国之常立神 弍
今度は私ではなく、最初からサクヤへ向かって一直線に。
これまでの作戦なら、私が割り込むところだ。
だが今回は、割り込まない。
「サクヤさん!」
「分かってる!」
サクヤが横へ跳んだ。
神の右腕が空を切る。
サクヤは着地と同時に銃を構えた。
「クリティカル・バレット!」
至近距離から放たれた弾丸が、鬼神の脇腹に直撃した。これまでより大きなダメージエフェクトが弾ける。
「距離が近い方がダメージが出るんだよねえ!」
私も動いた。
国之常立神の左側から踏み込む。脇腹へ薙刀を叩き込む。
ガギン!
両腕が痺れる。でも止まらない。
引き戻しざまに膝関節へ石突を打ち込む。
敵がわずかに揺れた。
その瞬間、国之常立神の左腕が横薙ぎに払われた。
避けきれない。
「っ!」
腹部に直撃した。
ドォン!
衝撃が内臓まで響く。触覚全振りの痛みが、思考を白く塗りつぶそうとする。
HPが大きく削れた。残り三割。
でも、倒れない。
膝が笑う。それでも足を踏ん張る。
(立て。立て。立て)
薙刀を杖のように地面に突き刺し、体を支える。
後ろからドンッ、ドンッ。
サクヤが撃ち続けている。
まだ動ける。
私は薙刀を引き抜き、再び構えた。
「カナデちゃん!HP!」
「見てます!続けてください!」
国之常立神が再びサクヤへ向かった。
今度は私も追いかけない。
代わりに、背後へ回り込む。
サクヤへ腕を振り下ろす。
サクヤが横へ転がって躱す。
直撃は免れたが、衝撃波でHPが削れる。
「ぐっ……!」
サクヤは即座に立ち上がり、銃を向ける。
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
連続で命中し、ダメージエフェクトが連続で弾けた。
私も同時に、背後から脚の付け根へ薙刀を叩き込む。
ガギン、ガギン!
国之常立神がわずかによろめいた。
「十パーセント!」
サクヤの声に力が戻ってきた。
国之常立神は、今度は私を狙ってくる。
右腕が振り上がる。大振りだ。
私は懐へ踏み込んだ。
腕が頭上を通り過ぎる轟音。
その隙に、胸板へ薙刀の切先を突き込む。
左腕が来た。
避けきれない。
「っ、ぅ……!」
左肩を直撃された。HPが更に削れる。残り二割を切った。
痛い。
痛いが、体が勝手に動く。
触覚が、衝撃の方向を読み取り、その力を利用して体を流す。
吹き飛ばされながらも、着地の衝撃を最小限に抑える。
エコーロケーションが弾丸を捉えた。
前へ踏み込む。弾丸が背中を通り過ぎ、鬼神の胸部に命中した。
「二十パーセント!」
削れている。
確かに削れている。
でも私のHPが限界に近い。
「カナデちゃん、傷薬!」
「使います!」
走りながらストレージを開き、傷薬を口に放り込む。HPが少し回復した。
でも、鬼神の攻撃は止まらない。
右腕が来た。
低く潜る。
左腕が来た。
右へ流れる。衝撃波で足元が揺れる。
神は無秩序にサクヤへと向きを変えた。
私は即座に神の前へ躍り出た。
「こっちです!」
薙刀を顔面へ向けて思いっきり突き上げる。
届かない。四メートルの顔面は、私の薙刀では届かない。
だが、国之常立神の注意が私へ向いた。
その瞬間、サクヤが叫んだ。
「スコープ・スナイプ!!」
轟音。
完全に静止した鬼神の頭部に、渾身の一撃が炸裂した。
これまでで最大のダメージエフェクト。
「三十パーセント!折り返した!!」
確かに届いている。
確かに削れている。
でも、サクヤのHPは残り一割を切っている。
「サクヤさん!回復!」
「もう残ってないって!」
私の手元にもあと一個しかない。
「受け取って!」
走りながら傷薬を投げる。
「助かる!」
サクヤが傷薬を飲み込む音がした。
その一瞬の隙を、神は見逃さない。
サクヤへ向かって地を蹴った。
「サクヤさん!!」
私も同時に動いた。
全力で、進路へ飛び込む。
間に合うか。
間に合わないか。
国之常立神の右腕が、サクヤへ向かって振り下ろされる。
私はその腕に飛びついた。
両手で薙刀を腕に絡め、全体重を乗せて軌道をずらす。
ガギィィン!
腕が軋む。骨が折れそうな痛みが走る。
でも、軌道がわずかにずれた。
ドォン!
腕がサクヤの真横で地面を叩いた。
クレーターが生まれる。土煙が舞う。
私は吹き飛ばされた。地面を何度も転がり、なんとか止まる。
HPが残り一割を切った。
「カナデちゃん!!」
「……生きてます……!」
立ち上がれない。膝が地面についたまま動かない。
それでも、薙刀を握る手だけは離さなかった。
「カナデちゃん、もう……!」
「まだです」
私は薙刀を地面に突き立て、それを支えに立ち上がった。
両腕が痺れている。脚が震えている。
視界の代わりのエコーロケーションが、激しく揺らいでいる。
それでも、国之常立神はそこにいる。
HPは残り七十パーセント。
まだ遠い。
でも、諦める理由にはならない。
「サクヤさん」
「なに」
「まだ撃てますか」
「……撃てる」
「ならまだできます」
私は薙刀を構え直した。




