第三十二話 優勝賞金
新人戦優勝から三日後。
恒一は朝から上機嫌だった。
理由は一つ。
優勝賞金。
今日は新人戦の賞金受取日だった。
恒一
「やっとだな」
レヴナント
『肉だな』
恒一
「違う」
レヴナント
『肉だ』
恒一
「半分正解だ」
ガロン
「半分なのか」
レオン
「半分なんだな」
四人は王都新人競走場へ向かう。
受付には見覚えのある女性がいた。
受付嬢
「神崎恒一様ですね」
恒一
「はい!」
受付嬢
「新人戦優勝おめでとうございます」
恒一
「ありがとうございます!」
受付嬢は小さな木箱を取り出した。
パカッ。
中には一枚の金貨。
恒一
「……少なっ」
受付嬢
「金貨一枚です」
ガロン
「当たり前だ」
レオン
「金貨だからな」
恒一は金貨を手に取る。
思ったより小さい。
思ったより軽い。
だが。
異世界へ来てからの生活で貨幣価値は何となく理解していた。
竜のしっぽ亭の宿代が銀貨一枚。
一般労働者の日当も銀貨一枚前後。
屋台飯なら銅貨数枚。
つまり。
金貨一枚は銀貨百枚。
恒一
(日本円なら百万円くらいか?)
恒一
(いや、もっと価値があるかもしれないな)
新人戦優勝。
その実感がようやく湧いてきた。
レヴナント
『肉だな』
恒一
「お前は本当にそれしかないな」
帰り道。
恒一は何度も木箱を開けていた。
ガロン
「落とすなよ」
恒一
「落とさない」
レオン
「六回目だぞ」
恒一
「確認してるだけだ」
レヴナント
『肉だな』
恒一
「もう分かった」
流星竜舎へ戻る。
恒一はまだ上機嫌だった。
恒一
「いやー」
恒一
「金貨だぞ」
ガロン
「まだ言ってる」
レヴナント
『肉だな』
恒一
「違う」
その時だった。
レオン
「そういえば」
恒一
「ん?」
レオン
「渡してなかったな」
レオンは事務所へ入る。
しばらくして。
一枚の紙を持って戻ってきた。
恒一
「何だそれ」
レオン
「請求書だ」
恒一
「あっ」
嫌な予感しかしない。
レオン
「読むぞ」
恒一
「やめろ」
レオン
「読む」
容赦は無かった。
レオン
「竜舎代三か月」
銀貨十五枚。
恒一
「うん」
レオン
「レヴが追加した肉代」
銀貨十二枚。
恒一
「うん?」
レオン
「治療費」
銀貨五枚。
恒一
「おい」
レオン
「装備代」
銀貨八枚。
恒一
「待て」
レオン
「訓練費」
銀貨二十枚。
恒一
「待て待て」
レオン
「最後だ」
恒一
「まだあるのか」
レオン
「調教師代」
銀貨三十枚。
恒一
「高ぇぇぇぇぇ!!」
レオン
「俺だぞ」
恒一
「納得したくない!」
ガロン
「妥当だな」
レヴナント
『妥当だな』
恒一
「何でお前まで!」
レオン
「合計」
レオン
「銀貨九十枚」
沈黙。
恒一
「……」
レヴナント
『……』
ガロン
「……」
恒一
(百万円が……)
恒一
(九十万円消えた……)
レオン
「残り銀貨十枚だ」
恒一
「少なっ!!」
レオン
「ちゃんと残ったぞ」
恒一
「そういう問題じゃない!」
ガロンは腹を抱えて笑っていた。
ガロン
「ははははは!」
恒一
「笑うな!」
ガロン
「いや無理だ!」
レヴナント
『肉は買えるか?』
恒一
「買えない!」
レヴナント
『そんな……』
ガロン
「可哀想に」
レヴナント
『可哀想だ』
恒一
「俺がな!」
しばらく笑いが続いた。
やがて恒一はふと気付く。
恒一
「待て」
レオン
「何だ」
恒一
「何で今まで請求しなかった?」
レオン
「払えなかっただろ」
恒一
「まぁ」
レオン
「だから待った」
恒一
「優しいな」
レオン
「賞金が入って逃げられなくなってから請求した」
恒一
「怖ぇよ!!」
ガロンが再び吹き出した。
レヴナント
『策士だな』
レオン
「当然だ」
恒一
「当然じゃない!」
ひとしきり騒いだ後。
恒一は立ち上がった。
恒一
「よし!」
レヴナント
『何だ』
恒一
「無くなったもんは仕方ない」
レヴナント
『そうだな』
恒一
「次はE級だ!」
レヴナント
『E級だな』
恒一
「さっさと勝つぞ!」
レヴナント
『当然だ!』
ガロン
「その前に」
恒一
「ん?」
ガロン
「明日の朝」
恒一
「うん」
ガロン
「宿屋な」
恒一
「……」
ガロン
「忘れてないよな?」
恒一
「……」
ガロン
「働け」
恒一
「優勝したんだけど?」
ガロン
「働け」
恒一
「新人戦優勝したんだけど?」
ガロン
「働け」
レオン
「働け」
レヴナント
『働け』
恒一
「味方がいねぇ!!」
ガロン
「賞金が残り銀貨十枚の男が何言ってる」
恒一
「ぐっ……」
ガロン
「宿代もあるぞ」
恒一
「ぐぅっ……」
レヴナント
『肉代もある』
恒一
「お前黙れ!」
ガロン
「明日も朝から働け」
恒一
「はい……」
ガロン
「よろしい」
全員が笑う。
恒一は空を見上げた。
恒一
「E級で勝って」
恒一
「宿屋も手伝って」
恒一
「いつになったら金持ちになるんだ……」
レヴナント
『頑張れ』
恒一
「お前もだ!」
流星竜舎に笑い声が響く。
新人戦は終わった。
だが。
E級。
その先のD級。
そして神級競走。
売れ残り黒竜と異世界人の挑戦は。
まだ始まったばかりだった。
― 第三十二話 終 ―




