第十二話 見る目
王都中央競走場。
第87回GD天空王杯当日。
競走場は朝から異様な熱気に包まれていた。
数万人の観客。
露店から漂う香ばしい匂い。
空を埋める色鮮やかな旗。
その全てに恒一は圧倒されていた。
恒一
「すげぇ……」
ガロン
「まだ入口だぞ」
レオン
「本番はここからだ」
三人はパドックへ向かった。
そこでは出走竜たちがゆっくりと周回している。
巨大な体。
美しい鱗。
力強い足取り。
どの竜もレヴナントより大きく、強そうに見えた。
ガロンは出走表を広げる。
ガロン
「今年も人気は割れてるな」
恒一
「見せてくれ」
【第87回 GD天空王杯】
1番人気
紅蓮竜ガルドレックス
単勝2.8倍
2番人気
蒼天竜ヴェルシオン
単勝3.6倍
3番人気
炎翼竜ブラストファング
単勝5.2倍
4番人気
銀嶺竜フロストハート
単勝8.9倍
5番人気
雷鳴竜サンダーボルト
単勝12.4倍
6番人気
翠風竜エアロリーフ
単勝18.7倍
7番人気
灰翼竜グレイファング
単勝22.1倍
ガロン
「ガルドレックスだな」
恒一
「強いのか?」
レオン
「強い」
レオン
「GD二勝竜だ」
レオン
「現役でも屈指の実力竜だな」
恒一はガルドレックスを見る。
その瞬間。
神眼が発動した。
【紅蓮竜ガルドレックス】
速度A
持久力B
飛行適性A
気性C
【蒼天竜ヴェルシオン】
速度B
持久力A
飛行適性A
気性B
【炎翼竜ブラストファング】
速度A
持久力C
飛行適性A
気性B
【灰翼竜グレイファング】
速度B
持久力A
飛行適性B
気性A
恒一は出走表を見直した。
そしてコース図を見る。
さらにもう一度出走竜を見る。
ガロン
「どうした?」
恒一
「1番人気は負けるな」
レオン
「は?」
ガロン
「始まったな」
レオン
「理由は?」
恒一はコース図を指差した。
恒一
「ガルドレックス」
恒一
「ヴェルシオン」
恒一
「ブラストファング」
恒一
「全部前で競走したい竜だ」
恒一
「序盤からやり合う」
恒一
「最後に苦しくなる」
レオン
「それで?」
恒一は迷わず一頭を指差した。
恒一
「グレイファング」
ガロン
「7番人気か」
恒一
「勝つならあいつだ」
レオン
「正気か?」
恒一
「多分」
レオン
「その返事好きだな」
ガロンが笑った。
ガロン
「じゃあ賭けるか」
投票所で三人は竜券を買った。
ガロン
「俺はガルドレックス単勝」
レオン
「ヴェルシオン複勝」
恒一
「グレイファング単勝」
ガロン
「本気か?」
恒一
「本気だ」
レオン
「外れても知らんぞ」
恒一
「当たる」
ガロン
「言い切ったな」
やがてファンファーレが鳴る。
観客が総立ちになる。
実況
「第87回GD天空王杯!!」
実況
「まもなくスタートです!!」
ゲートが開いた。
轟音。
歓声。
熱狂。
天空王杯が始まった。
実況
「ガルドレックス先頭!」
実況
「ヴェルシオン譲らない!」
実況
「ブラストファングも前へ!」
先頭争いは激しかった。
恒一
「やっぱりな」
ガロン
「まだ分からん」
レオンは黙ってレースを見ている。
飛行区間へ入る。
三頭はさらに競り合う。
観客席は大歓声。
だが残り八百メートル。
実況の声が変わった。
実況
「ガルドレックス苦しい!」
実況
「ヴェルシオンも伸びない!」
実況
「先頭集団失速です!!」
ガロン
「おい……」
レオン
「まさか……」
恒一は身を乗り出した。
実況
「外から来たぁぁぁ!!」
実況
「グレイファングだ!!」
恒一
「来たぁぁぁ!!」
ガロン
「うるせぇ!」
実況
「7番人気グレイファング!」
実況
「一気に先頭へ!!」
恒一
「いけぇぇぇ!!」
気付けば立ち上がっていた。
実況
「残り三百!!」
実況
「さらに伸びる!!」
恒一
「そのままだぁぁぁ!!」
ガロン
「座れ!」
恒一
「無理!!」
そして。
恒一は通路へ飛び出した。
ガロン
「走るな!!」
レオン
「本当に走ったぞ……」
実況
「グレイファング先頭!!」
実況
「二竜身!」
実況
「三竜身!!」
恒一
「よしよしよし!!」
実況
「四竜身差ぁぁぁ!!」
実況
「圧勝ぉぉぉぉ!!」
恒一
「よっしゃぁぁぁ!!」
ガロン
「だからお前が勝ったんじゃねぇ!!」
実況
「第87回GD天空王杯!!」
実況
「勝ったのはグレイファング!!」
競走場が歓声に包まれた。
恒一はようやく席へ戻る。
レオン
「お前」
恒一
「ん?」
レオン
「予想してる時よりレース見てる時の方がうるさいな」
ガロン
「五倍はうるさい」
恒一
「仕方ないだろ!」
レオン
「少し分かった」
恒一
「何がです?」
レオン
「お前が競走好きなのは」
恒一は少し照れ臭そうに笑った。
レース終了後。
払い戻し窓口。
ガロン
「終わった……」
恒一
「そんなにか?」
ガロン
「全部ガルドレックスだ」
レオン
「だから単勝は危険なんだ」
ガロン
「お前は?」
レオン
「複勝だから少し勝った」
ガロン
「堅実すぎるだろ」
二人は恒一を見る。
恒一
「……」
ガロン
「なんだその顔」
恒一
「結構増えた」
ガロン
「いくらだ」
恒一
「新人戦登録費」
恒一
「竜舎代一か月分」
恒一
「あと少し残る」
ガロン
「は?」
レオン
「は?」
恒一
「当たった」
ガロン
「知ってるわ!」
レオンはしばらく恒一を見つめていた。
そして小さく呟く。
レオン
「なあ」
恒一
「はい?」
レオン
「お前、本当に何者だ?」
恒一
「宿屋の店員です」
ガロン
「またそれか」
その夜。
流星竜舎。
レヴナント
『戻ったか』
恒一
「ただいま」
レヴナント
『どうだった』
恒一は即答した。
恒一
「最高だった」
レヴナント
『そうか』
恒一
「ああ」
恒一
「最高だった」
そして少し笑う。
恒一
「いつか」
恒一
「お前とあそこを走りたい」
レヴナントはしばらく黙った。
そして。
レヴナント
『その前に』
恒一
「ん?」
レヴナント
『落ちないようになれ』
恒一
「お前なぁ!」
竜房に笑い声が響く。
GD競走はまだ遠い。
竜王祭はもっと遠い。
だが。
その夢は確かに始まっていた。
― 第十二話 終 ―




