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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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銃と拳

 ひょうたんの首のような細い通路を抜け、少し開けた場所に出た時――先ほどまでの喧騒はなく、やけに静かだった。


 他のプレイヤーの声が全く聞こえなくなっている。


「みんな帰ったのかな?」


 その瞬間、アマビエの福音が発動し、斜め上から何か小さなものがものすごい速度で飛んでくるのを感知する。


 直後、「ドンッ」と銃声が木霊(こだま)する。銃弾が発射される直前に射線を避けていた私の頬を衝撃が掠めていく。


 撃たれた!?


 銃弾が飛んできた方向へと薙刀を向ける。


 数秒後、銃弾の代わりに聞き覚えのある声が飛んでくる。


「カナデちゃん、何で避けられたのー?」


「今のサクヤさんですか?」


 語尾が伸びているが、その口調には先ほどまでの軽薄さは消えている。


「あはは、質問に質問で返さないでよ」


「……サクヤさん、ですよね」

 

 私はもう一度、問いかけた。すると、エコーロケーションの範囲に彼がゆっくりと入ってきた。その立ち姿には力みがなく、洗練されていて、綺麗だと思うほどだった。


 手には長銃の銃身が握られている。

 

「正解。でも、ますます謎だなあ。スキル? それとも……リアルでそういう訓練でも受けてるの?」


 そんなわけないか、とこぼしながらサクヤが、ゆっくりと近づいてくる。

 

「……何の真似ですか。手伝ってくれるんじゃなかったんですか?」

 

「ああ、計画変更!実はカナデちゃん、俺らのクランからPK依頼が出てるんだよね。最近、初心者プレイヤーが未発見のイベントやアイテムを見つけまくってるって噂だからね。聞いたことない?」

 

 サクヤの声が、すぐ近くで止まった。掲示板で私の情報が流れていることは知っていた。けど、まさか命を狙われるとは思ってもいなかった。


「これまで倒そうとすれば、いくらでもそのチャンスはあったんじゃないですか?」


 翡翠石を掘っている最中であれば、武器は持っていないし、穴掘りに集中していてさっきの攻撃に反応などできなかったはずだ。

 

「俺は初心者を狙うようなコスい真似したくないんだよねー。だから、キミが噂のカナデちゃんって気づいても見逃すつもりだったんだよ。俺って優しいでしょ?」

 

 乾いた笑いがエリアに響く。じゃあ、なんで?と聞く前にサクヤが続ける。

 

「でもね、失った感覚をゲームで補強することが逃げだって言われちゃあ、黙っていられなくてね。これは完全に個人的な恨みみたいなもんかな、ごめんね」

 

 空気が凍り付く。

 

 周囲のプレイヤーがいなくなったのは、偶然じゃない。彼が邪魔者を入れないように排除したのだろう。

 

 私は薙刀を低く構え直す。頬の微かな熱さと、心臓の鼓動が早まるのを感じる。相手はこのゲームを熟知しているであろうプレイヤー。油断はできない。


「私の発言が気に障ったのなら謝ります。すいませんでした。――でも、見逃してはくれないんですよね」


「当たり」


 再び軽薄にサクヤが笑う。


「でも、銃を使うってことは近距離は苦手なんじゃないんですか。もう私の間合いですよ?」


「ああ、これ? ご忠告どうも」


 瞬間、私に向かって走り出したサクヤ。体の後ろに銃が隠れた僅かの隙で、すでに銃の姿は消えていた。


 いつストレージ操作したのか。これだけで、サクヤが熟練のプレイヤーであることが想像できる。


 薙刀の先で牽制するも、意にも介さず私に肉薄してくる。腕一本分まで近づいてきたサクヤの右足からものすごい速さの蹴りが繰り出される。


 軌道は下。


 脛だ。


 狙われた左足を反射的に一歩引き、薙刀の柄部で受ける。


 バチューン!


 まるで銃で撃たれたかのような衝撃が両手に伝わる。引いた左足を再び、前進させ、カウンター狙いでサクヤの右頭部へ向けて側面打ちを放つ。


 サクヤは後ろに飛び退き、鼻先で薙刀の切先を避ける。第二の矢。限りなく少ない挙動で腕を軽く手前に引き、その反動で喉元へ突きを繰り出す。


 現実であれば確実な一本がとれる。そう自負のある一連の流れだった。


 しかし、サクヤは薙刀の動きを見切っているかのように、極わずかな頭の動きで突きを躱す。


 まさか躱されるとは思わない私はその先の攻撃を出せずにいた。その隙をサクヤが見逃すはずもなく、宙ぶらりんになった薙刀の柄を拳で短く突き上げ上空に跳ね上げる。


 返す刀で急激に肉薄してきた左腕から腹部目掛けて強烈な拳が放たれた。守る術のない無防備な横っ腹に拳が当たる。


「――ッ!?」


 いったあ! めっちゃ痛いんですけど!?


 その衝撃から与えられた感覚に臓物がひっくり返るかのような錯覚を受ける。耐えられず、私はその場に膝をついてしまう。


「カナデちゃん、強いねえ。初心者でしょ? まさか俺のローキックが初見で見切られるとは思わなかったよ。しかも、カウンターで二撃も入れてくるし」


 ケタケタと楽しそうにサクヤは笑っている。私はそれどころじゃない。全然痛みが引いていかない。


「キツイでしょ? GOIが現実の経験を反映させてるのは知ってるよね。キミが薙刀を扱えるように、俺も殴る蹴るには一家言(いっかげん)あってね」


 殴る蹴るに一家言があるってなに。

 目の前の軽薄男にそう毒づきたいが、声が出せない。


 薙刀を支えにして、何とか立ち上がってみせる。


「うわっ!もう立てるの!? フツー数分は悶絶して立てないはずなんだけどなあ。ちょっと自信無くすなあ」


「……あ、りがとうございます。褒め言葉として、受け取っておきます」

 

 胃の腑を握りつぶされるような痛みを、無理やり呼吸で押し殺し、声にならない声を捻り出す。

 

「カナデちゃんさ、やっぱりおかしいよ。武器の扱いはともかくとして、その痛みでも立ち上がる精神力。軟派なゲーマーの比じゃないよ」

 

「ただの、負けず嫌いなだけですよ。……それよりサクヤさん、私まだ倒れてないですよ?」


 虚勢を張りながら、八相の構えをとると、張り詰めた風船が弾けるかのようにサクヤが笑う。


「あっはははは! いい!カナデちゃん、すごくいいよ!」


 何がおかしいのか。こっちは立ってるのもやっとなんだ。


「見逃してあげる」


「え?」


「だからー、見逃してあげるって。でも、条件がひとつある。――俺と付き合ってよ」


「は?」


 唐突なサクヤの言葉に、驚きを隠せず、八相の構えのまま固まってしまう。

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