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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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竹と鬼

 足裏に伝わる湿った腐葉土を踏みしめながら竹林を進む。真宵の竹林は、頭上を埋め尽くす竹葉が外光を遮り、昼でも結構な暗さになるらしいが、私には関係のないことだ。エコーロケーションの外側から竹や風とは異なる音が耳に入る。ザッ、ザッ、ザッと乾いた葉を踏み散らす音。それは5メートル以上先、私の視界の外から、猛烈な勢いでこちらに近づいてくる。


「漸くお出ましかな」

 

 姿は見えない。けれど、獲物を見つけた獣のような殺気だけが、空気の震えとなって肌を刺す。こういうのもゲームのシステムによるものなのかな、と不思議に思いながら、薙刀を中段に構え、敵が私の領域に踏み込む瞬間を待つ。


 音が最大限に大きくなり、視界の端に歪な人型の輪郭が飛び込んできた。キキィッ! と、竹が割れるような鳴き声と共に現れたそれは小学生ぐらいの背丈だ。140cm前後に見える。ゴブリンというやつだろうか。


 勢いはそのままに、こちらへ走ってくるゴブリンの脛を目掛けて、体に染み付いた発声と共に薙刀を水平に振るう。


「脛ぇっ!」


 足元を思いっきり掬われたゴブリンは、体を半回転させながら腐葉土に叩きつけられる。その瞬間、上段から勢いよく顔に向かって物打ちを叩き込む。ゴブリンは形容し得ない鳴き声とともにポリゴン状となり消失した。

 

 ゴブリンの消失と引き換えに、何か小さな物がその場に現れた。周囲に新たな敵がいないことを確認して、それを拾う。


 《アイテム『割れた青竹』を入手しました。説明:武器の素材として使用できるが、耐久値が低くなり、破損しやすい》


「役に立たなそ〜、でも初めてアイテムを手に入れられたのは進歩だね!」


 1匹目の敵を倒したことで、調子づき、そのまま何匹か同様の方法で倒していく。祖母に叩き込まれた「最小の動作で最大の結果を」という教えが、このVR世界では恐ろしいほど鋭利な武器となっていた。10匹目を討ち取った頃には、私のレベルは7にまで達していた。道中で、獲得したセンスポイントを聴覚と触覚に割り振ったことと、レベルアップにより新たに3つのスキルが手に入った。


 武士(モノノフ)固有(オリジナル)スキル『ダブル・スピアー』

 聴覚固有(オリジナル)スキル『サウンドコレクター』

 触覚固有(オリジナル)スキル『ゼロ・ディレイ』》


 音の聞こえる範囲が広がるサウンドコレクターは敵を視認できる範囲が狭い私にとってはかなり嬉しかった。ゴブリン、あ、正式には竹暴鬼(たけぼうき)っていうらしいけど。そいつらを感知できる範囲が広がってからは、より戦闘が安定したように思う。


「安全第一だからね」


 と、ステータス画面を見ながらアイテムなどの確認をしていると、吟遊詩人のスキル『大地の讃美歌(アヴェ・ティエラ)』が目に入る。そういえば、幸運に補正がかかるらしいけど使ってなかったな、と思い「大地の讃美歌(アヴェ・ティエラ)」と呟くと、いきなり詩を歌い出した。私が!知らない曲を!勝手に!


 ――恥ずかしい。誰もいないとはいえ、暗い竹林の中で薙刀を片手に一人讃美歌を歌う女。通報されても文句は言えない。……歌った時間はわずか5秒ぐらいだろうか。しかし、たとえ短時間とはいえ、思春期の女子高生にはとても耐えられない羞恥の時間だ。


「……ゲームやってる人たちって、こういうのも恥ずかしがらずに堂々とやってるのかな。……色んな意味ですごいな。」

 

 ――突如、左方の竹林がメキメキッと派手な音を立てて弾け飛んだ。なぎ倒される竹。エコーロケーションの範囲に、突如として割り込んできたのは、これまでの鬼たちと同様のサイズ感の鬼。だけど、何かが違う。何が――武器だ。これまでの鬼たちはせいぜい40cmぐらいの武器しか持っていなかった。


 しかし、突如現れたそいつの右手には身の丈を遥かに凌駕する長さの武器が握られていた。咄嗟に、これまでと同様に鬼の脛に向かって薙刀を振り払う。


 ――ガキィィィン!


「受けられた!?」


 鬼は体躯に見合わない武器を体の一部のように使いこなし、私の一撃を軽く受け切った。

 

「……何、こいつ」


 私の独り言を、質問と捉えたシステムが応える。


 《レアエネミー『金竹暴鬼(きんたけぼうき)』です。推奨レベル15、突然変異した黄金の竹を武器に戦います。武器の操作は熟達していますが、本体の耐久性は竹暴鬼と同等です》


「私と長物(ながもの)で戦おうってことね」


 わずかばかりのプライドを刺激され、久しぶりに試合の感覚にスイッチが入る。その瞬間、金竹暴鬼が面に向かって得物を振るってくる。私は反射的に、相手の初動に合わせ、薙刀で受ける。掌に、痺れるような衝撃が走る。

 

 その衝撃の強さに驚き、わずかに足を引く。それを見た鬼がニチャアと笑った気がした。

 

 ――負けたくない。その一心で、私は薙刀の柄を握り直した。


 相手は推奨レベル15。今の私より倍以上も格上だ。だけど、システムは「本体の耐久性は他の鬼と同等」と言っていた。つまり、この鋼のような得物さえ掻い潜れば、勝機はあるってことだ。金竹暴鬼が振り回す長大な金竹からヒュン、ヒュンと空気を裂く音が、不気味に繰り返される。僅かに回転する速度が落ち、地面を強く踏みしめた。

 

「……来る」


 鬼が地を蹴り、一気に間合いを詰め、飛び跳ねた。繰り出されたのは、真上から頭部に向けた容赦のない唐竹割り。私はそれを半身のまま、柄で受けながら、振り払うようになんとか左下へ受け流す。返す刀で鬼の腹部を目掛けて石突で思い切り突き上げる。


 グゲェッと情けない声を上げて吹き飛んだ鬼は、のそっと立ち上がり再び臨戦体制に入る。石突の部分じゃ、ろくにダメージなんて入らないか。


 鬼と距離が生まれたこの隙に、頭の中でこれまでのスキルを確認し、最適解を選ぼうとしたその時――耳の奥で、心臓の鼓動とは違う、不吉な電子音が混じっていることに気づいた。音の方向へ意識を向けると


「……え、待って。なんでHPが減ってるの!?」


 視界の端で減少するHPバー。これまでほとんど無傷で倒してきて、ダメージなんて食らっていないはずなのに。毒に侵されたように1秒ごとにピッ、ピッ、とHPが削り取られている。


《警告。現在ステータスは『迷い状態』です。徐々にHPが減少しますが、回復アイテムやスキルで対応が可能です》


「そんなの今言わないでよ! 解除アイテムなんて持ってな……っ!」


 システムに食ってかかろうとしたが、目の前の金竹暴鬼はそんな猶予を一切与えてはくれなかった。鬼は先ほどの攻撃に怒っているのか耳障りな声を荒げ、自身の得物を低く構え直す。私が焦りを見せた一瞬を、こいつは見逃さない。


 グッと鬼が足に力を入れ、地面を爆ぜさせる音と共に、爆発的な推進力を生み出した。金色の獲物が、左側頭部に向けて弾丸のような速度で弧を描きながら放たれる。


(……っ、速い! でも、見えてる……!)


 身体に染み付いた反射が、辛うじて薙刀の柄をその軌道上へと滑り込ませた。


 ――ガキィィィン!


 金属同士が悲鳴を上げるような轟音。受けるタイミングがわずかにずれただけなのに、手にはさっきよりも強い衝撃が加わる。想像を凌駕する圧倒的なパワーによる重圧だった。


「……ッ、うああっ!」


 私の身体は、いとも簡単に後ろに吹き飛ばされた。受け流すことさえ許されない、暴力的なパワー。エコーロケーションが描く世界は激しく揺らぎ、上下の感覚が一瞬で狂う。


 ――ドォン!


 背中から腐葉土に叩きつけられ、肺の空気が強制的に押し出された。痛みはなくとも、激しい衝撃に思考が完全に塗りつぶされる。


(……起き、なきゃ……)


 身体が、動かない。泥のような倦怠感と、吹っ飛ばされたことによる衝撃が、立ち上がる意志を阻む。意識の隅で、さっきまで緑色だったHPバーが今のダメージで半分以下になり、今では真っ赤に染まっている。


 追い打ちをかけるように、鼓膜の奥でピッと不吉な警告音が鳴った。


(時間がない……)


 すでに私の脳内からは、ここがゲームであることは消え去っていた。生唾を飲み込む暇もなく、金色の鬼が勝利を確信したように、ゆっくりと、けれど確実に距離を詰めてくる気配がした。


(嫌だ。……こんなところで、終わらせない……!)


 鬼が再び地を蹴る。黄金の獲物が、今度は真上から、容赦のない唐竹割りとなって迫る。体を無理やり捻って、すんでのところで躱す。耳の横で、ドォンと鈍い音が響く。腐葉土の上を転がりながら、なんとか距離を保つ。


 こいつは最初の一撃といい、二撃目といい、小さいくせにしつこいくらいに頭ばかり狙ってきてる。そのせいか攻撃に移る瞬間、無駄にタメが生じる。だから、予測できるはず。いや、する!


 瞬間、竹林に吹く風が止み、場に静寂が生まれる。


 ――ググッ!


 来る!


 ――ドンッ!


 鬼の踏み込みが静寂を切り裂く。この距離、この速さ、このタイミング――


「ここぉ!」


 再三、頭部を狙われたおかげで、攻撃を完璧のタイミングで受け流すことができた。そして、叫ぶ。

 

「リコイル・カウンターぁぁ!」


 宙を飛んでいる鬼に下から上に向けて石突をぶち当てる。クリティカル判定の一撃によって横方向から垂直方向に無理やりベクトルを変えられた鬼は、上空に吹き飛び、なす術もなく虚空を見つめている。


 体の遠心力を利用し、薙刀の尖先を鬼に向ける。つい先刻、取得したスキルを放つ。


 「ダブル・スピアー!」


 空中で2度の衝撃を連続で受けた鬼は、無惨に、それでいて綺麗なグラフィックを散りばめながら消えていった。


 ――わずかな静寂を今度はシステムが切り裂いた。

 

《レアエネミー『金竹暴鬼(きんたけぼうき)』を撃破。レベルが12に上がりました》


「はぁ、はぁ……倒せた……」


 緊張の糸が切れたのか、その場にぺたっと座り込む。崩れ落ちる鬼の粒子の中から、月の光を凝縮したような黄金の輝きを放つアイテムが目の前に現れる。


《アイテム『蓬莱の金剛竹ほうらいのこんごうちく』を入手しました。説明:武器の素材になり、耐久値の減少が抑えられる》


「割れた青竹よりはいい武器が作れるかな」


 強敵を倒した安堵に、わずかに肩の力が抜けたその瞬間だった。

 

 ――ピッ。

 

 忘れかけていた電子音が、緩んだ意識を叩き起こす。


(あ……忘れっ……!)


 ――ピッ。


 そこで、私の意識はプツンと途絶えた。

 


 

 

 ――「……っ、う、うわあ!」


 叫びながら跳ね起きた私の指先が触れたのは、湿った竹の葉ではなく、宿屋『安らぎの灯火』の清潔で柔らかなシーツだった。エコーロケーションが描くのは、見慣れた安宿の質素な木製家具の輪郭。パチパチと爆ぜる暖炉の爆ぜ音が、先ほどまでの死闘が嘘だったかのように穏やかな響きを奏でている。


「……夢? じゃないよね。あ、HP……!」


 慌ててステータスを確認すると、数値は最大値まで回復していた。ほっと胸を撫で下ろし、ふうっと浅くため息をつき、気を取り直して文句を言うべき相手を呼び出す。


「ねえ、システムさん! なんであんな大事なこと後出しなのよ! もう少し、勝利の余韻に浸りたかったのに!」


 怒るところはそこなのか、と言われれば、おそらくは違う。


《私はカナデを支援しますが、ゲームの攻略に繋がる内容を管理側の立場から先んじてお伝えすることはありません。》


「……まあ、確かにネタバレされても嫌だしねえ……わかったよ。怒ってごめんね」


 《是。なお、HPが0になった場合、直前にセーブした宿屋へ戻り、デスペナルティとして所持ゼニーを半分消失、所持アイテムをランダムに1つ消失します》


 システムの説明にがっくりと肩を落とす。まあそれぐらいなら、と納得しかけた矢先、すぐに最重要事項を思い出し、私は血相を変えてステータスからアイテムストレージを開く。

 

「ま、待って。アイテム? アイテムは!? あの金色の竹は!?」


 あれが消えていたら、私の羞恥の歌も、あの死闘もすべてが無に帰す。祈るような気持ちで、アイテムストレージをスクロールする。……あった。蓬莱の金剛竹ほうらいのこんごうちく、どうやら今回は割れた青竹が犠牲になってくれたようだ。南無。


「よかったぁ。……これ、偽物とかじゃないよね?」


 ふと、古来の伝承が脳裏をよぎったが、偽りではない確かな充実感と達成感が私の体を包んでいた。

カナデが金ゴブリンに気づかなかったのは、真宵の竹林のギミックの一つです。竹林に潜む敵は認識しにくくなります。聴覚や視覚が高い数値であれば、認識が可能です。また竹林に自ら潜ることで、このギミックは解除されますが、竹林の中では武器を振るうことが難しく、単純に戦いにくくなるので特定のプレイヤーを除き竹林に入ることはまずありません。


また、金ゴブリンが出現するのは1日のうちランダムな30分間だけであり、その中で出現率が5%というプレイヤー泣かせです。

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