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第二話 ハズレ竜市場

「まずは金を稼げ」


そう言い残し神は姿を消した。


いや、正確には消える直前に。


「あとワシ、たまに見に来るから」


と言い残していた。


非常に不安である。


神崎恒一は草原の真ん中に立っていた。


所持金ゼロ。


知り合いゼロ。


住む場所なし。


仕事なし。


そして異世界。


恒一

「冷静に考えなくても詰んでるよな……。異世界転移はいいとして、何で無一文スタートなんだよ」

「せめて宿代くらい置いていけよ神様…」


当然返事はない。


神は既にどこかへ消えていた。


恒一は大きくため息を吐く。


恒一

「文句言ってても仕方ないか。とりあえず人がいる場所を探そう」


三時間後。


恒一は王都アルバスへ辿り着いていた。


巨大な城壁。

広い石畳の街道。

賑わう商店街。

行き交う人々。


そして至る所に描かれた竜の紋章。


商会の看板。

騎士団の旗。

酒場の装飾。


どこを見ても竜だった。


恒一

「思った以上に竜が身近な世界なんだな」


そんな事を考えながら歩いていると、不意に視界へ文字が浮かび上がった。


【神眼 発動】


恒一

「うおっ!?」


思わず飛び退く。


目の前を歩いていた中年男性の姿へ文字が重なって見えた。


名称:不明

種族:人間

属性:無

年齢:42歳

健康状態:良好

能力:D 速度:E 持久力:D 魔力:F

総魔力量:35


恒一

「何だこれ!?」


男は何事も無かったかのように通り過ぎていく。


どうやら自分にしか見えていないらしい。


恒一が呆然としていると、今度は近くを通った荷馬車へ視線が向く。


すると再び文字が浮かんだ。


名称:無し

種族:ホーンボア

属性:土

年齢:6歳

健康状態:良好

能力:C 速度:D 持久力:B 魔力:F

総魔力量:80


恒一

「魔獣まで見えるのかよ……」


巨大な牙を持つ猪型の魔獣だった。


どうやらこの世界では家畜として利用されているらしい。


しかし問題はそこではない。


歩く人。


全員表示される。


店番のおばちゃん。

通り過ぎる子供。

荷車を引く魔獣。


人も魔獣も関係なく表示される。


恒一

「いや待て待て待て……」


流石に鬱陶しい。


視界が情報だらけになる。


恒一は試しに目を閉じた。


すると表示が消えた。


再び開く。


表示される。


今度は「消えろ」と意識してみる。


表示が消えた。


恒一

「お?」


もう一度試す。


見ようと意識すると表示される。


消そうと意識すると消える。


恒一

「なるほど。オンオフ出来るのか」


少し安心した。


これが常時表示なら間違いなく頭がおかしくなる。


恒一

「神様もそこまで鬼じゃなかったらしいな」


そのまま街を歩いていると酒場から賑やかな声が聞こえてきた。


男A

「今年の竜王祭は誰が勝つと思う?」


男B

「フレイムロードだろ。去年の走りは圧倒的だったぞ」


男C

「いや、アズールも強い。あいつ距離が延びるほど力を発揮するからな」


恒一は思わず笑った。


恒一

「どこの世界も変わらないな。競馬場のおっさん達と話してる内容が全く同じじゃないか」


ふと酒場の壁に貼られたポスターへ目が向く。


今度は自分から神眼を発動した。


名称:フレイムロード

種族:飛竜種

属性:火

年齢:12歳

健康状態:良好

能力:A 速度:S 持久力:B 魔力:A

総魔力量:8500


恒一

「これ競馬よりヤバいだろ……。能力全部見えるじゃねぇか」


神から貰った力は思った以上に反則だった。


夕方。


街を歩いていた恒一は巨大な施設の前で足を止めた。


王都竜市場。


中からは竜の鳴き声や商人達の怒鳴り声、客達の歓声が聞こえてくる。


恒一

「竜市場か……」


興味を引かれないはずがなかった。


中へ入る。


そして圧倒された。


数百頭を超える竜達。


赤い竜。

青い竜。

黄金の竜。

巨大な竜。

小柄な竜。


まるで競走馬のセリ市だった。


恒一

「すげぇ……」


思わず見入る。


だが、値札を見た瞬間現実へ引き戻された。


火属性飛竜種

価格:金貨五百枚


水属性飛竜種

価格:金貨八百枚


恒一

「買えるか!!」


近くにいた商人が笑う。


商人

「競走竜だぞ。貴族か大商人でもなけりゃ手が出んよ」


恒一

「ですよねぇ……」


所持金ゼロの男には縁のない世界だった。


その時だった市場の隅から怒鳴り声が響く。


老人

「誰か買ってくれよ!! このままじゃ餌代だけで赤字なんだよ!!」


周囲の客達が苦笑する。


恒一も何気なく視線を向けた。


そして一頭の黒い竜を見つけた。


小さい。

細い。

鱗の艶も悪い。

翼も頼りない。


周囲の竜達と比べると明らかに見劣りしていた。


男A

「まだ売れ残ってたのか」


男B

「二年も売れないとか逆に凄いな」


男C

「肉にした方が高く売れるぞ」


笑い声が広がる。


だが黒竜は何も言わない。


ただ静かに俯いていた。


恒一は何となく気になって近付いた。


神眼を発動する。


名称:未登録

種族:飛竜種

属性:闇

年齢:2歳

健康状態:栄養失調

能力:E 速度:E 持久力:E 魔力:E

総魔力量:100


恒一

「やっぱり弱いじゃん」


だがその下にさらに文字が浮かび上がった。


【隠し情報】

成長率:SSS

能力上限:EX

速度上限:EX

持久力上限:EX

魔力上限:EX

忠誠心:測定不能

特殊能力《竜王因子》

発現率:0.1%

総魔力量:1,000,000

使用可能魔力量:100

状態:封印中


恒一

「……は?」


思わず二度見した。


もう一度見る。


見間違いではない。


成長率SSS。


全能力上限EX。


竜王因子。


封印された百万の魔力。


どう考えても化け物だった。


恒一

「なんで誰も気付かないんだ……?」


老人が苦笑する。


老人

「そんな痩せっぽちの欠陥竜だからさ」


確かに見た目は弱そうだった。


だが。恒一には見えている。


隠された才能が。


競馬でもそうだった、人気がないから弱いとは限らない。


血統が地味だから走らないとも限らない。


大事なのは能力だ。


そして。


恒一がもう一つ気になったのは健康状態だった。


栄養失調。


まともに餌を食えていない。


だから細い。


だから弱く見える。


恒一

「能力が無いんじゃなくて、まともに育てられてないだけじゃないのか……?」


老人

「食う量だけは一人前以上だからな。維持費ばかり掛かって仕方ない」


恒一は檻の前にしゃがみ込む。


黒竜と目が合う。


赤い瞳だった。


諦めたような目。


期待することをやめた目。


黒竜

『……お前も笑うのか』


恒一

「いや?」


黒竜

『そうか』


短い言葉だった。


だが。妙に胸に残った。


恒一は少し笑う。


恒一

「俺は競馬好きなんだ。みんなが見向きもしない奴が最後に勝つって話は嫌いじゃない」


黒竜は何も言わない。


ただ赤い瞳は恒一から逸れなかった。


老人

「で?見るだけか?」


恒一は黒竜を見る。


成長率SSS。


全能力上限EX。


竜王因子。


封印された百万の魔力。


そして誰からも期待されていない赤い瞳。


恒一

「この竜、いくらだ?」


老人

「銀貨三枚だ」


恒一

「安っ!」

(銀貨三枚か……まぁ何とかなるだろ)


こうして。


後に世界最強と呼ばれる黒竜との出会いは。


たった銀貨三枚から始まった。


そして。


恒一はまだ知らない。


この黒竜が歴史を変える事になるのを。


――第二話 終――

一部内容を修正しました。

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