント
『分からん』
三回。
五回。
十回。
結果は同じだった。
レオンも黙って見ている。
恒一
「翼には流れてるよな?」
レヴナント
『流れている』
恒一
「操作も出来てるよな?」
レヴナント
『出来ている』
恒一
「じゃあ何で飛べない」
レヴナント
『分からん』
レヴナントは自分の翼を見る。
何かがおかしい。
そんな感覚だけがあった。
レヴナント
『足りん』
恒一
「何が?」
レヴナント
『分からん』
レヴナント
『だが』
レヴナント
『何かが足りん』
レオンは黙ったままだった。
だが。
その表情は少しだけ険しい。
夕陽が差し込む。
訓練終了。
飛ぶ事は出来なかった。
それでも。
恒一は諦めていなかった。
恒一
「もう少しだ」
レヴナント
『ああ』
恒一
「絶対飛ぶぞ」
レヴナント
『当然だ』
だが。
二人はまだ知らない。
飛行を阻む本当の理由を。
そして。
レヴナントの中に眠る封印の存在を。
― 第四十二話 終 ―




