第百話 規格外
初めまして。作者の杏仁豆腐です( . .)"
素人が初めて物語を書いて、何とか百話目まで投稿出来ました。
素人作品を日々読んでいただき読者の皆様には感謝です。
これからも頑張りますので少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
竜の郷へ来て一週間が過ぎた。
レヴの生活は飛行訓練一色だった。
飛ぶ。
落ちる。
飛ぶ。
落ちる。
最初の数日はそんな事の繰り返しだった。
だがゼノス達の指導を受け続けた結果、今では旋回も着地もある程度こなせるようになっている。
それでも。
まだ差は大きかった。
断崖の上空をグランヴァルドが滑るように飛ぶ。
銀色の巨体は風そのものだった。
フェルドも美しい軌道を描きながら空を駆ける。
ルミナスは光の粒を纏いながら優雅に飛行し、ゼノスは豪快な飛び方で空を裂いていく。
恒一はその様子を見上げながら感心した。
恒一
「一週間見てても思うけど、本当に別次元だな」
ミリア
「当たり前よ。みんな何年も飛んでるんだから」
エリシア
「レヴだってかなり上達してるけどね」
レヴは黙って空を見上げていた。
飛べるようになった。
旋回も出来るし、着地も出来る。
だが満足はしていない。
むしろ差が分かるようになったからこそ悔しかった。
ゼノス
「いい顔だな」
レヴ
『何がだ?』
ゼノス
「追いつきたい顔だ」
レヴ
『当然だ』
ゼノスは楽しそうに笑った。
そこへルミナスが降りてくる。
白銀の竜の周囲には淡い光が揺れていた。
恒一は前から気になっていた事を口にする。
恒一
「そういやルミナスの飛び方だけ何か違うよな」
エリシア
「ああ、光翼の事?」
ルミナス
『ええ』
レヴも視線を向ける。
ルミナスは翼を広げながら説明を始めた。
ルミナス
『飛行竜は翼だけで飛んでいる訳ではありません。空気の流れや空中に存在する魔力を利用し、その反発を蹴る事で加速しております』
恒一
「空気を蹴る?」
フェルド
『正確には空気の層と魔力の流れだな』
グランヴァルド
『だから飛行竜は空中でも加速出来る』
ルミナス
『光翼はその技術をさらに発展させたものですわ。空気の層を蹴る技術、魔力による姿勢制御、そして高速飛行時の風圧から竜と竜騎手を守る魔力膜。その全てを組み合わせた飛行技術です』
恒一
「なるほど」
ミリア
「簡単に言うと超上級者向けね」
ルミナス
『習得には長い年月が必要ですわ』
レヴは少し考え込んでいた。
そして静かに呟く。
レヴ
『なるほど』
恒一
「……嫌な予感がする」
レヴ
『空気の層を蹴ればいいのだな』
ルミナス
『違いますわ』
恒一
「即否定されたぞ」
レヴ
『そうか』
絶対に納得していない顔だった。
ゼノスは腹を抱えて笑う。
ゼノス
「まあいい! 飛んでこい!」
レヴ
『分かった』
恒一
「分かってないだろ絶対!」
レヴは崖を蹴った。
黒い身体が空へ舞い上がる。
一週間前とは別人のような飛び方だった。
高度も安定している。
旋回も出来る。
恒一も背中の上で普通に会話出来るくらいには余裕があった。
恒一
「最初の頃を考えると大した進歩だよな」
レヴ
『当然だ』
恒一
「その自信は嫌いじゃない」
しばらく飛行を続ける。
そしてレヴが突然呟いた。
レヴ
『コウイチ』
恒一
「ん?」
レヴ
『少し試したい』
恒一
「……嫌な予感しかしないんだが」
レヴは返事をしない。
代わりに後脚を引いた。
恒一
「おい?」
次の瞬間。
ドォォォォォォン!!
爆発音のような衝撃が空に響いた。
レヴの身体が弾丸のように前方へ射出される。
恒一
「ぶべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
恒一の顔面が完全に潰れた。
風圧で頬が引っ張られ、涙も鼻水も後方へ吹き飛ぶ。
景色が一瞬で流れ去る。
恒一
(速い速い速い速い速い!?)
地上では全員が固まっていた。
ミリア
「……え?」
エリシア
「ちょっと待って」
フェルド
『馬鹿な……』
グランヴァルド
『あり得ん』
ルミナスだけが呆然と空を見上げている。
ルミナス
『空気の層を捉えておりますわ……』
ゼノス
「ははははは!!」
恒一
「笑い事じゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
その直後レヴがもう一度後脚を振り抜いた。
ドォォォォォォン!!
さらに加速し周囲の空気が振るえた。
恒一
「ぶふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
恒一はもうまともな言葉にならない。
ルミナスは信じられないものを見るような目をしていた。
ルミナス
『加速効率は滅茶苦茶ですわ。技術としては未完成も未完成。ですが……』
ミリア
「ですが?」
ルミナス
『力任せに蹴っただけであの加速……異常ですわ』
フェルド
『普通なら数年かけて覚える技術だ』
グランヴァルド
『それを見ただけで真似したか』
ゼノス
「ははははは!! 面白ぇ!!」
エリシア
「笑ってる場合じゃないでしょ!」
ルミナスはさらに続ける。
ルミナス
『それだけではありません』
ミリア
「まだあるの?」
ルミナス
『魔力膜を形成しておりません』
エリシア
「……それってまずくない?」
ルミナス
『ええ、本来なら高速飛行時は竜騎手を風圧から守るために魔力膜を張りますわ』
ミリア
「あっ……」
全員の視線が空へ向く。
恒一
「…………」
既に魂が抜けかけていた。
しばらくしてレヴが満足そうに戻ってくる。
ドン!!
綺麗に着地した。
レヴ
『なるほど』
恒一
「…………」
レヴ
『コウイチ?』
反応なし。
レヴ
『コウイチ』
肩を揺するが恒一の反応はない。
ミリアが顔を覗き込む。
ミリア
「気絶してる」
エリシア
「白目向いてるわよ!?」
ゼノス
「ははははははは!!」
フェルド
『見事な気絶だ』
ルミナス
『風圧対策の重要性がよく分かる実例ですわね』
レヴだけが本気で首を傾げていた。
レヴ
『何故だ?』
そんなレヴの言葉を聞いて全員が頭を抱えていた。
何とか意識を取り戻した恒一はレヴの顔を見た途端。
恒一
「レヴ!お前ふざけんなよ!死ぬかと思っただろぉぉぉお!」
レヴ
『コウイチの鍛え方が足りない』
そんなやり取りを見て周りには笑い声が響く。
だが誰も気付いていなかった。
レヴの周囲に漂う黒金色の光が、一週間前よりも確かに濃くなっていた事に。
そしてその才能が、まだほんの一端でしかない事に。
――第百話 終――




