第百十話 神竜を追え
アルディウスの姿が消えた。
本当に一瞬だった。
気付いた時には、あれほど巨大だった黄金の神竜は山脈の向こう側へ消えている。
恒一
「……は?」
レヴ
『行くぞ』
恒一
「いや待て待て待て! まずどこ行ったんだよ!?」
ゼノス
「はっはっはっ!! 相変わらずだな長老!」
恒一
「笑ってる場合か!? あれ追い付けるのかよ!?」
グランヴァルド
『追い付けなければ話は聞けんだろうな』
恒一
「そんな軽い感じで言う事じゃないだろ!?」
ミリア
「私達も行くの?」
グランヴァルド
『いや、長老が呼んだのは恒一とレヴナントだ』
フェルド
『これは二人への試練だろう』
ルミナス
『わたくし達が同行する意味はありませんわね』
恒一
「つまり?」
グランヴァルド
『お前達だけで追え』
恒一
「やっぱりそうなるのか……」
ゼノス
「安心しろ!」
恒一
「全然安心出来る気がしないんだが?」
ゼノス
「死にはしない!」
恒一
「その励まし本当にやめろ!」
周囲から笑い声が上がる。
だがレヴは既に遥か彼方を見ていた。
レヴ
『行くぞ』
恒一
「分かってるよ」
恒一がレヴの背中へ飛び乗るとレヴは翼を広げる。
そして。
ドンッ!!
断崖を蹴って黒い巨体が大空へ飛び出す。
一気に高度を上げながら竜の郷を離れていく。
数秒後。
背後の景色は小さくなり、周囲には空しかなくなった。
そこで恒一は共鳴を深める。
意識が重なり視界が繋がる。
恒一
(で、どうする?)
レヴ
《探す》
恒一
(見えてないだろ)
レヴ
《見えていない》
恒一
(堂々と言うな)
レヴ
《お前が見る》
恒一
(結局それかよ)
レヴ
《空を見るのはお前だ》
恒一
(まぁそうなんだけどな)
恒一は目を閉じる。
神眼発動。
見える世界が変わって風の流れ、気流、温度差、高度差。
空間そのものが情報となって流れ込む。
さらに。
多重並列思考。
思考が分散されて、情報が整理されていく。
今までなら脳が悲鳴を上げていた。
だが今は違う。
訓練を積んで、何度も空を見て何度も空を読んだ。
恒一
(南東、長老が飛んだ方向は南東)
(風は追い風、雲の流れが変だ)
(違う、もっと先)
レヴ
《見えるか》
恒一
(まだだ)
レヴ
《急ぐぞ》
恒一
(急いで見失ったら意味ないだろ)
レヴ
《むぅ》
恒一
(不満そうな声出すな)
さらに意識を広げて風を、雲を、空間を読む。
そして。
恒一
(いた)
レヴ
《どこだ》
恒一
(正面三十度、雲の切れ目だ。あそこを見ろ)
レヴの視界が鋭くなる。
そして。
レヴ
《いた》
遥か彼方の雲海の向こう。
黄金色の光が見えた。
恒一
(本当にいた……)
レヴ
《追うぞ》
恒一
(当たり前だ)
レヴの翼が大きく広がる。
魔力膜展開。
共鳴維持。
加速開始。
ドォォォォォォォッ!!
景色が吹き飛び、山脈を越え谷を越える。
だが。
恒一
(縮まらねぇな)
レヴ
《速い》
恒一
(神竜だからなぁ……)
レヴ
《もっと速くする》
恒一
(待て)
レヴ
《何だ》
恒一
(お前がその台詞言う時ろくな事にならない)
レヴ
《今回は大丈夫だ》
恒一
(前も聞いた)
レヴ
《今は魔力膜がある》
恒一
(まぁな)
レヴ
《共鳴もある》
恒一
(それもそうだ)
レヴ
《お前も空を見られる》
恒一
(嫌な予感しかしねぇ……)
レヴ
《行くぞ》
次の瞬間。
ドォォォォォォォォン!!
空気が爆ぜた。
レヴが空気の層を蹴ると、景色が一瞬で流れ去る。
だが魔力膜は砕けない。
風圧も耐えられる。
恒一
《右前方に乱気流!》
レヴ
《避ける》
恒一
《その先の上昇気流に乗れ!》
レヴ
《うむ》
恒一
《左下に下降気流!》
レヴ
《見えている》
恒一
《その先で加速しろ!》
レヴ
《任せろ》
完璧だった。
竜が飛ぶ。
竜騎手が空を見る。
互いが互いの役割を果たす。
今までの訓練が全て噛み合っていた。
そして。
恒一
(縮まった!)
レヴ
《うむ》
恒一
(追い付いてるぞ!)
レヴ
《当然だ》
恒一
(その自信どこから来るんだ)
レヴ
《速いからだ》
恒一
(理由になってねぇよ)
だが確かに距離は縮まっていた。
前方にある雲海の向こう。
黄金の巨体が少しずつ大きくなっていく。
アルディウスだ。
アルディウスは振り返らない。
待たない。
だが逃げてもいない。
まるで二人を試すように一定距離を保っていた。
恒一
(気付いてるな)
レヴ
《うむ》
恒一
(試されてるって事か)
レヴ
《うむ》
恒一
(嫌な爺さんだな)
レヴ
《うむ》
恒一
(そこは否定しろよ)
その時だった雲海の向こうに巨大な山が見えた。
いや山ではない。
あまりにも巨大な竜の郷でも見た事がないほど高い峰。
アルディウスはその方向へ飛んでいる。
恒一
(まだ先があるのか……)
レヴ
《面白い》
恒一
(お前本当にそればっかだな)
レヴ
《うむ》
レヴと恒一は神竜の背中を追う。
その先に待つ真実へ向かって。
――第百十話 終――




