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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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23/28

サクヤ視点 「壱」

 俺は榊原拓也。25歳。

 元プロのキックボクサー。


 23歳でKO-1の初タイトルマッチ。

 チャンピオンの右ストレートを左眼窩にくらい、網膜剥離の診断を受けた。


 それ以来、速く動くものがダブって見えるようになった。

 光が以前より眩しく感じるようになった。


 そのせいで

 

 ストレートが二重に見える。

 距離感がわずかにズレる。

 リングに当たる照明で相手がうまく見えない。


 ボクサーとして致命的だ。


 自分で言うのもなんだが、将来はかなり期待された方だった。


 タイトルマッチも下馬表では、圧倒的に俺が有利だった。


 試合の流れも終始、俺にあった。


 最後のラウンドで、相手の右ストレートにカウンターを合わせる。


 その一手で、KO勝ち。


 ――のはずだった。


 カウンターを合わせる瞬間、相手の真後ろの観客席からカメラのフラッシュが焚かれた。


 わずかな時間。

 ほんの一瞬。


 俺の左瞼が反射的に閉じた。


 瞬間、何か強い衝撃が頭部に加わった。


 次に目を開けると、リングを煌々と照らす天井の照明が目に入る。


 その日、俺は引退を余儀なくされた。


 ――


 病気になってから、俺の生活は一変した。


 外に出れば、光が刺すように眩しい。

 そのたびに頭を割るような痛みが走り、サングラスは片時も手放せなくなった。


 俺の人生は文字通り、お先真っ暗だ。


 プロボクサーで食っていくことしか考えていなかった。

 その代償として、新しい仕事に就く術を、俺は持っていない。


 というより、考える気力さえ失っていた。


 ――


 リングから追い出されて半年間、俺は半ば自暴自棄だったように思う。


 転職活動をするでも、元ボクサーとして後進育成するでもなく、ただ漫然と日々を過ごしていた。


 そんなある日、運命が動いた。


 有名企業によって、あるゲームが大々的に告知される。

 タイトルは——『ジェネシス・オブ・アイランド』。


 学生の頃、VRゲームを齧った程度の俺にとって、本来なら興味を惹かれる代物ではなかった。

 しかし、ただ一点、俺の心を掴んで離さないものがあった。


 専用デバイス『ジェネシス』。

 それが謳うのは、仮想世界における「五感の完全再現」だ。


(もう一度、あの光を見ることができる……!)


 そう直感した俺は、迷わず抽選に応募した。

 結果は、奇跡的な第一募集での当選。


 そこからの俺は、文字通り『GOI』にのめり込んだ。

 年甲斐もなく、自分に残された時間と気力のすべてを注ぎ込む。


 恥ずかしげもなく言うなれば、完全にハマった。

 

 そして1ヶ月後——俺はトップランナー「サクヤ」として、掲示板にその名を轟かせていた。


 ――


 全プレイヤーが攻略に行き詰まった頃、俺はあるPKクランのリーダーから引き抜きの誘いを受けた。


 他人とつるむ気など、毛頭なかった。

 だが、「お前の強さは、現実で培われたものだ。そこまで努力を重ねたお前を、俺は尊敬する」――臆面もなく俺を口説くリーダーの言葉に、痺れた。


 反面、「なに熱くなっちゃってんの」と冷めた自分もいる。


 人の感情は、一つに割り切れるものじゃない。

 ただ、本音を言えば……現実での積み重ねを認められたことで、俺は救われたんだ。


 とはいえ、自分より弱いやつの下につく気にはなれなかった。

 だから俺は、決闘システムで一対一を挑む。


 結果は、惨敗だった。

 完璧に、コテンパンに叩きのめされた。


 半年以上ぶりの「負け」。人生で二度目の敗北だ。

 

 ——だが、不思議と悔しさはなかった。


 それから俺は、攻略とは無縁のPKに明け暮れる日々を送ることになる。

狙撃手(ソゲキシュ)』として、プレイヤーが俺に気づく間もなく屠る。

 

「屠る」なんて、日常で使いもしない語彙が自分を侵食してくるから不思議だ。

 25にもなって、厨二病かよ。


 話が逸れたが、PKに明け暮れたといっても、俺なりに最低限の流儀はあった。


 弱いものは、撃たない。

 俺のPK基準は二つ。


 ・トップランナー(強いやつ)であること。

 ・トキシック(迷惑プレイヤー)であること。


 どんなレアアイテムを持っていようが、基準に外れるプレイヤーを狙うことは絶対にしない。

 そのせいでクラン内で孤立することも少なくなかったが、曲げるつもりもなかった。


 そんな俺がGOIに染まって、一年以上が過ぎた頃。

 俺は、初めてその流儀を破ることになる——。

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