第百七話 ルミナス先生は諦めない
翌朝、魔道飛行船の甲板で恒一は真剣な顔で両手を前に出していた。
恒一
「よし……今度こそだ。魔力を集めて、薄く広げて、身体の周りを包む……」
ルミナス
『ええ。そのイメージで間違っておりませんわ』
恒一
「昨日よりは出来る気がする」
ミリア
「その台詞、昨日も聞いたわよ」
エリシア
「昨日と同じ結果になりそうね」
ゼノス
「はっはっはっ!! 大丈夫だろ! たぶん!」
恒一
「集中してるんだから黙ってろよ!」
深呼吸をして集中する
身体の周りに魔力を集める。
昨日より丁寧に、より慎重に。
そして――
ポン。
恒一
「…………」
ミリア
「弾けたわね」
エリシア
「綺麗に弾けたわね」
ゼノス
「昨日より良い音だったな!」
恒一
「そこ褒める所じゃねぇだろ!」
ルミナスは少し考えるように首を傾げた。
ルミナス
『不思議ですわね』
恒一
「不思議って何がだ?」
ルミナス
『魔力量は十分ですのに、集めた瞬間に散ってしまいます』
フェルド
『川へ水を流そうとしているのに、途中で全部漏れているような状態だな』
グランヴァルド
『器用さが足りん』
恒一
「ぐっ……」
否定出来ない。
その時レヴが前へ出る。
レヴ
『俺もやる』
恒一
「お前は昨日爆発しただろ」
レヴ
『今日は違う』
ゼノス
「その自信どこから来るんだ?」
レヴ
『速さだ』
恒一
「関係ねぇだろ」
レヴは無視した。
目を閉じると魔力が集まる。
昨日より遥かに丁寧だった。
恒一
「お?」
ミリア
「今度は良さそうじゃない?」
エリシア
「確かに」
ルミナス
『そのままですわ』
レヴ
『うむ』
魔力が集まる。
さらに集まる。
さらに。
さらに。
さらに。
恒一
「待て」
レヴ
『まだだ』
恒一
「いや待て!」
レヴ
『もっとだ』
恒一
「絶対駄目な流れだろ!?」
次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!
甲板全体が揺れた。
ゼノス
「うおぉぉ!?」
ミリア
「また爆発したぁ!?」
エリシア
「昨日より酷くなってるじゃない!」
レヴの周囲には巨大な黒金色の球体が出来ていた。
魔力膜ではない。
どう見ても要塞だった。
フェルド
『膜ではないな』
グランヴァルド
『壁だ』
ルミナス
『壁ですわね』
レヴ
『……何が違う?』
ルミナス
『全部ですわ』
レヴ
『そうか』
ルミナスは初めて少し疲れた顔をした。
ミリア
「ルミナスが疲れてる……」
エリシア
「珍しいわね」
ゼノス
「はっはっはっ!!」
ルミナス
『……笑い事ではありませんわ』
ゼノス
「すまん!」
全然反省していなかった。
その後も訓練は続いた。
恒一は弾けて、レヴは爆発する。
また恒一は弾けて、レヴは壁を作る。
さらに恒一は弾けて、レヴは要塞を作る。
ミリア
「ねぇ」
エリシア
「なに?」
ミリア
「この二人、本当に出来るようになると思う?」
エリシア
「私に聞かないで」
フェルド
『無理かもしれん』
グランヴァルド
『私も少しそう思い始めた』
ルミナス
『諦めませんわ』
即答だった。
全員がルミナスを見る。
ルミナス
『空を見る訓練も最初は不可能だと思いました』
恒一
「まぁ……そうだな」
ルミナス
『ですが出来るようになりました』
レヴ
『うむ』
ルミナス
『なら魔力膜も必ず出来ますわ!』
その言葉だけは妙に説得力があった。
恒一は苦笑する。
恒一
「分かった。もう少し頑張ってみる」
レヴ
『俺もやる』
恒一
「今度は爆発させるなよ?」
レヴ
『努力する』
ミリア
「初めて聞いたわ」
エリシア
「レヴが努力するって言った……」
ゼノス
「記念日だな!」
レヴ
『うるさい』
笑い声が甲板に響く。
だがその時ルミナスが何かを考え込むように目を細めた。
フェルド
『どうした?』
ルミナス
『いえ……少し気になりまして』
グランヴァルド
『何がだ?』
ルミナス
『この二人は正反対なのですわ』
そう言いながらルミナスは恒一とレヴを見る。
ルミナス
『コウイチは魔力の形を整えようと繊細過ぎます』
『レヴナントは魔力を集め過ぎて力で押し切ろうとします』
ミリア
「言われてみれば真逆ね」
エリシア
「だから上手くいかないんじゃないの?」
ルミナス
『逆ですわ』
全員が首を傾げた。
ルミナスだけが小さく笑う。
ルミナス
『だからこそ上手くいく可能性があります』
恒一
「どういう事だ?」
ルミナス
『共鳴ですわ』
その言葉に恒一とレヴが同時に反応した。
レヴ
『共鳴を使うのか』
ルミナス
『ええ。あなた達は既に共鳴を使いこなしております』
『ならば別々に魔力膜を作る必要はありません』
恒一
「……まさか」
ルミナス
『二人で一つの魔力膜を作るのです』
沈黙。
ゼノス
「おぉ?」
ミリア
「そんな事出来るの?」
フェルド
『理屈は通るな』
グランヴァルド
『確かに』
ルミナス
『レヴナントが魔力を供給する』
『コウイチが形を整える』
『共鳴した状態で互いの魔力の流れを感じながら制御するのです』
恒一が思わずレヴを見るとレヴもこちらを見ていた。
レヴ
『面白そうだな』
恒一
「お前、それ絶対速く飛べそうだから言ってるだろ」
レヴ
『当然だ』
恒一
「少しは隠せよ」
ゼノスが腹を抱えて笑った。
ゼノス
「はっはっはっ!! 正直で良いじゃねぇか!」
ルミナス
『午後から訓練内容を変更しますわ』
『コウイチはレヴナントに騎乗した状態で共鳴を維持してください』
『そして二人で一つの魔力膜を形成します』
恒一
「なるほどな……」
今までの訓練とは違う。
だが確かに理屈は通っていた。
ルミナス
『ただし』
恒一
「やっぱりあるよな」
ルミナス
『おそらく今まで以上に難しいですわ』
恒一
「だろうな……」
ルミナス
『ですが成功すれば、あなた達にしか出来ない魔力膜になるでしょう』
竜の郷の火山口から吹く暑い風が甲板を吹き抜ける。
恒一は隣にいるレヴを見上げた。
空を見る力は手に入れた。
次は空を駆けるための力だ。
そしてその力は。
自分一人ではなく、レヴと共に掴むものなのかもしれない。
――第百七話 終――




