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第十四話 初めての浮上

新人戦まで残り二十七日。


レヴナントは飛べなかった。


次の日も。


その次の日も。


さらにその次の日も。


飛べなかった。


レオン

「もう一度」


レヴナント

『分かった』


走る。


翼を広げる。


羽ばたく。


だが何も起きない。


ガロン

「地面が好きなんじゃないか?」


レヴナント

『好きかもしれん』


恒一

「諦めるな!」


レヴナント

『諦めてはいない』


レオン

「なら飛べ」


レヴナント

『それが出来れば苦労しない』


訓練場にため息が響いた。


一週間後。


状況は何も変わらなかった。


新人戦へ向けた地上訓練は順調だった。


走る。


曲がる。


止まる。


加速する。


レヴナントは日に日に成長している。


しかし飛行だけは別だった。


一ミリも進歩しない。


レオン

「おかしい……」


元A級竜騎手であり現役調教師。


そのレオンが首を傾げ続けていた。


レオン

「飛べない竜の身体じゃない」


ガロン

「じゃあ飛べるんだろ」


レオン

「だからそれが分からん」


恒一も同意だった。


神眼で見ても原因は分からない。


飛行適性は相変わらず


【???】


と表示されている。


ある日の夕方。


訓練が終わった後。


恒一はレヴナントの隣に座っていた。


夕日が空を赤く染めている。


レヴナント

『なあ』


恒一

「ん?」


レヴナント

『飛べなかったな』


恒一

「そうだな」


レヴナント

『がっかりしたか?』


恒一は少し考えた。


そして首を振る。


恒一

「別に」


レヴナント

『嘘だ』


恒一

「少しはした」


レヴナント

『正直だな』


恒一

「お前ほどじゃない」


レヴナントが小さく笑った。


しばらく沈黙。


風が吹く。


恒一は空を見上げた。


恒一

「なあ」


レヴナント

『なんだ』


恒一

「怖いんじゃないか?」


レヴナント

『何がだ』


恒一

「空」


レヴナントは黙った。


恒一

「一度も飛んだことないんだろ?」


レヴナント

『……』


恒一

「だったら怖くてもおかしくない」


しばらくして。


レヴナント

『分からん』


恒一

「分からん?」


レヴナント

『怖いのかもしれん』


恒一は少し驚いた。


レヴナントが弱音らしいことを言ったのは初めてだった。


恒一

「俺もだ」


レヴナント

『何がだ』


恒一

「竜騎手」


レヴナント

『なるほど』


恒一

「毎日怖いぞ」


レヴナント

『落ちるからな』


恒一

「そこじゃねぇ」


二人は笑った。


その時だった。


恒一は立ち上がる。


恒一

「よし」


レヴナント

『?』


恒一

「今から飛ぶ」


レヴナント

『何を言ってる』


恒一

「俺が乗る」


レヴナント

『危ない』


恒一

「今さらだろ」


レヴナント

『それもそうだ』


数分後。


レオンとガロンも呼び出された。


レオン

「何が始まる」


恒一

「飛行訓練です」


ガロン

「今まで何だったんだ」


恒一

「飛行準備訓練」


レオン

「適当言うな」


恒一はレヴナントの背中によじ登る。


レオン

「何をする気だ」


恒一

「分からん」


レオン

「降りろ」


恒一

「嫌だ」


ガロン

「いつものだな」


恒一はレヴナントの首筋を軽く叩いた。


恒一

「行くぞレヴ」


レヴナント

『無茶だ』


恒一

「知ってる」


レヴナント

『馬鹿だな』


恒一

「知ってる」


レヴナント

『仕方ない』


レヴナントが走り出した。


訓練場を一直線。


全力疾走。


風が吹く。


翼が広がる。


さらに加速する。


恒一

「行けぇぇぇ!!」


レヴナント

『うおぉぉぉ!?』


その瞬間だった。


レヴナントの身体の周囲に、うっすらと青白い光が灯る。


誰も気付かないほど微かな光。


だが恒一だけは見た。


レヴナントの身体の中を何かが流れた。


次の瞬間。


フワッ。


レヴナントの身体が浮いた。


ほんの一瞬。


本当に一瞬だけ。


だが確かに。


地面から離れた。


ガロン

「……は?」


レオン

「今……」


恒一

「浮いた!!」


レヴナント

『浮いた!?』


次の瞬間。


ドゴォォォン!!


盛大に転んだ。


恒一

「痛ぇぇぇ!!」


レヴナント

『痛い!!』


ガロン

「落ちたな」


レオン

「落ちたな」


だが誰も笑わなかった。


全員が見たからだ。


レヴナントは浮いた。


確かに浮いた。


レオンは夕暮れの空を見上げる。


そして静かに言った。


レオン

「飛べる……」


恒一

「え?」


レオン

「間違いない」


レオン

「レヴナントは飛べるぞ」


レヴナントは空を見上げていた。


生まれて初めて。


ほんの少しだけ。


空へ近付いたのだから。


恒一は気付いていた。


あの一瞬。


レヴナントの身体に流れた青白い光。


あれは何だったのか。


今はまだ分からない。


だが。


それがレヴナントが飛べない理由に関係している。


そんな気がした。


新人戦まで残り二十七日。


相棒は初めて空へ近付いた。


― 第十四話 終 ―

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