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第百五話 空の地図と共鳴

ゼノス

「はっはっはっ!! 面白ぇなコウイチ! 昨日まで周りを見るだけで精一杯だったのに、急に俺達の位置まで全部把握してやがる!」


ミリア

「本当に別人みたいよ。さっきなんて私達が動く前から進路を読んでたじゃない」


エリシア

「正直異常だわ。私はもっと時間が掛かったもの」


恒一

「そんな事言われても困るんだよ。俺だって何となくわかるようになっただけだし」

(神眼で見てるとは言えないしな…)


レヴ

『だが飛びやすい』


恒一

「それは分かる。今までより空が広く見えるっていうか、頭の中に地図が出来てる感じなんだよな」


レヴ

『お前が見ているものが流れてくるからな』


恒一

「そう考えると共鳴って便利だよな。言葉にしなくても伝わるし、今は見えてる情報まで共有出来てる」


今までも共鳴は使えていた。


だが今は恒一が把握出来る情報量が増えた事で、レヴへ流れる情報量も増えている。


結果として二人の連携が一気に向上していた。


ゼノス

「よし! せっかくだからもう一周だ! 今度は俺達を捕まえてみろ!」


恒一

「だから何でそうなるんだよ!?」


ゼノス

「面白そうだからだ!」


ミリア

「いつも通りね」


エリシア

「いつも通りだわ」


グランヴァルド

『否定出来んな』


フェルド

『出来ないな』


周囲から笑い声が上がる。


そして再びグランヴァルドが高度を上げるとフェルドが左へ旋回する。


ルミナスは上空へ位置を取った。


その瞬間恒一の頭の中へ情報が流れ込む。


風向き。


気流。


高度差。


全員の位置。


恒一

「レヴ、そのまま真っ直ぐ行くと乱気流に入る。少し右へ寄っ…」


レヴ

『わかってる』


言葉が終わる前にレヴは動く。


共鳴で言葉で伝える前に理解しているからだ。


ミリア

「今の見えたの?」


恒一

「見えたっていうか分かるんだよ。あそこだけ風の流れが歪んでる」


エリシア

「それを見分けられる時点で十分おかしいと思うんだけど……」


ゼノス

「はっはっはっ!! いいぞいいぞ! その調子だ!」


訓練は続く。


上昇気流を利用して高度を取る。


下降気流を避けて障害物代わりの岩柱の間を抜ける。


今までならレヴ任せだった飛行。


だが今は違った。


恒一

(左下からフェルドが来る)


レヴ

『分かっている』


恒一

(その先で上を取る気だ)


レヴ

『先回りする』


フェルド

『気付かれたか』


ミリア

「嘘でしょ」


ゼノス

「はっはっはっ!! 俺達が考えてる事が全部読まれてるじゃねぇか!」


ルミナス

『読まれているというより、空間全体を把握しているのでしょうね』


グランヴァルド

『何故急にそこまで見えるようになったのだ』


ルミナス

『何故かはわかりませんがコウイチが空を見て、レヴナントが飛ぶ。本来の役割分担が出来るようになってきましたわ』


その言葉に恒一は少し嬉しくなった。


ようやく。


本当にようやく竜騎手らしい事が出来ている気がした。


だがその時だった。


レヴ

『コウイチ』


恒一

「なんだ?」


レヴ

『今なら勝てる』


恒一

「何にだ?」


レヴ

『全員にだ。お前が空を見て、俺が飛ぶ。今までで一番飛びやすい』


恒一

「まぁ、それは認めるけどな」


レヴ

『なら試したい事がある』


恒一

「嫌な予感しかしないんだが」


レヴ

『この前の空気の層を蹴る飛び方だ』


恒一

「やめろ」


レヴ

『今なら問題ない』


恒一

「ある。大ありだ」


レヴ

『お前は空を読める』


恒一

「そういう問題じゃない」


レヴ

『俺も飛びやすい』


恒一

「だから違うって言ってるだろ!?」


共鳴を通じて恒一の思考が流れる。


恒一

(やめろ)

(本当にやめろ!)

(絶対ろくな事にならない!!)


レヴ

『却下だ』


恒一

「おい!?心の声まで却下するなぁ!!」


次の瞬間だった。


ドォォォォォォォォン!!


空気が爆ぜた。


レヴが空気の層を力任せに蹴る。


景色が一瞬で吹き飛んだ。


恒一

「ぶべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


風圧が顔面へ直撃して頬が引っ張られる。


涙が飛ぶ。


鼻水も飛ぶ。


髪は後ろへ流され、まともに目も開けられない。


だが頭だけは冷静だった。


恒一

(右前方に上昇気流)

(左下に乱気流)

(ゼノス後方三十五メートル)

(フェルドが高度を上げた)

(全部分かる、全部見える)

(でも風が痛ぇぇぇぇぇぇぇ!!)


レヴ

『コウイチ』


恒一

「ぶぼぉぉぉぉぉぉ!!」


レヴ

『見えているらしい』


恒一

「ぶべぇぇぇぇぇ!!」


レヴ

『元気そうだな』


恒一

「ぶべらぁぁぁぁぁ!!」


後方を飛んでいたミリア達から呆れた声が飛んでくる。


ミリア

「全然解決してないじゃない!」


エリシア

「むしろ前より酷くなってる気がするんだけど!?」


ゼノス

「はっはっはっはっ!!期待を裏切らねぇなぁ!!」


フェルド

『予想通りだ』


グランヴァルド

『根本的な問題が何も解決していない』


ルミナス

『ええ。その通りですわ』


レヴだけは満足そうだった。


レヴ

『速いな』


恒一

「ぶべぇぇぇぇぇ!!」


レヴ

『そうか楽しいなら良かった』


ミリア

「絶対違うわよ!」


エリシア

「どう聞いても違うわ!」


さらに数分後。


ようやくレヴは満足したらしく、全員揃って断崖へ降下した。


ドサッ


着地した瞬間、恒一はレヴの背中から転がり落ちた。


恒一

「……」


ミリア

「コウイチ、生きてる?」


エリシア

「反応が無いんだけど」


ゼノス

「はっはっはっ!!」


フェルド

『生きているだろう』


グランヴァルド

『多分な』


恒一

「……生きてる」


ルミナスはそんな恒一を見ながら静かに頷いた。


ルミナス

『やはり必要ですわね』


恒一

「……何がだ?」


ルミナス

『魔力膜です』


恒一

「……」


レヴ

『なるほど』


恒一

「お前はなるほどじゃねぇ!!」


ルミナス

『空を読む力も共鳴も素晴らしいですが、それだけでは高速飛行には耐えられませんわ。風圧から身を守る技術が無ければ、先に竜騎手の方が限界を迎えます』


恒一

「身をもって理解したよ……」


レヴ

『つまりコウイチが弱いのではなく、技術が足りないという事だな』


恒一

「原因のお前が言うな」


ミリア

「それは本当にそう」


エリシア

「珍しく恒一に同情するわ」


周囲に笑い声が広がる。


恒一は大きくため息を吐いた。


そして。


恒一

「まずは魔力膜を先に覚えるぞ……絶対に……」


レヴ

『分かった』


恒一

「今度は本当に分かってるんだろうな?」


レヴ

『たぶん』


恒一

「不安しかねぇよ!」


笑い声が断崖に響く。


こうして次の課題――魔力膜の訓練が決まったのだった。


――第百五話 終――

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