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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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サクヤ視点 「漆」

「じゃあ、カナデちゃん、早速レア武器完成させにいこっか!」


 パーティ申請を受諾したのを確認して、俺は努めて明るく声をかけた。

 だが、返ってきたのは心底居心地が悪そうな拒絶だった。


「サクヤさん……そのカナデちゃんっていうのやめてもらえませんか? なんか慣れなくて」


「じゃあ、カナデ?」


 距離を詰めようと呼び捨てにしてみたが、逆効果だったらしい。

 彼女は一瞬、背筋を震わせ、まるで未知の生物に遭遇したような顔をした。

 

 数秒の沈黙。


 彼女の脳内でどんな葛藤があったのかは知らないが、結局「そのままでいいです」と投げやりな回答が返ってきた。


 相変わらずのニヤニヤ顔を張り付けたまま、俺たちはカフェを後にした。


 ――


 冒険者ギルド。

 出迎えたのは、威圧感の塊のような巨漢――鍛冶師のミキだ。


「どーもー! サクヤでーす」


 適当に手を挙げて挨拶するが、ミキは「ふん」と鼻を鳴らしただけ。

 冷たい。

 いや、これがこのNPCの正しい反応だ。

 

 やっぱりカナデへのあの態度は、吟遊詩人の補正によるものなんだろう。

 効率だけを求めてこの無愛想な巨漢たちと事務的な会話しかしてこなかった俺たち攻略組には、一生かかっても見つけられなかったルート。


(知識では知っていても、実際にはこんなにも違いがあるのか)

 

 ミキが彼女の持ってきた『翡翠石・極』を軽々と持ち上げる。

 そして、彼女の持つ『陽炎の大蛇薙』を預かり、炉へと向かった。

 

「武器が出来上がるまで、今後の話を軽くしておこうか」


「クニノトコタチですか?」


 俺は首を振った。

 焦る気持ちはあるが、現実を見なきゃいけない。


「そうしたいのは山々だけど、まだ無理だね。カナデちゃん、弱すぎるもん」


 あからさまにダメージを受けた顔をする彼女。

 可愛いところもある。

 

「カナデちゃんのレベルアップとスキルアップ。……キミは現実でそこそこ武道とかやってるんだろうけど、ゲームでの戦い方はまるでなってないからね」


 これは本音だ。

 彼女の薙刀の腕前は確かなものだ。

 だが、それはあくまで人間の枠の中での強さに過ぎない。

 

「このゲームGOIは神を倒すのがコンセプトだよ? 人でいる限り勝てるわけがない」


 俺の言葉に、彼女が小さく「神になる」と呟いた。

 その言葉の響きがあまりに真っ直ぐで、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「あはははは! やっぱり面白いねえ、カナデちゃんは! 神になんてなれるわけないじゃん、無理無理。でもね、そこを本気で目指さない限り、GOIはクリアできない」


 自嘲気味な笑いが混じる。

 俺だって、現実の欠落を埋めるために最強プレイヤーの一角を演じているに過ぎない。

 だが、彼女のような無垢な変化が加われば、その届かないはずの場所に手が届くかもしれない。


 そんな熱が、胸の奥で燻る。


 レベルの話になると、彼女はまた自信なさげになった。

 

 一千万人のプレイヤーがひしめくこの世界で、彼女は産声を上げたばかりの赤ん坊のようなものだ。

 俺のレベル「173」を提示すると、彼女は案の定、めまいを起こしたような顔をした。

 

 その時、炉の方からミキの野太い声が響いた。

 

「おおい、できたぁぞ!」


 ――


 手渡された薙刀――『真打:陽炎の大蛇薙』。

 

(……おいおい、マジかよ)


 真打の名に恥じない輝きが先端から放たれている。

 

 彼女の隣で、俺は思わずぴょんぴょんと跳ねてしまった。

 見たい。喉から手が出るほど見たい。

 

 彼女は俺を「掲示板に書くな」「友達に言うな」と厳しく牽制してくる。

 図星だ。こんな世紀の発見、誰かに自慢したくなるのがゲーマーの性ってもんだろう。

 

 だが、両手を挙げて降参して見せると、彼女は渋々といった様子でウィンドウをこちらに反転させてくれた。

 

 ……絶句した。

 

 『朧陽炎(おぼろかげろう)』に『硬質化』、そして極め付けは『良業物』。

 

(ATK+100に部位破壊付与?)

 

「うっわぁ。これやばいね。初心者が持っていい武器じゃないよ」


 冗談抜きで、ゲームバランス崩壊の一歩手前の性能だ。

 桃太郎が生まれた瞬間、キビダンゴの代わりに聖剣エクスカリバーを握らされているようなものだ。


 ATKやVITの補正はともかくとして、 『朧陽炎』がやばい。


 俺みたいに視覚依存しているプレイヤーは多い。

 特化まではいかないとしても、どんなプレイヤーも無意識に視覚を頼っている。


 聴覚、触覚特化のプレイヤーも、咄嗟の判断や認識のときにはつい視覚から得た情報を信じてしまう。


 朧陽炎を使えば、プレイヤーの目の前で不意打ちをかけることも可能だろう。

 それほどまでに、人間は視覚を重要視しているのだ。

 

「できるだけ人目が多いところでは出さない方が賢明だよ。もし、その武器の強さがバレれば、PKクラン以外にも魔が刺すやつは少なからず出るだろうから」


 これは脅しじゃない。

 この美しくて残酷な仮想世界において、力のない者が至宝を持つことは、それだけで罪になる。

 

「だから、自衛できるように強くなろうね、カナデちゃん」


 彼女は、悟られないようにひっそりと拳を握った。

 その小さな変化を、俺は見逃さない。

 

 彼女は俺のことを理想とは程遠い相手だと思っているようだが、俺にとっても彼女は計算外の塊だ。

 

(さあ、面白くなってきた……。この『最強の初心者』をどう育てるか。腕が鳴るね)


 俺も彼女と同様に、拳に力が入る。

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