第三十五話 E級の壁
レオン
「――スタート!」
合図と同時に。
二頭の竜が地面を蹴った。
ドンッ!
レヴナント
『行くぞ!』
フェルド
『負けない』
スタートは互角。
恒一
「よし!」
ミリア
「へぇ」
だが。
ほんの数秒後。
差が出た。
フェルドが前へ出る。
恒一
「速い!」
ミリア
「当たり前よ!」
フェルド
『まだまだ』
レヴナント
『くっ』
差は一竜体。
さらに広がる。
二竜体。
三竜体。
恒一
「何だこれ!」
レオン
「E級だ」
恒一
「そんな馬鹿な!」
レオン
「新人戦とは違う」
レヴナントは必死に追う。
だが。
前を走るフェルドは余裕があった。
無駄が無い。
力みも無い。
一定のリズム。
一定の速度。
まるで完成されていた。
恒一
(速いだけじゃない)
恒一
(走りが綺麗だ)
最初のコーナーへ入る。
そこで差がさらに広がった。
ミリア
「フェルド!」
フェルド
『了解』
滑るように曲がる。
レヴナント
『負けん!』
レヴナントも追う。
だが。
僅かに膨らむ。
その差でまた離される。
恒一
「うわっ!」
レヴナント
『ちっ!』
レオンは腕を組んだ。
レオン
「経験差だな」
恒一
「経験だけでこうなるのか!?」
レオン
「なる」
ガロンなら笑っていただろう。
だが。
今ここにいるのはレオンだけ。
だから現実しか返ってこない。
レースは中盤へ入る。
差は四竜体。
恒一
「レヴ!」
レヴナント
『分かっている!』
レヴナントが加速する。
脚へ魔力を流す。
新人戦で使った加速。
その時だった。
フェルドが振り返った。
フェルド
『良い加速だ』
レヴナント
『当然だ』
フェルド
『だが』
フェルドも加速した。
差が縮まらない。
どころか。
さらに広がる。
恒一
「うそだろ……」
ミリア
「だから言ったでしょ」
恒一
「くっそ腹立つ!」
ミリア
「ありがとう!」
全然褒めていない。
最終コーナー。
差は五竜体。
恒一
「レヴ!」
レヴナント
『まだだ!』
レヴナントの目が変わった。
新人戦の時と同じ。
追い込みの目。
恒一
(来るぞ)
残り四百メートル。
レヴナントが加速する。
一気に追い上げる。
差は四竜体。
三竜体。
二竜体。
レオンの眉が少し動いた。
レオン
「ほう」
残り二百メートル。
さらに詰める。
差は一竜体。
恒一
「行けぇぇぇ!!」
レヴナント
『おおおおお!!』
ミリア
「何よそれ!?」
フェルド
『速いな』
残り百メートル。
差は半竜体。
レヴナントが迫る。
迫る。
迫る。
だが。
ゴール。
二頭が駆け抜けた。
恒一
「どうだ!?」
ミリア
「勝った!」
レオンは静かに答える。
レオン
「フェルドの勝ちだ」
恒一
「くそぉぉぉ!!」
レヴナント
『負けたか』
悔しい。
確かに悔しい。
だが。
新人戦の時ほど絶望は無かった。
それどころか。
ミリアが驚いていた。
ミリア
「何なのよアンタ達」
恒一
「何だよ」
ミリア
「普通そこまで追い上げないわよ」
フェルド
『新人戦上がりにしては異常だな』
レヴナント
『そうか?』
フェルド
『そうだ』
レオンが近付いてくる。
レオン
「分かったか」
恒一
「E級の壁か」
レオン
「ああ」
恒一は頷いた。
確かに強い。
だが。
届かない相手ではない。
それも分かった。
ミリアはニヤリと笑う。
ミリア
「まぁ」
ミリア
「本番ならもっと差を付けてたけどね」
恒一
「言ったな」
ミリア
「事実だし」
恒一
「次は勝つ」
ミリア
「面白いじゃない」
レヴナント
『次は負けん』
フェルド
『楽しみにしている』
夕陽が竜舎を照らしていた。
E級の壁は高かった。
だが。
乗り越えられない高さではない。
恒一は拳を握る。
E級初戦まであとわずか。
売れ残り黒竜と異世界人は。
また一歩前へ進んだ。
― 第三十五話 終 ―




