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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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迷いと真宵

 ヘッドギアを装着する手つきは、昨日よりもずっと手慣れていた。夏休みということもあり、時間は無限と言っても過言でないほどにある。とはいえ、昨日の経験から、あっという間に時間が過ぎることは分かっているので、日課である型の稽古は一通り済ませておいた。


「……さて。システムさん、いる?」


《是。おはようございます、カナデ》


「おはよう。……ねえ、昨日も思ったんだけど。私、このゲームのこと、実はあんまりよく分かってないんだよね。とりあえずお父さんに楽しめる、って言われてなんとなく始めただけだからさ」


 ベッドから起き上がり、薙刀の石突で床をトントンと叩く。昨日、触覚にポイントを振ったおかげだろうか。床から返ってくる振動が、昨日より鮮明に体へ伝わってくる。気がする。


《回答。本作『ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記(てんじんしちだいき)ー』は、現在世界累計1270万人のプレイヤーを有する、最新の和風VRMMORPGです》


「いっせんにひゃくまんにん……。そんなにいるんだ」


《是。本作の舞台は、万物が形を成す以前の黎明期――『天神七世(てんじんななよ)』と呼ばれる7つの世界です。現在は、その第壱ノ世界にあたる、雲海に囲まれた広大な自然が織りなす世界『コモリク』が唯一のプレイアブルエリアとして解放されています》


「天神七世……。7つの世界があるってこと?」


《是。各世界には世界を形作る神が鎮座しており、その試練を乗り越えることで新しい世界が造られる(ことわり)です。しかし、サービス開始から十ヶ月が経過した現在も、第壱ノ世界『コモリク』の最奥に潜む神を突破したプレイヤーは存在しません》


「え、1200万人もいて、まだ最初の世界さえ誰も抜け出せてないの?」


 そんな難易度の高いゲームのシステムに、視覚消失はプレイ難易度を高めるぞと注意されたことを思い出すと胃が痛くなってくる。そんな私を他所目にシステムは淡々と事実を伝えてくれる。


《本作の根幹を成すのは、〈Sensory of Trade System:STS〉による感覚の等価交換です。五感の一部を「消失」させ、その対価として特定の感覚を強化させる……。それは強大な力を得る術であると同時に、自らを致命的な脆弱性に晒す諸刃の剣にもなります》


「確かに、普通の人が視覚なくしたままでプレイしろって言われても無理だよね」


《是。『天神七世(てんじんななよ)』の世界には、五感の隙を突く無数のギミックが張り巡らされています。ある者は音に惑わされ、ある者は甘い香りに理性を奪われ、ある者は存在しない光に導かれる。特化した感覚は、時に攻略の糸口となり、時に逃れられぬ呪縛としてプレイヤーを蝕むでしょう》


「便利になるだけじゃないってことね。研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、かえって弱点にもなりやすい……か」


 ふと、祖母の顔を思い出す。あの人も武の道を研ぎ澄ませた結果、あんな風に頑なになってしまったのだろうか。武の極致と孫への慈しみはトレードオフ、と。


《その懸念は、実践を通じて体感されるのが最善かと思われます。現在、カナデのレベルアップに最適なエリアとして、始まりの街アスカの北西に位置する『真宵(まよい)の竹林』への進行を推奨します》


「迷いの、竹林?」


《肯。その名の示す通り、鬱蒼とした竹林であり、昼間でも陽光が差しにくく、薄暗いエリアです。奥部へ進みすぎれば迷い子となり、帰る道を失い、竹の養分になると言われています》


「こわいよ、なんでそんな場所が初心者用なの!?」


 ――相変わらず、都合の悪いことには返答をしないシステム。むしろこれはこれで可愛げを感じるようになってきた。浅くため息をつき、分かったから案内して、と告げるとすぐさま反応を見せる。

 

 《了。真宵の竹林を目的に設定。これより、音声ガイドによるサポートを実施します。アスカの外に向かって下さい》


 相変わらず大雑把な指示に苦笑しながら、私は始まりの町アスカの喧騒を背にした。門をくぐり、なだらかな丘を越えていく。エコーロケーションが捉える世界は、最新のVRMMOとは思えない無機質なものだ。舞台は昔の日本をモチーフにした和の要素が強いって話だから、京都のそれをぼんやりとイメージする。と言っても、視覚的なイメージなんて八歳以降からは持ち合わせていないので、教科書で見ただけの清水寺や五重塔のようなザ・京都!みたいな風景しか出てこない。


「正直、綺麗な景色はもっと見てみたかったなあ」


 と哀愁じみた独り言をポツリとこぼすと、久方ぶりにシステムが口を開いた。いや口なんてないんだろうけどね。


 《エリア『真宵の竹林』に着きました。音声ガイドによるサポートを終了します。エリア内の移動データは自動的にマップに保存されます》


 マップなんて見られないよ、目が見えないんだもん、と現実では絶対に言わない皮肉をシステムへ投げかけると 《マップのビジュアライズサポートを実施します》とだけ答える。システムはそっけないけれど、皮肉を言っても空気を読んだり、忖度したりしないから心地よい。


 迷いの竹林のマップが目の前に映し出る。技術ってすごいんだな、と感心する。……あ、『迷い』じゃなくて『真宵』なのね。ほぼ空白のマップを意識から外し、竹の葉が擦れ合う中心へと踏み込んだ。

ゲーム内の感覚消失者に対するサポートはかなり手厚く設定されています。聴覚消失者には、文字によるサポートなど、その状況に応じて支援されます。戦闘においてもある程度のサポートはありますが、リアルタイムで進行するため、サポートがあっても行動がそれに追いつかないことなどザラにあります。あくまで非戦闘時のサポートと考えて下さい。

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