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第百二話 竜騎手の役目

竜の郷へ来て十一日目。


今日も恒一達は断崖の訓練場へ集まっていた。


レヴの飛行訓練は順調だった。


飛んで、曲がって着地も出来る。


最初の頃のように崖から飛び出して、そのまま地面へ突っ込む事もない。


ミリア

「ほんと上達したわよね。最初は飛ぶたびに悲鳴が聞こえてたのに」


エリシア

「レヴより恒一の悲鳴の方が大きかった気もするけどね」


恒一

「好きで叫んでた訳じゃないからな!?」


レヴ

『当然だ。飛べるようになったのだからな』


恒一

「自分で言うな」


レヴ

『事実だ』


ゼノス

「まぁ、それは認める」


レヴ

『ほう』


珍しくゼノスが素直だった。


だが、その直後。


ゼノス

「でもコウイチは全然駄目だな」


恒一

「なんでだよ!?」


レヴ

『何故だ?』


ゼノス

「逆に聞くけどさ、お前ら飛んでる時って何してる?」


恒一

「何してるって……飛んでるだろ」


ゼノス

「飛んでるのはレヴだろ?」


恒一

「いや、まぁそうだけど」


ゼノス

「じゃあコウイチは?」


恒一

「乗ってる」


ゼノス

「それだよ」


恒一

「だから何なんだよ?」


ゼノスは呆れたように笑った。


そして空を指差す。


ゼノス

「コウイチ。競竜って何次元だと思う?」


恒一

「急だな……。空飛ぶんだから三次元だろ?」


ゼノス

「正解だ。じゃあ飛んでる時、お前どこ見てる?」


恒一

「前だけど?」


ゼノス

「だろうな。地上戦ならそれでもいい。前の相手とコースを見てれば何とかなる。でも飛行競竜は違うんだよ」


ミリア

「上もあるし下もあるしね」


エリシア

「左右も後方もあるわ」


ゼノス

「そういう事だ。空全部がコースなんだよ」


恒一は思わず黙った。


言われてみればその通りだった。


飛行中の事を思い出してみる。


離陸する。


しがみつく。


前を見る。


それだけだった。


周囲を確認する余裕など無かった。


グランヴァルド

『飛行竜は空を飛ぶ事に集中する』


フェルド

『風を読み、翼を操り、速度を維持する』


ルミナス

『だからこそ竜騎手が必要なのですわ』


恒一

「竜騎手が?」


ルミナス

『ええ。竜が見落とす物を見る。竜が気付けない変化に気付く。それが竜騎手の役目ですわ』


ゼノス

「俺なんか飛んでる時ずっと周り見てるぞ。上空の位置取りも見るし、風向きも見るし、相手がどこで仕掛けてくるかも考える」


ミリア

「私も似たようなものね。フェルドが飛びやすい位置とか、相手との距離とか見てるわ」


エリシア

「飛行競竜って思ってるより忙しいのよ?」


恒一

「……」


ルミナス

『ですが今のあなたは違いますわ』


恒一

「うっ……」


嫌な予感がした。


ルミナス

『飛んでいるのはレヴだけです』

『周囲を見ているのもレヴ』

『進路を決めているのもレヴ』

『加速するタイミングを考えているのもレヴ』

『あなたは何をしておりますの?』


恒一

「…………」


反論出来なかった。


何一つ反論出来ない。


レヴ任せ。


言われてみればその通りだった。


ルミナス

『今のあなたは竜騎手ではありませんわ』


恒一

「そこまで言うか……」


ルミナス

『事実ですもの』


ミリア

「つまり簡単に言うと」


エリシア

「言わなくていいわよ?」


ミリア

「今の恒一は荷物ね」


恒一

「結局言うのかよ!」


周囲に笑い声が響く。


レヴまで納得したように頷いていた。


レヴ

『なるほど。コウイチは荷物だったのか』


恒一

「お前まで納得するな!」


ゼノスは腹を抱えて笑っている。


ゼノス

「ははは! まぁ安心しろ! 最初はみんなそんなもんだ!」


恒一

「本当か?」


ミリア

「私は二回落ちた」


エリシア

「私は一回」


ゼノス

「俺は三回」


恒一

「落ちる前提じゃねぇか!」


グランヴァルド

『私は七回落とされた』


ゼノス

「いや、あれは事故だっただろ!」


グランヴァルド

『お前の魔力操作ミスで七回。あと一回は長老に突っ込んだ』


ゼノス

「回数数えてたのかよ!?」


フェルド

『ミリアも最初は酷かった。何度落とされたか…』


ミリア

「フェルド!?」


ルミナス

『エリシアも昔はレオン様に怒られてばかりでしたわ』


エリシア

「ル!?ルミナス!!??」


少しだけ気が楽になった。


今目の前にいる連中も、最初から出来た訳ではないらしい。


ゼノス

「だから今日から訓練内容変更だ」


恒一

「嫌な予感しかしない」


ゼノス

「飛行中、前を見るな」


恒一

「は?」


ゼノス

「前はレヴが見る。お前は上と下と左右と後ろを見ろ」


恒一

「全部じゃねぇか!」


ゼノス

「全部だ」


グランヴァルド

『それが竜騎手だからな』


ルミナス

『相棒を支えるとは、そういう事ですわ』


その言葉に恒一は思わずレヴを見る。


レヴもこちらを見ていた。


レヴ

『ならやるぞ、コウイチ』


恒一

「お前は即答だな」


レヴ

『当然だ。お前が荷物のままでは困る』


恒一

「その言葉、地味に傷付くんだけど?」


レヴ

『事実らしいぞ』


恒一

「誰のせいだと思ってるんだよ……」


再び笑い声が響く。


だが恒一は少しだけ真剣な表情で空を見上げた。


飛ぶ事ばかり考えていた。


だが飛ぶだけでは足りない。


レヴが空を駆けるなら。


自分もまた、その隣に立たなければならないのだ。


本当の意味での竜騎手訓練が、今始まろうとしていた。


この時の恒一はまだ知らない。


この日の訓練で、自分が三回落ちる事になるのを――。


――第102話 終――

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