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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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クニノトコタチノカミ 弍

 「さっきの戦闘を振り返ると、問題は二つ」

 

 サクヤが指を一本立てる。


 「一つ目。ダメージが全然足りない。カナデちゃんの攻撃じゃ、あの神には焼け石に水だ」

 「分かってます」

 

 悔しいが否定できない。何度斬りつけても、神は気にも留めなかった。


 「二つ目」

 

 もう一本、指が立つ。

 「俺が脆すぎる。あの速度で狙われたら一瞬で沈む」

 「そうですね。距離を離していても、あの踏み込みは防げませんでした」

 

 二人で黙って天井を見上げる。

 沈黙の中で、さっきの戦闘が頭の中をゆっくりと再生されていく。

 

 神がサクヤに向かって地を蹴った瞬間。

 一直線に、迷いなく。

 私がいることなど、視界に入っていないかのように。


 「……ねえ、サクヤさん」

 「ん?」

 「さっき神が動いた時、私のことを完全に無視してサクヤさんに向かいましたよね」

 「そうだね。遠距離ランクを優先的に狙うAI設定だと思う。前衛より後衛の方が脅威だって判断してるんだろうね」

 「だとすれば」

 

 私は少しずつ、頭の中で絵を描いていく。


 「神は常にサクヤさんを狙い続ける。だから、私がサクヤさんとの間に立ち続ければ、神は必ず私を通り抜けようとする。その度に、私が捌く」

 

 サクヤが静かになった。


 「……続けて」

 「サクヤさんは私の後ろから撃つ。私と神と、サクヤさんが常に一直線上に並ぶように動く。神がサクヤさんに向かうなら、必ず私を経由することになる」

 「でも、それだとカナデちゃんが邪魔になる。俺の弾がカナデちゃんに当たる」

 「当たりません」


 即答した。


 「……根拠は?」

 「エコーロケーションです。後ろからの攻撃も、私には見えてる。サクヤさんが撃つタイミングは分かります。だから、避けられます」

 

 サクヤが黙り込んだ。長い沈黙だった。


 「……つまり」


 やがて、ゆっくりと口を開く。


 「俺がカナデちゃんを狙うように撃てば、カナデちゃんが避けた先にボスがいて、弾が当たるってこと?」

 「そういうことです」

 「カナデちゃんを撃ち続ければ、弾が神に当たり続ける」

 「はい」

 「もしも当たったらめっちゃ痛いのわかってる?」

 「わかってます」


 サクヤがため息をついた。

 

 「……カナデちゃん、さっきの戦闘で何発避けた?」

 「数えてませんでした。でも、直撃を受けたのは最後の一発だけです」

 「あの速さの攻撃を?」

 「はい」

 

 また沈黙。今度は短かった。


 「……正気か、この作戦」

 「サクヤさんが思いついた作戦よりは、根拠がある気がしますけど」

 「どれのこと?」

 「回復アイテムを投げ込むやつです」

 「あれは結果的に正解だったから!」

 

 サクヤが不服そうに声を上げる。

 私は構わず続けた。


 「とにかく、今の私たちにできる最善はこれだと思います。サクヤさんが攻撃を当てる。私が攻撃を受ける。役割を分けて、一直線上を維持する」

 

 サクヤはしばらくステータス画面を眺めていた。やがて、画面を閉じる。


 「……分かった。やってみよう」

 「じゃあ、もう一度行きましょう」

 「ちょっと待って。一個だけ確認させて」

 

 サクヤが真剣な声になった。

 

 「俺がカナデちゃんを狙って撃つ。それって、怖くないの」

 

 私は少し考えた。


 「怖いです」

 「だよね」

 「でも、逃げたくないから」


 私は自分に言い聞かせるように呟いた。

 それを聞いたサクヤが短く笑った。


 「……そっか。じゃあ、俺もカナデちゃんの勇気を信じるよ」

 「お願いします」

 

 ――

 

 再び『最果ての秘境』。

 クニノトコタチノカミは、前回の戦闘などなかったかのように、ぼんやりと漂う霧の塊として佇んでいた。


 「まず回復アイテムからだね」

 「今回は節約しながら投与しましょう。手持ちが少ないので」

 「了解。厳選して投げる」

 

 サクヤが慎重にアイテムを選びながら、ひとつひとつ丁寧に投げ込んでいく。

 前回ほどの量ではないが、じわじわとクニノトコタチノカミの輪郭が収束し始める。

 

 数分後。

 ズン、と重い音とともに、人型が出現した。


 「よし、立った」

 「行きます」

 

 私は神へと向かって踏み出した。

 同時に、サクヤが私の真後ろへと回り込む。

 私、神、サクヤ。それぞれが一直線に並ぶ。


 「準備いい?」

 「いつでも」

 「じゃ、撃つよ」

 

 ドンッ。


 後方から銃声が響く。

 銃声よりわずかに速く、私は半身を右へ滑らせた。

 

 弾丸が頬の横を掠め、神の胸部に直撃する。

 ダメージエフェクトが弾けた。


 「当たった!」

 「もう一発」

 

 ドンッ。

 

 今度は左。

 弾丸が肩口をすり抜け、神の鎖骨あたりに命中する。


 「いいね、続けて!」

 

 神が動いた。サクヤへ向けて地を蹴る。

 しかし、その進路には私が仁王立つ。

 

 神の右腕が振り上がる。

 

 左へ。

 体が先に動く。

 腕が頭上を通り過ぎる。

 

 その隙に、薙刀を脇腹に叩き込む。小さなダメージエフェクト。

 でも、神の足が一瞬止まった。


 「今!」

 「クリティカル・バレット!」

 

 神の動きが止まった一瞬を縫って、サクヤの渾身の一撃が頭部に直撃した。

 大きなダメージエフェクトが弾ける。これまでで一番大きな光だった。


 「よっしゃ!」

 

 神が怯んだ。わずかに体勢が崩れる。


 「もういっちょ」

 

 ドンッ、ドンッ。

 

 連続で放たれた二発を、私は前へ踏み込みながら左右に体を振って避ける。

 弾丸が両脇を抜け、神の腹部に連続で命中した。

 神の体がよろめく。


 (……効いてる)

 

 確かに削れている。少しずつだが、確実に。

 神が再びサクヤへ向けて動き出す。

 

 私は横へ流れるように神の正面へ割り込む。

 神の腕が私を捉えようとする。

 右へ。左へ。


 後退しながら捌き続ける。

 触覚が神の動きの微細な変化を拾い上げ、体が先に反応する。

 当たらない。当たらせない。

 

 「カナデちゃん、後ろ!」

 

 サクヤの声と同時に、背後からの気配を感じ取る。

 エコーロケーションが、弾丸の軌道を捉えた。

 一歩前へ踏み込む。弾丸が背中を通り過ぎ、神の喉元に命中した。

 

「ナイス!」

 

 神がまた怯む。

 私は即座に薙刀を振るう。

 脇腹、膝、腕。手が届く場所に次々と叩き込む。


 サクヤの一撃に比べたら小さな光だが、確かに積み上がっているはずだ。

 

 「サクヤさん、溜めて!」

 「分かった!」

 

 私が神の注意を引きつけながら、サクヤが大技の準備をする時間を作る。

 神の攻撃をいなし、捌き、流す。一発ももらわない。


 「いくよ!どいて!」


 私が大きく横へ飛んだ瞬間、轟音が秘境に響いた。

 

 「スコープ・スナイプ!」

 

 これまでの銃撃とは桁の違う衝撃が、神の頭部を直撃した。

 巨大なダメージエフェクトが弾け散る。神の体が大きく仰け反った。

 

 仰け反った神に向けて、私は再び踏み込んだ。

 薙刀を振るいながら、後ろからの銃声をリズムで感じ取る。

 来る、と思ったら体を流す。弾丸が抜け、神に当たる。

 

 避けて、当てる。避けて、当てる。

 

 それを繰り返す。

 

 神のHPが、目に見えて削れていく。

 その瞬間、神の動きが変わった。

 

 これまでのような大振りではなく、素早く、細かく、読みにくい動きへと切り替わってきた。


 「カナデちゃん、動きが変わったよ!」

 「分かってます!」

 

 細かい動きは、かえって体の反応速度が活きる。

 大振りより速いが、軌道が小さい分、最小限の動作で捌ける。

 

 ギンッ。ギンッ。

 

 連続で薙刀の柄が神の腕を受け流す。

 そのたびに、後ろからサクヤの弾丸が飛んでくる。

 

 一瞬たりとも気を抜けない。


 神のHPが半分を切った。

 しかしその瞬間、クニノトコタチノカミが動きを止めた。

 不気味な静寂。

 

 「……なんですか、これ」

 「分からないよ。でも、嫌な予感がする」

 

 次の瞬間、神の輪郭が大きく揺らいだ。

 輪郭が広がっていく。人型だった形が、霧のように溶け始める。


 「消えようとしてる!?」

 「回復アイテム!今すぐ!」

 

 サクヤが叫びながらストレージを漁る。私も残り僅かな傷薬を全て投げ込む。

 だが、間に合わなかった。

 クニノトコタチノカミは再び霧の塊へと戻り、ただそこに漂うだけの存在へと戻ってしまった。


 「……逃げられた?」

 

 サクヤが悔しそうに呟く。


 「形を保てる時間に、限りがあるんですかね」

 「みたいだね。くそ、あと少しだったのに」

 

 私たちは、ただその場に立ち尽くした。

 でも、絶望じゃなかった。


 「回復アイテムをもっと用意しないといけませんね」

 「量と、種類。あとは形が保てる時間を伸ばす方法があれば……」

 

 私の腰元で、チリリと琴鈴が鳴った。


 (……命を、もっと与える)


 「サクヤさん、アイテムを集めましょう。今度こそ、仕留めるために」

 

 サクヤは一拍おいて、いつもの軽薄な声を取り戻した。


 「だね。でも、その前に一個だけ言っていい?」

 「なんですか」

 「この作戦、めちゃくちゃ上手くいったよ。カナデちゃん、すごかった」

 

 私は返す言葉を探して、少し間があいた。


 「……サクヤさん、全く躊躇してなかったですもんね」

 「当たり前でしょ。カナデちゃんの勇気を無駄にできないからね」

 

 そう言って、サクヤが先に歩き出す。

 私はその背中を追いながら、手のひらをゆっくりと握り直した。

 まだ終わっていない。でも、勝ち筋が見えた。


 確かに、見えた。

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