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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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サクヤ視点 「陸」

「付き合うって、こういうことですか?」


 転移札を使って、アスカに戻った。

 人通りの少ない路地裏の会員制のカフェ『侘び寂び』で、カナデは心底呆れたような、あるいは警戒心を解ききれないような顔で俺を睨んでいた。


「なにー? 変なこと想像しちゃってた?」


「ふざけないでください」


 まあ、そうなるよね。

 俺にしてみれば「調査や攻略に付き合って」程度の軽いニュアンスだったんだが、思春期真っ只中であろう女の子に、あの緊迫した場面で「付き合って」なんて言えば、勘違いするのも無理はない。


 怒らせるつもりはなかったが、恥ずかしそうに視線を泳がせる彼女を見ていると、つい揶揄いたくなる。


 ……タイプじゃない、なんて小声が聞こえてきたのはちょっと傷つくけど。


「冗談は置いといて、カナデちゃん。俺と組まない?」


 本題を切り出す。

 当然、彼女の顔には「何を企んでいるんだ」と言わんばかりの不信感が浮かぶ。


 さっきまでPKしようとしていた相手が、いきなりビジネスパートナー面をし始めたんだから当然だ。


「何でですか?」


 訝しげに俺をきっ、と睨む彼女。

 右手でさっきグーパンを受けた場所をさすっている。


「あはは! あれはまだ本気じゃないよ!」


 脈絡のない俺のセリフに図星を突かれたような彼女の反応。


 思わず笑いが漏れる。


「手を組んで欲しい理由は、大きな理由がひとつ。それと、小さな理由がひとつ。……大きな理由は、コモリクの(ボス)――クニノトコタチを倒す。そのために力を貸して欲しい」


 案の定、カナデは絶句した。

 GOIがリリースされて半年以上。

 一千万を超えるプレイヤーが挑み、誰一人として頂に辿り着けていない絶望の象徴。

 

 それを、始めて数日の初心者に手伝えと言う。

 側から見れば、狂気の沙汰に見えるだろう。


 いや、当の本人はそれ以上に驚いている。


「まあ、ぶっちゃけそんなに期待はしてないよ。これまで数多の廃人ゲーマーが挑んでコテンパンにされてるからね」


「じゃあなんで、わざわざ初心者の私と手を組みたいんですか?」


「今欲しいのは変化なんだよね」


 そう、変化だ。

 俺たちはもう、既存の攻略理論(セオリー)に行き詰まっている。

 一ヶ月でボスの前まで行った。

 そこからの1年近く、俺たちは一歩も前に進めていない。

 

 必要なのは、俺たちの「常識」の外側にいる人間。

 さっきの戦闘で確信した。


 彼女の存在が()()だ。


「ちなみに、小さい理由は?」


「それはカナデちゃんがこなしているイベントについて知りたいから」


 俺が指をさすと、彼女はまたキョトンとした。

 無自覚。これこそが、彼女が変化の種である最大の証拠だ。


 彼女が持っているあの薙刀。

 古参の俺ですら見たこともない逸品だ。

 そもそも不人気武器である薙刀の、しかも超高レアリティ。

 その入手経路を聞き出そうとすると、彼女はキュッと口を噤んだ。


「見逃してあげたでしょ?」


 少しだけ、意地悪な圧をかける。

 PKのデスペナルティ――所持品をランダムで一つ没収されるというシステムを突きつければ、賢い彼女なら察してくれるはずだ。


 俺がその気になれば、力ずくでその武器を奪うことだってできたということを。


「そんなの無法地帯じゃないですか!?」


「フツーはPK対策してるし、初心者狩りみたいなのは少ないからね。意外と治安はいい方だよ」


(まあ、俺らみたいな例外はいるけどさ)

 

 心の中で舌を出しながら、じっと彼女の返答を待つ。

 やがて観念したように、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。


 ――

 

 話を聞くうちに、俺の心拍数は上がっていった。


「うん。カナデちゃん、俺と組もう!絶対に組もう。キミは逸材だ」


 確信に変わった。

 吟遊詩人なんて、攻略効率を重視する廃人層は誰も選ばないゴミ職だ。

 だが、そのゴミ職を選んだことが、NPCとの会話に特別な補正を生んだ。

 

 さらには金竹暴鬼(きんたけぼうき)獠牙(リャオヤー)

 運営の悪意が詰まったような確率の壁を、彼女は無自覚に、たった数日で踏み越えている。


「狙わないで出したカナデちゃんは、相当運が良い」


 リアルラック、という言葉で片付けるにはあまりにも異常だ。

 だが、その異常さこそが、今の俺には必要なんだ。


 獠牙の部位破壊の件、そして何より視覚消失を選んでいること。

 俺のような、現実から逃げてきたプレイヤーとは違う。

 彼女は、欠損を受け入れたまま、この世界で「見えない」ことを強みに変えようとしている。

 

(本当、変態だよ、この子は)


 自分でも指をさしすぎだと分かっているが、興奮が抑えられない。

 俺たちが血眼になって探していた「最後のピース」は、案外こんなに近くに、こんなに無垢な姿で転がっていた。


「でも、手を組むって具体的にはどうしたら?」


「ああ、ちょっとまって申請するから」


 空間を操作し、パーティ申請のウィンドウを飛ばす。

 彼女が躊躇いがちに指を動かし、「はい」をタップするのをじっと見守る。


「なるほど。視覚消失でも、ウィンドウにはアシストがつく、と」


 彼女の挙動を観察するだけで、未知の情報が手に入る。

 視覚消失のブラックボックス。

 攻略組の誰もが非効率だと切り捨ててきた暗闇。

 

 俺はその暗闇の奥に、彼女と一緒に手を突っ込むことに決めた。

 彼女が隣にいるのなら、俺の歪んだプライドも、少しは真っ当な方向に向けられるかもしれない。

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