見本と模倣
「俺の動きをしっかりと見ててね。 今のカナデちゃんにできる動きしかしないから」
そう言って、新たに現れた鬼に向かって走り出すサクヤ。
以前見たものより小型の銃が右手に握られている。
《『瞋恚の青鬼』です。推奨レベル49。体力が一定値を下回ると『怒り状態』になります》
さっきの鬼より強いじゃんか。
こんなのが複数いるなんて、不意に身震いしてしまう。
鬼に肉薄したサクヤは、突如、人間離れした跳躍を見せる。
サマーソルトのような形で頭を下にした状態で、銃を鬼の顔面に二発打ち込む。
サクヤの跳躍を無防備に頭ごと追いかけた鬼は見事に銃弾を喰らう。
ギャァアアアア――
悲痛な叫びとともに、両手で顔を覆いしゃがみ込む鬼。
ああいうときって鬼も人間も同じ所作するんだなあ。
サクヤは弧を描きながら、音もなく着地する。
その瞬間に下がった鬼の顔面目掛けて、銃と反対の手で顎を跳ね上げる。
そのまま流れるように左手で右手の銃を迎えにいき、持ち替える。
返す刀で右ストレートが顔面に突き刺さる。
鬼は声も上げずに後方へ1歩、2歩ふらふらとよろめく。
鬼とサクヤの間に3メートルの距離が生まれる。
「クリティカル・バレット!」
いつの間にか小型の銃を両手で構えたサクヤがスキルを放つ。
ドフッゥ――!
新幹線が真横を通り過ぎたかのような錯覚に陥る。
それほどの迫力があった。
スキルは鬼の顔面に直撃した。
鬼は倒れることもできずに、そのままポリゴン状に消滅していった。
「はい。こんな感じ! よく見てくれた?」
「圧巻でした……」
「どーも! 使う武器は違っても、動きとしてあんな感じだね。 鬼系は顔面を的確に攻撃できるとしゃがみ状態になるから、その隙をついて追撃すれば意外と簡単に倒せるよ」
言うは易しだ。
それでも、やらなければできない。
「もう1回挑戦します!」
もはや師匠と弟子のような関係性だ。
――
再び目の前に現れた青鬼と対峙する。
数分前のサクヤの動きを頭の中でイメージし、トレースする。
目が見える頃は、祖母の動きを見て、よく真似をしていた。
技や型を習得するのには、見る→イメージ→トレース、の反復がもっとも効率的だった。
脳内で一連の流れを高速で回す。
よし。
地面を踏みしめて、鬼に接近する。
距離が近づいても鬼は動こうとしない。
狙うは頭。
足に力を込めて跳躍する。
サクヤほど綺麗な弧は描けないが、鬼の頭上は優に越えられた。
私を追いかけるように頭をぐるりと回す青鬼。
宙で遠心力を使いながら、アッパーのように薙刀を鬼の顎下にぶち当てる。
頭が跳ね上がる鬼。
一瞬遅れて、耳障りな叫びが響く。
よろめきながらも、なんとか着地する。
鬼はしゃがみ状態となり、地上からでも頭を狙いやすくなっている。
すぐさま駆け寄り、中段から水平に側面打ちを放つ。
今度は短く叫んだ鬼が側方によろめく。
先刻の力強さは微塵も感じない。
(倒し方を知ってるとこうも楽なんだ)
――しかし、その後2、3回面を打ち込むが、鬼は倒れなかった。
しだいにしゃがみ状態から回復した鬼と再度対峙するはめになり、一連の流れを3回繰り返してようやく鬼はポリゴンとなって消えた。
「はあ、はあ……。すっごい時間かかった…。」
1体倒すのにギリギリ5分。
休む暇もなくどこからか、新たな鬼が湧いてくる。
「またあ!?」
「カナデちゃん、スキルあるでしょ? フツーの攻撃だけじゃ効率悪いよ」
失念していた。
まだゲーム脳になりきれていない。
(私はゲーマー。私はゲーマー)
そう言い聞かせて、新たに出てきた鬼へと走り出す。
――
「トライスピアー!」
私の発声と同時に、薙刀の強烈な3連撃が、緑鬼の顔面を完璧に捉える。
ほぼ同じ方法で鬼を狩り取る。
今度は2分ほど短縮できた。
そのおかげで、周りに鬼の姿は見えない。
《レベルが34に上がりました。センス・ポイントを付与します。振り分けますか?》
34!?
「あがりすぎじゃないですか!?」
「自分よりレベルが30も上の敵を2体倒したからね。そんなもんじゃない?」
そんなもんなのか。
熟練ゲーマーにそんなもの、と言われてしまえば、反論の余地はない。
「あと20体も狩れば50には届くんじゃない?」
これをあと20回。
単体なら、なんてことはない。
ような気がする。
しかし、1体に5分以上の時間をかけられないという縛りがきつい。
あんなものを1人で複数相手取るのは流石にできる想像がつかない。
「今度は倒し方にバリュエーションをつけてね。一辺倒の方法で倒しても、プレイヤーとしては強くならないから」
「はあい」
不貞腐れた雰囲気を惜しげもなく浴びせるが、目の前のプレイヤーを気にも留めない様子だった。
――
サクヤの言いつけを忠実に守りながら、極力同じ方法で倒さないように自分なりの工夫を続けた。
赤、青、緑、黄の鬼を複数回狩った。
こいつらは個性は違えど、その強さに大きな差はなかった。
問題はシステムがレアエネミーと警告した黒色の鬼だ。
推奨レベルはなんと70オーバー。
戦い方に大きな変化はないものの、しゃがみ状態の解除までの時間が短かったり、反応速度や攻撃速度が他の鬼と比べて段違いだった。
中でもHP量がとんでもなかった。
トライ・スピアーを5回当ててようやく倒せた。
当然、5分以内に倒すなどできるはずもなし。
30分以上、黒鬼と戦い続けた。
他の鬼がわらわらと寄ってくる事態になったが、私に近づけないように全てサクヤが知らずのうちに処理してくれていた。
(化け物ですか?)
そんなこんなあり、私のレベルは大台の50を突破し、53となっていた。
「案外、早くすんだね。とりあえず、ランクアップしにいこうか」
疲労を感じないのか、サクヤは当たり前のように次の行動を促してくる。
「すいません。そろそろログアウトしようと思います。流石に疲れました」
「まだ6時間ぐらいしか経ってないよ?」
「6時間も!です!」
ビギナーと廃人のゲーム耐性を同じに考えないで欲しい。
「明日、またログインします」
「そっか。わかった! じゃあ、また明日の10時にアスカのギルド待ち合わせでいい?」
「わかりました」
あ! でも、ログアウトするには一度町に戻らないといけないんだった。
「どうせ転移アイテムもってないんでしょ。これあげるから今日はゆっくり休みな」
まさかサクヤから気遣いを受けるとは思ってなかった。
「ありがとうございます」
受け取ったアイテムを使うと、一瞬暗転し、再び光が入るとそこはアスカの冒険者ギルドの前だった。
(今度は自分で用意しておこう)
人から無条件で施しを受けるのは、どこか落ち着かない。
それが、筋金入りの軽薄男からならなおさらだ。
私はアスカいちの格安宿『安らぎの灯火』のベッドから現実世界へと戻る。




