和解と付和雷同
「付き合うって、こういうことですか?」
アスカに戻った私たちは、こじんまりとしたカフェのようなお店で対面している。
「なにー? 変なこと想像しちゃってた?」
「ふざけないでください」
これまで恋愛経験のない私にとって「付き合う」という単語は、若い男女がするそれでしかなかった。まさか「聞きたい話があるから付き合って」だなんて意味だとは思わないじゃないですか! ね!?
それにこんな軽薄そうな人は、その、タイプじゃないというかなんというか――ごにょごにょ。
「冗談は置いといて、カナデちゃん。俺と組まない?」
組む? 手を組む、ということだろうか。
「何でですか?」
ついさっき、か弱い乙女の横っ腹に本気のグーパンをしてきた男だ。信じられない、という意をこめて訝しげに睨む。
「あはは! あれはまだ本気じゃないよ!」
「ッ――!?」
この男は本当に人の心が読めるんじゃないか。
「手を組んで欲しい理由は、大きな理由がひとつ。それと、小さな理由がひとつ」
サクヤは一本、二本と順番に指を立ててくる。
「大きな理由は?」
「コモリクの神――クニノトコタチを倒す。そのために力を貸して欲しい」
とんでもなく大きな理由に唖然としてしまう。GOIは発売されて半年以上が経った今でも、第一の世界であるコモリクのボスは倒されていない。
そんな強大な敵をGOIを始めて数日の初心者に頼む物だろうか。プレイヤーはざっと1000万を超えるはず。絶対に私以外に適任がいるだろう。
「まあ、ぶっちゃけそんなに期待はしてないよ。これまで数多の廃人ゲーマーが挑んでコテンパンにされてるからね」
「じゃあなんで、わざわざ初心者の私と手を組みたいんですか?」
当然の疑問をぶつけると、サクヤは相変わらず軽薄そうに笑いながら答える。
「今欲しいのは変化なんだよね。クニノトコタチの所まではゲーム開始から1ヶ月でたどり着いた。だけど、そこからずっと足踏みなんだ。今欲しいのは単に強いプレイヤーじゃないんだよ。まあ、最低限の強さは必須だけど、そこはさっき確認したから大丈夫」
熟練のプレイヤーにお墨付きをもらって悪い気はしない。しかし、その変化とやらに私が当てはまるのだろうか。
「ちなみに、小さい理由は?」
「それはカナデちゃんがこなしているイベントについて知りたいから」
ビシッと私を指さしてくる。
私のこなしているイベント? 心当たりはなく、ただ首を傾げることしかできなかった。
「やっぱり無自覚かあー。これだからビギナーは困る」
やれやれといったふうに大きくジェスチャーをするサクヤ。なんかイラッとする。
「カナデちゃんの持ってた武器。あれどうやって手に入れたの? 俺もこのゲームの古参だけど、初めて見るんだよね。そもそも薙刀なんてマイナーな武器使ってる人がそうそういないんだけど」
知らない人に情報をアレコレ言っちゃいけませんって、他のプレイヤーに言われたことを思い出し、口をつぐんでいると。
「見逃してあげたでしょ?」
と、軽い圧をかけられる。それでも、だんまりを決め込んでいると、さらに追い打ちをかけられる。
「PKによるデスペナ知ってる? キルされたプレイヤーは所持品をひとつ問答無用に奪われるの。だから、俺が奪おうとすれば、その薙刀は俺のものにもできるってこと」
と、さらりととんでもないことを言われる。無条件にひとつ!? 通常のデスペナルティより段違いに重たい。
「そんなの無法地帯じゃないですか!?」
「フツーはPK対策してるし、初心者狩りみたいなのは少ないからね。意外と治安はいい方だよ」
でも、あなたはPK仕掛ける側の人なんですよね!? 全然、治安良くないんですけど。今、犯罪者が目の前にいるんですけどー!?
心の中でギャアギャアと騒ぎ立てているが、そんな私をサクヤは一切気にかける様子はない。早く喋れよ、とでも言わんばかりに圧をかけてくる。これほどまでに圧力を感じたのは祖母以来だ。私は観念して、わかる限りのことを話すことにした。
「この武器は、ハツセのウズメっていうNPCに作ってもらいました」
私はこれまでに起きた出来事をつぶさに語った。
――
「うん。カナデちゃん、俺と組もう!絶対に組もう。キミは逸材だ」
再び、ビシッと指をさしてくる。
20分ほど、私の話を頷いたり、黙ったり、いきなり前のめりになったり、いろいろな意味で騒がしかったサクヤは意を決したかのように漏らした。
「短いプレイ時間で、よくそこまでレアな敵やイベントに直面できたね。何より、サブランクを吟遊詩人にしているのがデカい。というより、吟遊詩人を選んだから、と言った方が正しいかな」
「どういうことですか? あ、大地の讃美歌で幸運が上がるからですか?」
手を、ポンと叩くがその結論はどうやら大きく的外れだったようで、呆れるように首を振られる。
「吟遊詩人はね、特定のNPCとの会話に補正がかかるって言われてるんだよ。他のサブランクと違う会話になるから、当然同じイベントでも異なる結果になるってこと。でも、単純にスキル構成が弱いから、廃人で吟遊詩人を選んでるプレイヤーはほぼいない」
そっか。
ミキさんが、歌ってくれって言ったのも私が吟遊詩人だったからで、あれが補正のかかった会話だったんだ。
あれがなかったら、ウズメにも会えてなかったってことかな。
「あと単純に運が良い。良すぎるぐらいに良い。金竹暴鬼と獠牙なんて俺だってエンカしたことないよ」
「そうなんですか?」
純粋な質問だった。ゲームなんだから、すでに攻略サイトとかで隅々まで網羅されていると思っていた。
敵の出現場所とか頻度とか。
「金竹暴鬼のエンカ方法はわかってんのよ。24時間中のランダムな30分間にのみ5%の確率で出現するっていう鬼畜設定だから、狙って合うことなんてまずできないクソ仕様で、さらにドロップ率は10%。マジで運営アホすぎ」
唐突にゲーム会社の愚痴が始まってしまった。
それにしても、そんなに制限された確率だったんだ。
デスペナルティ食らわなくてよかったと心底思う。
「ちなみに、これ1万分の1の確率だから。狙わないで出したカナデちゃんは、相当運が良い」
現実世界の不運が全て、ゲーム内で幸運に切り替わってるんじゃないかと考えてしまう。
「獠牙のことは何か知ってますか? システムも分からないらしくて」
「コモリクには自然に関する名を冠したレア敵が10体いるんだけど、そのうちの1体だよ。まだ誰も倒したことないけど。少なくとも、部位破壊までしたことがあるプレイヤーを俺は知らない」
キミ以外には、と釘を刺される。
「それに、視覚消失はほとんど情報がないんだ。このゲーム1人1アカウントしか作れないから、生命線である視覚を消すなんてチャレンジだーれもしないんだよね。元々、目が見えない人は、見えるようになるために始めるし」
一部の変態を除いてね、とあからさまに私を指さしてくる。
さっきから指差しすぎなんですけど。
人に指をさしちゃいけませんって習いませんでした?
サクヤの話をまとめれば、私は吟遊詩人×視覚消失×リアルラック補正女=超希少プレイヤー。ということらしい。
だから、変化に繋がる可能性があり、手を組みたいと。
「でも、手を組むって具体的にはどうしたら?」
「ああ、ちょっとまって申請するから」
サクヤが慣れた手つきで空間をタップしていると、目の前にウィンドウが表示される。
〈プレイヤー名 サクヤ からパーティの申請があります。受け入れますか?〉
はい、をタップ。
安易にウィンドウを触れてから、パーティーを組むデメリットとかないのかな、とか。
騙されてるのでは!?とか脳裏をよぎったが、あまり気にしても仕方ないので考えすぎないことにした。
「なるほど。視覚消失でも、ウィンドウにはアシストがつく、と」
「そんなところから情報がないんですか!?」
「それぐらい視覚消失はブラックボックスってこと」
自分で選んだこととはいえ、あまりにも無知すぎる。これからはもっとこのゲームのことについて知っていこうと誓った。




