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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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VS 酒呑童子 終

「本当に性格悪いですよね、サクヤさんって!」

 

 吐き捨てた言葉は、背後でケラケラと笑う男の耳に届いたはずだ。


 苛立ちを力に変え、私は石突で地面を強く蹴った。


 酒呑童子の咆哮に呼応するように、四方八方の藪から、そして岩陰から、赤鬼、青鬼、さらには黒鬼までもが這い出してくる。


 その数、およそ十五。


 システムログが「Warning」の赤色に染まり、視界の端で小刻みに震えている。

 

「カナデちゃん、前衛は任せたよ!ミスったら特訓倍にするから」

 

「鬼! サクヤさんこそ鬼です!」

 


 叫びながら、小鬼たちの群がる中心へと向かう。


 小鬼、といってもどれも3メートル近くはある。

 あくまで酒呑童子と比べれば小さいというだけだ。


 適当な攻撃は効かないし、もちろん攻撃を受けるのも厳禁だ。


 ひとつの焦りがゲームオーバーに直結する。


 複数の鬼を相手取り、私は避けることに集中した。


 赤鬼の右腕。

 青鬼の右脚。

 緑鬼の左腕。

 青鬼の右腕。

 

 避けて避けて、小鬼の意識を私に向ける。


 そうすれば――。


「ナーイス前衛」


 小さく耳に届いた声の直後、耳をつんざく様な銃声が駆け抜ける。


 一発。

 二発。

 三発。


 その音が響く回数だけ、鬼の数も減っていく。


「カナデちゃーん、これじゃあ動かない的を撃ってるだけだよー。つまんなーい」


 私はゲーマーの愚痴を無視して、まだ後ろに控えている黒鬼二体のもとへ駆け出す。


 黒い双璧の奥には巨躯を揺らして立ち上がった酒呑童子がいた。


 折れた角の端からどす黒いオーラを噴き出させ、その瞳はドロリとした殺意に濁っている気がした。


 酒呑童子が怒り狂った咆哮を放つと、焦ったように黒鬼二体が突っ込んできた。


 (右のが速い……)


 そのわずかな差異を見逃さず、右側の黒鬼の側面に回り込み、一対一の構造を作り出す。


 黒鬼右の左腕から地を這う薙ぎ払いが繰り出される。


 石突を地面に突き立て、高跳びの要領で迫り来る腕を飛び避ける。


 薙ぎ払うために姿勢を低くした鬼の顔面に、しなる薙刀打ち込む。


「『バンカーショット』!」


 黒鬼右の顔が跳ね上がる。


 ようやく追いついてきた黒鬼左が回り込む様に私の後ろを陣取る。


 今度は二対一だぞ、と言わんばかりに鬼の声が共鳴する。


「そこ、危険地帯ですよ。」


 私の後ろに立つ黒鬼左へ忠告する。


「正解」


 答えたのは黒鬼ではなく、狙撃手の男だった。


 (ん、やけに近くで聞こえた気が――)

 

 男はいつのまにか長身の銃を小型のものに切り替えて肉薄してきている。


「なんで――」


 私が問いただす前に、小型の銃が短く二回火柱をあげて、黒鬼左を倒してしまう。


「……私の特訓だったんじゃないんですか?」


 ジロリと、サクヤを睨む。


「ザコ相手の後衛つまんなくなっちゃった」


 てへ、と首を傾げるサクヤ。


 何も言い返す気力のない私は未だ顔を抑える黒鬼右へと振り返る。


「完璧に合わせるから、自由に動いていいよ」


 サクヤはそう言って、私の隣に立つ。


 ふと、ウズメとミキの姿が脳裏に浮かんだ。

 お互いの実力を信頼しきっている二人。

 今の私たちも少しはそんな関係になっているのかな。


 (こういうの良いかも……)


 私はニヤけそうになる表情にグッと力をいれて誤魔化す。


「……足引っ張らないでくださいね」

「言うようになったね」


 私とサクヤは、お互いを一瞥し、ほぼ同時に残る黒鬼に目を向けた。

 

 私が踏み込み、サクヤさんが並走する。

 視界の端で、彼がハンドガンをリズミカルに連射した。


 黒鬼の膝、肘、そして眼球――動きを阻害するポイントを正確に撃ち抜き、敵の防御姿勢を強制的にこじ開ける。

 

 黒鬼が怯んだその一瞬、私は地を滑るように懐へ潜り込んだ。

 

「はあああぁっ!」

 

 薙刀の石突で地面を叩き、その反動を利用して独楽のように回転する。

 

 円を描いた刃が黒鬼の巨体を横一文字に裂き、続けざまに振り上げた切っ先が、サクヤの放った弾丸の軌道をなぞるように顎下を貫く。

 

 崩れ落ちる巨体。

 背後でサクヤが残った弾丸を黒鬼の胸元へ叩き込み、トドメを刺す。


(……すごい)


 打ち合わせなしの連携の出来栄えに、我慢していた口角が再び上がりそうになる。

 

「ボケッとしない」


 サクヤの短く、鋭い声によって引き締められる。

 僅かに遅れてサクヤの後ろを追いかける。


 そして、真打ちとの第二戦目が動く。

 

 ――オォォォォォォォ!!

 

 大気を震わせる咆哮。

 酒呑童子が、その身の丈ほどもある巨大な金棒を振り上げた。

 

 直撃すれば、防御など無意味。

 一撃でHPバーが消し飛ぶ。

 

「カナデちゃん、左!」

「分かってます!」

 

 振り下ろされた金棒が地を砕き、衝撃波が肌を焼く。

 私はあえてその衝撃を利用して跳んだ。

 空中で姿勢を制御し、酒呑童子の腕を駆け上がる。

 

 だが、ボスもさるもの。

 何度も同じ手は食わないと言わんばかりに、空いた左手が、羽虫を叩き落とすように私へと迫る。

 

(捕まる――!?)

 

 ――乾いた銃声。

 

 私の鼻先をかすめるように飛来した弾丸が、酒呑童子の手の甲に突き刺さり、その動きを一瞬だけ硬直させた。

 

「余所見厳禁だよ、お山の大将」

 

 いつの間にか、サクヤは再び長身の狙撃銃に持ち替えていた。

 超近距離での照準すらまともに合わせられない距離で、彼は正確に穿つ。


 「ナイス、サクヤさん!」

 

 自由になった私は、酒呑童子の首筋に薙刀を叩きつける。

 

「『断頭』!」

 

 重い手応え。しかし、ボスのHPゲージは半分以上残っている。

 

 ガ、アァァァッ!!


 首筋を深く断たれ、酒呑童子の口から言葉にならない憤怒の咆哮が漏れる。

 だが、その巨体から溢れ出す威圧感は衰えるどころか、さらに濃密な殺意を帯びて膨れ上がった。


 荒れ狂う童子から一度距離をとる。


 それを見た童子は手に持った金棒をおおきく振りかぶって、あろうことか私たちめがけて投げつけてきた。


 3メートル近くの武器が地を這うようにして迫り来る。

 体感的には車が回転しながら飛んできている感覚だ。


 私とサクヤはほぼ同時にジャンプしてそれを躱す。

 空中の短い間に、対面の鬼と目が合った気がする。


 鬼はゆっくりと両手を頭の上に振りかざしている。

 足元で金棒が通り過ぎ、静かに着地した瞬間。


 酒呑童子は剥き出しの両手で地面を大きく叩いた。


 ――ドォォォン!


 地面から伝わる振動が足元にまで流れ込んでくる。


《警告。現在のステータスは『足枷状態』です。一定時間、その場から動くことができなくなります》


 システムの声が脳に響く。


(動けなくなる!?)


 私は必死に足を持ち上げようと力を入れるが、システムの力には抗えないようで、ピクリとも動かない。


 その姿を見た酒呑同時はゆっくりと私の元へ向かってくる。


 ドシン、ドシンと一歩ずつ地鳴りを引き連れて、私に近づいてくる。


(まだ動けないの!?)


 必死に足を動かそうとするが、その努力が報われることはなく私は棒立ちで鬼の来訪を待つしかなかった。


 「サクヤさんっ!」


 助けを求めて、同じく横で動けないであろう相棒に声をかけるが、そこには誰一人の姿もなかった。


「どこ――」


 消えたサクヤを探す暇もなく、酒呑童子の顔がぬうっと、私の目の前に肉薄してきた。

 まるで品定めするかのように、舐め回すようにジロジロと見てくる。


 きついお酒の匂いと、鉄分の混じった匂いが私を包み込む。

 私が動けないことを知って、鬼は余裕を見せている。


 満足いくまで私を目で嬲ったのち、鬼は金棒よりも大きな右腕を大きく振りかぶる。

 

(殴られる!?)

 

 私は反射的に目を瞑り、知らず知らずに声が漏れる。


「――サクヤさんっ、助けて」

「呼んだ?」


 突然の声に瞼が引っ張られる。

 声の持ち主は、私と鬼の間に毅然として立ちはだかっていた。


 すでに酒呑童子の右腕はサクヤの眼前にまで迫っていた。


「『トリプル・バレット』」


 右手と左手に携えられた二丁拳銃。

 そこから三発ずつ、計六発の弾丸が迫り来る拳の中央を寸分の狂いなく貫く。


 三回目の銃声が鳴り響いた瞬間、鬼の拳は後方に弾き返される。


「これ飲みな」


 サクヤが振り返ると何かを投げてきた。

 辿々しく受け取り、システムが説明する前にそれをパクッと飲み込む。


 先ほどまでうんともすんとも言わなかった足がいとも簡単に動かせるようになった。


「……ありがとうございます」


 私はサクヤの隣へと足を進める。

 

 「助けてって言われちゃあね」

 「……忘れてください」

 

 サクヤは笑いながら二丁拳銃から、再びあの長大な狙撃銃へと切り替えた。

 酒呑童子は右拳を弾かれた屈辱からか、どす黒いオーラをさらに噴出させる。


「カナデちゃん、そろそろ倒すよ」

「……分かりました、サクヤさん!」


 私は薙刀を正眼に構え、重心を低く落とした。

 視界の中の酒呑童子が、バネのように体を沈める。

 

 ――オォォォォォォォォ!!


 鼓膜を揺らす絶叫。

 地響きとともに、赤い巨躯が弾丸のような速度で肉薄してくる。

 金棒を捨てた酒呑童子の動きは、身軽になった分、先刻よりも明らかに速かった。


 今の私では、反応が精一杯で迎撃の余裕などない。


「――左足、抜くよ」


 背後で重厚な銃声が轟いた。

 サクヤが放った狙撃弾が、突進する酒呑童子の左足首を正確に撃ち抜く。

 

 ガクンッ、と強引にボスの姿勢が崩れた。

 突進の勢いが殺されることなく、無防備な上半身が地面すれすれまで投げ出される。


「今だッ、跳べ!」


 サクヤの叫びを合図に、私は地面を爆発的に蹴った。

 崩れ落ちる巨躯の上空、無重力のような滞空時間。

 

「はああああぁぁっ!」


 私は空中で体を大きく捻り、薙刀の遠心力を極限まで溜める。

 視界の端で、サクヤが銃口を上に向け、さらに追撃の弾丸をボスに叩き込むのが見えた。


 その衝撃でボスの体がわずかに浮き上がり、私の刃の軌道上に喉元が固定される。


(――本当に、完璧に合わせるんだから……!)


 信頼という名の確信が、私の刃に乗り移る。


「スキル――『胡蝶旋』!」


 白銀の残像が、酒呑童子の喉元から胸元にかけて幾重もの円を描き、その肉体を深く、深く刻んでいく。

 

 一閃、二閃。

 

 絶え間ない連撃が、ボスの防御力を無視してダメージを積み上げていく。


「まだ……終わりじゃ、ない!」


 着地と同時に、私は残った気力を薙刀に注ぎ込んだ。

 刃が青白く発光し、大気が震える。


「これで、最後――ッ!!」


 ――トライスピアー!!


 一撃目が胸を、二撃目が腹を。

 そしてラスト一撃、渾身の突きが酒呑童子の眉間、あの折れた角の付け根を貫いた。


 「…………ガ、ハ…………っ」


 酒呑童子の瞳から、ドロリとした殺意が消えていく。

 巨躯が、まるでスローモーションのように背後へと倒れ込み、地面に触れる直前、眩いばかりの光の粒子へと弾けた。


《エリアボスを討伐しました。レベルが100に上がりました》


 聴覚に伝わるクリアーの音声。

 急激に静まり返るオオエヤマ。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 私は膝を突き、肩で息を吐いた。

 掌が痺れている。心臓の音がうるさいほどに鳴り響いている。

 

「120点。最後の一撃、今までで一番良かったよ、カナデちゃん」


「……サクヤさんの18体討伐。今の私の動きでできますか?」


 期待を込めて尋ねる私に、サクヤは一度だけ「うーん」と真剣に悩み――。


「惜しい!17体分かな!」


「……やっぱり性格悪いですよ、サクヤさん!」


 悔し紛れに叫んだ私の声が、霧の晴れ始めたオオエヤマの空へと響き渡った。


 「よし。これでオオエヤマの主も陥落、だね」


 サクヤさんが銃を肩に担ぎ直し、消えゆく光の粒子を眺めながら言った。

 その視線は、さらにその先――雲の切れ間に見える、この世界の最深部へと向けられている。


「カナデちゃん、次はついに本番……『クニノトコタチノカミ』への挑戦だよ。準備はいい?」


「……はい。正直、想像もつかないですけど」


「あはは、それでいいよ。実際、酒呑童子とは比べ物にならないしね。じゃあ、今日はここまで。しっかり休んで、コンディション整えといてね」


 サクヤさんの体が青い光に包まれ、淡く透けていく。


「また明日。……あ、寝坊して遅刻したら特訓倍だからね?」


「もう、最後までそれなんですから! ……おやすみなさい、サクヤさん」


 彼の姿が完全に消えるのを見届け、私はステータスを開く。

 転移の札を使用し、慣れた足取りで安らぎの灯火のベッドに横たわる。

 数秒で、意識が浮上し、VRゴーグルの内側の暗闇が広がった。

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