第三十八話 商人の娘
魔力操作訓練を終えた夕方。
レオン
「今日はここまでだ」
恒一
「疲れた……」
レヴナント
『疲れた』
フェルド
『お前は疲れてないだろ』
レヴナント
『精神的に疲れた』
フェルド
『そうか』
ミリア
「じゃあ帰るわ」
恒一
「帰るのか?」
ミリア
「帰る前にご飯くらい食べるわよ」
恒一
「ガロンの店行くか?」
ミリア
「美味しいの?」
レオン
「それは保証する」
恒一
「珍しく褒めた」
レオン
「飯だけはな」
恒一
「飯だけかよ」
ミリア
「決まりね」
その頃。
レヴナントとフェルドは竜舎で休憩中だった。
レヴナント
『肉は』
フェルド
『無い』
レヴナント
『そうか』
フェルド
『諦めろ』
竜のしっぽ亭。
店内は今日も賑わっていた。
ガロン
「おう」
恒一
「来たぞ」
ガロンはミリアを見る。
ミリアもガロンを見る。
数秒。
ガロン
「初めましてだな」
ミリア
「ミリア・クロムウェルよ」
ガロン
「竜のしっぽ亭店主のガロンだ」
ミリア
「噂は聞いてるわ」
ガロン
「ろくな噂じゃないだろ」
ミリア
「正解」
恒一
「即答だったな」
ガロン
「傷付いたぞ」
全然傷付いていなかった。
料理が運ばれてくる。
ミリアは一口食べる。
そして固まった。
ミリア
「美味しい」
ガロン
「だろう?」
ミリア
「想像以上だった」
ガロン
「もっと褒めろ」
ミリア
「調子に乗るわよ」
ガロン
「もう乗ってる」
レオン
「それはそうだな」
食後。
ミリアは店の裏へ出た。
そこで目に入ったのは。
巨大なテラス席。
レヴナント専用席だった。
ミリア
「へぇ」
恒一
「レヴ専用席」
ミリア
「結構広いわね」
ガロン
「頑張ったからな」
ミリア
「でも一頭しか入れないじゃない」
ガロン
「そうだな」
ミリアは周囲を見渡す。
そして。
隣の空き地を見た。
ミリア
「あそこ空いてるわよね?」
ガロン
「空いてるな」
ミリア
「もったいない」
ガロン
「ん?」
ミリア
「競走場帰りの客が流れて来る立地なのに」
ガロン
「ほう」
ミリア
「席数が足りない」
ガロン
「ほう」
恒一
「何の話?」
レオン
「始まったな」
ミリアは空き地を指差す。
ミリア
「広げればいいじゃない」
ガロン
「高い」
ミリア
「いくら?」
ガロン
「金貨五枚」
ミリア
「安い」
ガロン
「安いな」
恒一
「高いだろ!?」
レオン
「高いな」
恒一
「ほら!」
ミリア
「人気竜が三頭入れる」
ガロン
「入れるな」
ミリア
「竜騎手も増える」
ガロン
「増えるな」
ミリア
「観客も来る」
ガロン
「来るな」
ミリア
「売上は?」
ガロン
「三倍」
ミリア
「最低でも」
ガロン
「五倍もある」
ミリア
「あるわね」
ガロン
「あるな」
二人は真顔だった。
恒一
「怖い」
レオン
「怖いな」
ガロン
「お前」
ガロン
「どこの娘だ?」
ミリア
「クロフト商会」
ガロン
「は?」
レオン
「なるほど」
恒一
「有名なのか?」
ガロン
「王都でも指折りの豪商だ」
恒一
「マジか」
ミリア
「父が商会長」
ガロン
「なるほどな」
ミリア
「何が?」
ガロン
「目の色が同じだ」
ミリア
「どんな目よ」
ガロン
「金貨を見る目だ」
ミリア
「失礼ね」
ガロン
「否定しないのか」
ミリア
「否定できないわね」
恒一
「するんだ」
ガロンは空き地を見つめる。
ガロン
「金貨五枚か……」
ミリア
「交渉すればもっと下がるわ」
ガロン
「下がるか?」
ミリア
「下がる」
ガロン
「ふむ」
ミリア
「壁を抜いて」
ガロン
「うん」
ミリア
「テラスを広げて」
ガロン
「うん」
ミリア
「競走竜向けの宿屋にする」
ガロン
「うん」
ミリア
「儲かる」
ガロン
「儲かるな」
恒一
「意気投合するな」
レオン
「手遅れだな」
帰り際。
ガロン
「ミリア」
ミリア
「何?」
ガロン
「竜騎手辞めたらうち来い」
ミリア
「嫌よ」
ガロン
「即答か」
ミリア
「私ならもっと儲ける」
ガロン
「気に入った」
ミリア
「ありがとう?」
恒一
「褒められてるのかそれ」
レオン
「たぶんな」
夜風が吹く。
ミリアは笑っていた。
ガロンも笑っていた。
どうやら。
二人は妙に気が合ったらしい。
そして恒一は思った。
恒一
(この二人を組ませちゃ駄目な気がする)
そんな予感だけは。
恐ろしいほど当たりそうだった。
― 第三十八話 終 ―




