第十六話 魔力を感じろ
新人戦まで残り二十五日。
恒一は訓練場の真ん中で胡座をかいていた。
レオン
「何をしている」
恒一
「魔力を感じてます」
レオン
「感じる前に寝るな」
恒一
「寝てない」
ガロン
「いびき聞こえたぞ」
恒一
「気のせいだ」
レヴナント
『聞こえた』
恒一
「裏切り者」
朝から訓練は難航していた。
レオン
「魔力は誰の中にもある」
レオン
「まずはそれを感じろ」
恒一
「だからそれが分からないんだって」
レオン
「分かれ」
恒一
「説明が雑!」
ガロン
「いつもだな」
レオンは呆れながらも続ける。
レオン
「目を閉じろ」
恒一は従う。
レオン
「呼吸を整えろ」
恒一
「はい」
レオン
「体の中を流れる熱を探せ」
恒一
「熱?」
レオン
「そうだ」
しばらく沈黙。
数分後。
恒一
「腹減った」
レオン
「帰れ」
ガロン
「早かったな」
レヴナント
『才能が無い』
恒一
「お前にだけは言われたくない」
午前中は何も成果が出なかった。
昼休憩。
竜のしっぽ亭から持ってきた弁当を食べながら、恒一は空を見上げていた。
恒一
「魔力ってそんなに難しいのか?」
ガロン
「普通は子供の頃に覚える」
恒一
「じゃあ俺は不利じゃん」
ガロン
「お前は異世界人だからな」
レオン
「まだ言ってるのか」
恒一
「気にしないでください」
レオン
「気になる」
レヴナント
『俺も気になる』
恒一
「お前もか」
午後。
今度はレヴナントの訓練だった。
レオン
「お前も感じろ」
レヴナント
『どうやって』
レオン
「感じろ」
レヴナント
『説明が雑だな』
ガロン
「似た者同士だな」
レオンが眉間を押さえた。
本当に頭が痛そうだった。
レオン
「目を閉じろ」
レヴナント
『閉じた』
レオン
「体の内側を意識しろ」
レヴナント
『意識した』
レオン
「何か感じるか」
しばらく沈黙。
そして。
レヴナント
『腹が減った』
恒一
「仲間だな」
レオン
「帰れお前ら」
夕方。
訓練場には諦めムードが漂っていた。
ガロンは木箱に座りながら酒を飲んでいる。
レオンは頭を抱えている。
恒一とレヴナントは並んで座っていた。
恒一
「難しいな」
レヴナント
『難しい』
恒一
「何か感じたか?」
レヴナント
『腹が減った』
恒一
「俺もだ」
二人は顔を見合わせた。
その時だった。
レヴナントの腹が鳴った。
ぐぅぅぅぅ。
恒一
「でかいな」
レヴナント
『成長期だ』
恒一
「便利な言葉だな」
レヴナント
『便利だ』
二人は笑った。
そして。
不意に恒一は気付く。
レヴナントの身体から。
何か温かいものが流れている。
気がした。
ほんの一瞬。
本当に一瞬。
だが確かに。
恒一
「ん?」
レヴナント
『どうした』
恒一
「今何か……」
レヴナント
『何か?』
その瞬間。
神眼が発動する。
【レヴナント】
魔力循環:微弱
恒一
(魔力循環?)
初めて見る表示だった。
恒一は思わずレヴナントの身体に手を当てる。
温かい。
心臓の鼓動とは違う。
何かが流れている。
そんな感覚。
恒一
「レオン!」
レオン
「なんだ」
恒一
「今、レヴの中で何か流れた!」
レオンの目が変わる。
レオン
「本当か?」
恒一
「多分!」
レオン
「その返事嫌いだ」
ガロン
「俺は好きだぞ」
レオンはレヴナントへ近付く。
そして翼へ手を当てた。
しばらく沈黙。
次の瞬間。
レオン
「そういうことか……」
恒一
「分かったんですか?」
レオン
「ああ」
レオン
「レヴナントの魔力は流れている」
レヴナント
『それは良いことか?』
レオン
「良いことだ」
レオン
「だが足りない」
恒一
「足りない?」
レオン
「魔力はある」
レオン
「だが循環していない」
レオン
「川で言えば水が溜まっているだけだ」
恒一
「なるほど」
レオン
「翼まで届いていない」
レヴナント
『だから飛べないのか』
レオン
「その可能性が高い」
初めてだった。
原因らしい原因が見えたのは。
レオンは立ち上がる。
そして二人を見る。
レオン
「明日から訓練を変える」
恒一
「何をするんです?」
レオンはニヤリと笑った。
レオン
「魔力を流す」
恒一
「どうやって?」
レオン
「地獄を見る」
恒一
「嫌な予感しかしない」
ガロン
「頑張れ」
レヴナント
『他人事だな』
新人戦まで残り二十五日。
ようやく。
レヴナントが飛べない理由への扉が開き始めていた。
― 第十六話 終 ―




