第二十五話 前々日
新人戦まで残り二日。
流星竜舎。
レオン
「今日は休め」
恒一
「え?」
レオン
「休養も訓練だ」
レヴナント
『寝る』
恒一
「即答だな」
ガロン
「優等生じゃないか」
レヴナント
『食って寝る』
レオン
「それでいい」
恒一
「甘くない?」
レオン
「新人戦前だ」
ガロン
「今は体を作る方が大事だな」
レヴナント
『つまり食っていいのか』
レオン
「いい」
レヴナント
『勝った』
恒一
「勝ってないだろ」
午前中。
恒一だけ王都へ出ていた。
久しぶりの休日。
新人戦前最後の自由時間だった。
屋台を眺める。
露店を眺める。
武器屋を眺める。
だが何となく落ち着かない。
恒一
「緊張してるのかねぇ」
気付けば競走用品店の前に立っていた。
店主
「竜騎手かい?」
恒一
「まだ新人ですけど」
店主
「新人戦か」
恒一
「はい」
店主は棚から小さな革紐を取り出した。
店主
「幸運のお守りだ」
恒一
「怪しいな」
店主
「効かなかったら返金してやる」
恒一
「じゃあ買うか」
店主
「毎度あり」
恒一は苦笑しながら店を後にした。
昼過ぎ。
流星竜舎へ戻る。
レヴナントは日向で寝ていた。
恒一
「おい」
レヴナント
『……』
恒一
「起きろ」
レヴナント
『肉か』
恒一
「何で分かった」
レヴナント
『匂いだ』
恒一
「犬か」
買ってきた干し肉を渡す。
レヴナントは嬉しそうに食べ始めた。
レヴナント
『良い土産だ』
恒一
「安かったからな」
レヴナント
『もっと買え』
恒一
「調子に乗るな」
午後。
レオンはレヴナントの状態を確認しながら頷く。
レオン
「問題なし」
ガロン
「食欲も十分」
レオン
「脚も問題ない」
レヴナント
『腹が減った』
レオン
「元気だな」
ガロン
「元気だな」
夕方。
竜舎の前が騒がしくなった。
恒一
「何だ?」
見れば。
竜のしっぽ亭の常連達だった。
常連A
「来たぞー!」
常連B
「主役はどこだ!」
常連C
「新人戦前祝いだ!」
恒一
「何で来たんだよ!」
ガロン
「俺が呼んだ」
恒一
「犯人いた」
次々と運び込まれる酒。
肉。
料理。
常連達は勝手に宴会を始めた。
常連A
「でけぇな!」
常連B
「初めて近くで見た!」
常連C
「本当に新人戦出るのか!」
レヴナント
『出る』
常連A
「喋ったぁ!?」
常連B
「本当に喋った!」
常連C
「賢っ!」
レヴナント
『失礼な奴らだ』
恒一
「気持ちは分かる」
宴会は深夜近くまで続いた。
やがて。
一人。
また一人と帰っていく。
常連A
「頑張れよ!」
常連B
「応援してるぞ!」
常連C
「絶対見に行くからな!」
恒一
「ありがとう」
最後にガロンが肩を叩いた。
ガロン
「愛されてるな」
恒一
「そうなのかね」
ガロン
「そうだろ」
静かになった竜舎。
夜風が吹く。
恒一はレヴナントの隣へ座った。
レヴナント
『良い人達だ』
恒一
「そうだな」
レヴナント
『期待されている』
恒一
「プレッシャーだな」
レヴナント
『少しだけな』
しばらく沈黙。
そして。
恒一
「緊張してるか?」
レヴナント
『少しだけ』
恒一
「俺もだ」
レヴナント
『落ちるなよ』
恒一
「まだ言うのか」
レヴナント
『大事だからな』
恒一
「確かに」
二人は笑った。
新人戦まであと二日。
売れ残りの黒竜と異世界人。
いよいよ最初の戦いが近付いていた。
― 第二十五話 終 ―




