第百四話 新たな力
レヴの背中で恒一は妙な顔をしていた。
視界の端に浮かぶ文字。
誰にも見えない表示。
【戦闘支援モード】
【マルチスクリーン機能】
【起動しますか?】
YES / NO
レヴはそんな恒一の様子を不思議そうに見ていた。
レヴ
『コウイチ。さっきからどうした。やけに静かだ』
恒一
「静かにもなるだろ。昨日から空全部見ろだの言われてんだぞ。頭の容量が足りねぇんだよ」
レヴ
『なるほど。荷物だからか』
恒一
「その話まだ引っ張るのか!?」
レヴ
『面白かった』
恒一
「お前性格悪いぞ……」
後方から豪快な笑い声が響いた。
ゼノス
「はっはっはっ! なんだなんだ! 朝から仲良いな!」
ミリア
「仲良く見えないんだけど?」
エリシア
「喧嘩してる場合じゃないわよ?」
恒一
「好き勝手言いやがって……」
視線を戻すが文字はまだ消えない。
【起動しますか?】
YES / NO
恒一
(……まぁ、やるしかないか)
意識をYESへ向けた次の瞬間。
【起動します】
恒一
「――っ!?」
視界が変わった。
前後左右上下。
六方向が同時に見える。
恒一
(なんだこれ……!?)
さらに表示が流れる。
【空間認識補助機能 起動】
【周辺対象を認識】
【気流解析開始】
その瞬間空が変わった。
見えないはずの風が見える。
空気の流れが線になって空を走る。
上昇気流。
下降気流。
乱気流。
今まで何も無かった空が、情報で埋め尽くされる。
恒一
(ちょっと待て……多すぎるだろ……)
次々と流れ込む情報。
【グランヴァルド 後方42m】
【フェルド 下方61m】
【ルミナス 右上83m】
【上昇気流検出】
【風速 7】
【風向 西】
恒一
(無理だろこんなの!)
頭の中へ情報が雪崩れ込むが処理が追い付かない。
誰かを見れば別の情報が流れ込む。
風を見れば距離が表示される。
距離を見れば高度が表示される。
恒一
(ふざけんな! 人間の脳で処理出来る量じゃねぇぞ!)
その時だった。
【処理能力不足を確認】
【適性を確認】
【補助演算機能を構築】
【新たなスキルを獲得】
【《多重並列思考》を獲得しました】
恒一
「……え?」
次の瞬間頭の中で何かが変わった。
一つだった思考が分かれる。
前を見る思考。
後ろを見る思考。
上を見る思考。
下を見る思考。
風を読む思考。
レヴを見る思考。
混ざっていた情報が綺麗に整理されていく。
恒一
(分かる……)
さっきまで洪水だった情報が今は自然に頭へ入ってくる。
ゼノスは後方。
ミリアとフェルドは左下。
エリシアとルミナスは右上。
右前方には上昇気流。
左下には乱気流。
全部が同時に理解出来た。
ゼノス
「おーいコウイチ! さっきから変だぞ! ちゃんと周り見えてるのかー!?」
恒一
「見えてるどころじゃないな」
ゼノス
「なんだそれ?」
恒一
「逆に見え過ぎてる。つーかゼノス、お前今から右へ回り込む気だろ」
ゼノス
「……は?」
恒一
「グランヴァルドの翼が変わった。多分次の瞬間そっち行く」
ゼノス
「いやいやいや! なんで分かるんだよ!?」
ミリア
「ちょっと待って。今見てないわよね?」
恒一
「見てない」
エリシア
「じゃあ何で分かるのよ」
恒一
「知らん。でも分かる」
ゼノス
「なんだその答え!」
周囲が騒ぐが恒一はもっと驚いていた。
空が読める。
風が読める。
相手の動きが読める。
そして何より――
レヴ
『コウイチ』
恒一
「なんだ?」
レヴ
『右前方だな』
恒一
「え?」
レヴ
『上昇気流があるのだろう?』
恒一は目を見開いた。
言っていないのにレヴは理解している。
レヴ
『何故か分からんが、お前が見ているものが少し流れてくる』
恒一
「……共鳴か」
レヴ
『それだ』
恒一は思わず笑った。
初めてだった。
今までの共鳴は感情や直感だけだった。
だが今は違う見ている情報まで共有されている。
恒一
「レヴ。右前方十度」
レヴ
『了解した』
レヴナントが翼を傾けると上昇気流へ入り身体がふわりと持ち上がった。
レヴ
『なるほど』
恒一
「どうだ?」
レヴ
『飛びやすい』
ゼノス
「おいおいおい!」
ミリア
「嘘でしょ!?」
エリシア
「今の気流を読んだの!?」
ルミナス
『面白いですわね』
グランヴァルド
『なるほどな』
ゼノスは大笑いした。
ゼノス
「はっはっはっ!! なんだそれ! 昨日まで荷物だった奴が急に竜騎手みたいな事しやがった!」
恒一
「みたいじゃねぇよ。竜騎手だ」
ゼノス
「おっ、言うようになったな!」
レヴ
『肉一枚分くらいは役に立った』
恒一
「お前は黙れ!!評価基準がおかしいんだよ!」
空に笑い声が響く。
だが恒一の口元も笑っていた。
初めてだった。
ただ背中に乗っているだけじゃない。
レヴが飛んで自分が空を読む。
そして共鳴で繋がる。
ようやくほんの少しだけ竜騎手としての第一歩を踏み出した気がした。
――第百四話 終――




