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ジェネシス・オブ・アイランドー天神七代記ー視えない私の神攻略  作者: 梵天丸(ぼんてんまる)
第壱ノ世界 コモリク 未だ天地開闢は起こらず

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蛇とおむすび

「ところで、カナデは誰にウチのこと聞いてきたんや。自分で言うのもあれやけど、ウチを頼ってくるやつなんてほとんどいないんやで」


 ウズメの問いに答えようとして、そういえば職人さんの名前聞いてなかったことを思い出す。なんとか伝えようと、イメージの中にある特徴を捻り出す。


「えっと、とにかくおっきくて、岩!みたいな人です!」


 大きさを表現するのに両手を体の外に目掛けて、目一杯広げる。「大きい」という情報だけでウズメには伝わったようで、チッという、舌打ちとともに職人さんの名前を教えてくれた。


「……ミキか。まあ、あいつには今回のカエデの依頼は無理やわな」


 ウズメは鼻の先まで「えっへん」と書いてあるような、見事なふんぞり返りを見せた。それにしても、ミキさんって言うんだ。体躯に似合わず可愛らしい響きの名前に笑みが綻ぶ。


 「まあ……あんなんでもあいつの家系は有名な鍛冶屋や。今回みたいな武器の創造は苦手でも、武器の切れ味を左右する刃付(はづけ)(わざ)に関しちゃ右に出るものはおらんやろ。そういうんはあいつに頼むといいで」


 仲が悪いのかと思ったが、これはあれだ。腐れ縁というやつだろう。ミキさんも利益を気にせずウズメさんを紹介してくれたし、今は目の前で逆のことが起こってる。なんだかんだお互い認め合っている、というやつなのだろう。


「羨ましいな」


 そんな私の心からの呟きをウズメは気づかなかったのか、「ところで」とこちらに体を向け直す。


「カナデは、素材に使う魔物のアテはあるんか?」


「全くないです!」


 自信満々に今度は私が胸をふんぞり返す。クハッ、と声を漏らし「なんで威張ってんねん」と突っ込まれる。ウズメは大麻(おおぬさ)を取り出したガラクタの山とは、また別の山から取り出したものを無造作に放り投げてきた。それは、古びた羊皮紙の巻物だった。受け取ると、自動的に私のマップデータが更新され、町の北東に位置する未踏のエリアが淡く発光する。


「そこは『長命(ちょうめい)の滝』の裏手に続く、古い鍾乳洞や。そこに()みつく魔物はどれも長生きでな。そいつらなら、立派なツノを持っとるはずや。核はまあ、手頃なサイズならなんでもええで」


 大事なことを忘れとった、とさらにウズメが続ける。


「魔物の中に、『三ツ角(みつづの)大蛇(おろち)』と呼ばれる古参がおる。蛇神の生まれ変わりなんて噂もあるが、その実は岩をも貫く凶悪な角を持ったただの化け物や。そいつには絶対に手を出さんことや。縄張り意識が強いうえに、今のカナデじゃ逆立ちしても勝てんからな。まあ、あそこのボスってところやな」


 ウズメの忠告に身震いがする。話を聞く限り、金色の鬼よりも全然強そうだ。「絶対に手は出さない」と反唱し、出会うことがないように目をぎゅっと瞑って祈る。


「そいつのツノをとってこれたら上々なんやけどな!ま、期待はしてへんからあんまり無茶はすんなよ」


 と激励?の言葉をかけてもらうが、絶対にそんな強い奴のツノなんか持ってこれないからね!と心の中で返す。ウズメの建物を出るとき、「八百万(やおよろず)の神々のご加護がカナデにありますように」と大麻(おおぬさ)を振ってくれた。「ま、万が一のお守りみたいなもんや。カナデが諦めさえしなければ神さんがきっと助けてくれる」と朗らかに笑いながら、行っといで!と背中を強く叩き、送り出してくれた。


 背中の痛みを不思議と嬉しく感じながら、鍾乳洞へと足を運ぶ。

 

 ――

 鍾乳洞へ向かう途中で、システムが宿屋でセーブすることを勧めてきた。ウズメとの出会いが衝撃で、すっかりシステムの存在を忘れていた。システムの紹介によるハツセの宿は100ゼニーという破格の値段でギリギリ利用できた。


 湿った風が吹き出す鍾乳洞の前に辿り着いた。中へ入る前にステータスを整えることを覚えた私は、慣れた手つきでウィンドウを開く。


 「ええっと、センスポイントを振ってなかったんだよね」と声に出しながらウィンドウを確認する。長所を伸ばす方向で、20ポイントを触覚に、5ポイントを聴覚に割り振る。


 【プレイヤー・ステータス】

 プレイヤー名: カナデ Lv.12 八百万(やおよろず)の加護

 ゼニー:150ゼニー

 メインランク: 武士(モノノフ)

 サブランク: 吟遊詩人

 メインウェポン:処女の薙刀

 サブウェポン:未設定

 プロテクト:()()

 保有センスポイント: 0

【センス・アロケーション】

 視覚: [消失(ロスト)]

 聴覚: 25

 触覚: 90 [強化項目:補正有]

 嗅覚: 10

 味覚: 10

【ベース・ステータス】

 HP(体力):41

 STR(筋力):16

 ATK(攻撃力):27

 VIT(耐久力):16

 DEF(防御力):27

 INT(知力):10

 DEX(器用):10

 AGI(敏捷):10

 LUK(幸運):10


 〈触覚固有(オリジナル)スキル『アマビエの福音』を習得しました。敵の攻撃を確率で事前に予測できます。なお確率はLUK値に依存します〉 


 同時に聴覚も上げたことで、『サウンドコレクター』の聴覚認識範囲が拡張された。すべての準備が整ったので、鍾乳洞の中へ進み、マップを出す。真宵の竹林ほどではないが、そこそこの広さがありそうだ。どれほど入り組んでいるかは、実際に進んでみないと分からない。


 できるだけ早く素材を集められるよう敵に出会う前に『大地の讃美歌(アヴェ・ティエラ)』を発動させておく。洞窟内は思ったほど入り組んでおらず、一本道に近い。ところどころ、脇に人一人が通れる程度の細い抜け穴のようなものがあるが、迷っても面倒なので、今は気にせず大きな道を進む。


 時折、襲いくる魔物を退けながら奥へと進む。今のところ、洞窟内の敵は『戻蛙(バックフロッグ)』に『角猿(つのざる)』、『洞窟蝙蝠(ケイブバット)』の3体だ。ただ、好戦的なの角猿だけなので、集まった素材は主にこいつのだけ。他のはこちらから攻撃しなければ襲ってくることはない。蛙に関しては、遭遇するとものすごい勢いでバックして逃げていくので、未だに一匹も倒せてはいない。


 ステータスを開き、素材を確認する。『角猿の一角』が3つ、『角猿の毛皮』が1つ、『小さな吸血牙』が2つ。


「こんなんじゃあ、足りないよねー」と大きなため息をつき、素材を求めてさらに奥へと足を進める。道中さらに猿を五匹、蝙蝠(こうもり)を二匹倒し、『リコイル・カウンター』と『ダブル・スピアー』がレベル2に上がった。スキルは使い込むことで、レベルが上がるらしい。ダブルスピアーは、二連撃から三連撃に進化し、名称も『トライ・スピアー』に変わった。さらに、最古参の『エコーロケーション』レベルが2になり、見える範囲が7メートルにまで広がった。


 ――


 入り口からかなり歩いただろうか。漸く二又の道が現れた。少し悩み、こういうとき人は左を選びやすいと聞いたことがある。だから、裏を読んで右!と見せかけて、左へ進む。


 左の道を少し進むと、開けた広場に出た。マップには『長命の滝 裏見(うらみ)』と書いてある。奥から滝の落ちる音が広場に反響しているのか、かなりうるさい。不用意に大きな岩の(すそ)へ足を進めると、瞬間、肌を刺すような威圧感に足が止まった。同時にキシュー、という空気の漏れるような鳴き声が滝の反響音の隙間を(くぐ)って耳に届くと同時に、岩が動いた。


 「……っ!」


 心臓が跳ね上がる。岩だと思っていたのは、幾重にもとぐろを巻いた鈍色(にびいろ)の鱗の塊。それは、ゆっくりと姿を解きながら頭部を持ち上げる。その(いただき)には、鍾乳石をそのまま削り出したかのような、鋭利で荒々しい三本の角が王冠のように鎮座している。


 ――『三ツ角の大蛇』だ。


 大蛇が鎌首をもたげ、私を睨む。あまりの大きさに、一瞬、体が凍ったかと錯覚するほどに硬直する。ウズメさんの忠告と『アマビエの福音』が頭の中をけたたましく揺さぶる。


 キシャァァァ……ッ!


 空気を裂く咆哮と同時に、王冠を模した頭部が私の立つ場所目掛けて飛んできた。いや、来ることが分かったと言った方が正しい。スキル『アマビエの福音』により蛇の軌道を事前に察知でき、なんとかすんでのところで飛び避ける。地面に頭部がめり込んでいる。


 (あんなの食らったら、死んじゃうよ!)

 

 大蛇が巨体をくねらせ、再度頭を持ち上げて、冷静にこちらへの狙いを定めている。私は戦うことを放棄して、来た道を脱兎のごとく逃げ帰る。


 (ムリ、絶対ムリ!)


 涙目になりながら、全速力で洞窟を駆け抜ける。こんなに息を切らして走ったのは小学校以来だ。それでも、大蛇の速度に叶うはずもなく、後方から強烈な頭突きを喰らう。


 ――ドシィン


 衝撃とともに、前方へ吹き飛ぶ。僅かに直撃を避けたが、それでも左隅のHPバーはすでに赤く点滅している。やばい、やばい、やばい、やばい。なんとかしなきゃ、どうにかしなきゃ。


 焦る頭で考えても、解決策は一向に浮かんでこない。ふと、エコーロケーションの(きわ)に細穴を見つける。あそこに逃げるしかない。


 蛇の頭がのそりと動くのを肌で感じる。反射的に私の体は、穴に向かって走り出していた。点滅するHPバーを煩わしく思いながら、走る。と、同時に薙刀をストレージの中にしまうための、ウィンドウ操作をする。


 ――穴まで5メートル!


 薙刀はシュンと音ともに、空間から消える。穴に最短で滑り込むために、穴と反対方向にやや膨らんで走る。


 ――3メートル!


 チロチロと蛇特有の舌の音が耳に届き、再び視界の後方に蛇の姿が入り込んでくる。


 ――2メートル!


 私と蛇との距離もみるみるとなくなっていく。

 

 ――1メートル!


 洞窟の地面を右足で踏み締め、直角方向に急激に体を捻る。反対の足で地面を蹴飛ばし、細穴へ五体投地に近い姿勢で滑り込んだ。直後、背後で「ドォォォォン!」と、巨大な質量が岩肌に激突する凄まじい衝撃音が爆ぜた。


 あと一瞬でも遅ければ今頃、私はハツセの安宿で目を覚ましていただろう。細穴で身体を押し込み、さらに奥へ、奥へと、芋虫のように這って進む。幸いにも細穴自体は短く、すぐに開けた場所に出た。


 バッと、後ろを振り返ると、侵入者を逃した大蛇の「ギシャァァァッ!」という鼓膜を震わせる咆哮が執拗に響く。音が止むと同時に、細穴を覗き込む大蛇が映る。舌が伸びてくるが、本体である巨躯が細穴を越えられるはずもなく、しばらくしてズル、ズル、という不気味な音とともにその場から離れていった。


 全身の力が抜け、私は湿った岩肌に背を預けて崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ……っ、死ぬかと思ったあ……」


 HPバーは依然、赤く点滅している。とりあえず回復しなければ。ストレージから回復アイテムの『おむすび』を取り出す。おむすびは、戦闘中や敵とエンカウントしている時は使用できないが、HPを50回復させるアイテムだ。私の最大HPは43なので、これひとつで体力は満タンになる。


「ゲームの世界で初めて食べる」


 パクッと一口、三角の頂点を頬張る。数回咀嚼し、その味を噛み締める。


「塩むすびだ〜、おいしい〜」


 死闘――もとい命からがらの敗走後に食べる塩むすびが、こんなにも美味しいだなんて知らなかった。感覚の完全再現を謳うだけあるよ、このゲーム!美味しいもん!二口目、三口目と食べすすめ、三角の形が消えたところで、HPバーは完全な緑色を取り戻した。


「ふう」


 冷たい地面から、よいしょっと立ち上がり、浅く息を吐く。分かっていたことだが、ボスというのはこれほどまでに強いのか。ゲームを続けていけば、あんなやつにも勝てるようになるのだろうか。なんとか勝ちに向けた想像をしてみるが、スーパーマンのような一撃で吹っ飛ばす!みたいなチープな勝ち方しかイメージできない。


「現実的じゃないよなあ」


 と、現実でない場所で呟く。とにかく、今は素材が必要だ。まだ、猿のツノしか手に入れられていない。少なくとも、何かしらの核がなければ新しい武器は手に入らないんだ。クールタイムが終了した大地の讃美歌(アヴェ・ティエラ)をもう一度発動させてから、自らを鼓舞し、滑り込んできた細穴へと戻る。

 

 洞窟内の大通りを進み、再び二又の道に辿り着く。さっきは、裏の裏をかいて大失敗したから、次こそは、純粋に裏をかいて右へ行こう。猿や蝙蝠は苦労せずに数匹倒し、道中を進む。マップを見ながら進んでいると、この道もさっきの滝の裏見(うらみ)へと繋がっているらしい。


「えー、もうあんなのと戦えないよ。ウズメさんをなんとか説得して猿のツノだけで作ってもらうしかないかなあ。だってしょうがないじゃん、強いんだもん。怖いんだもん」


 などといったい誰に向かって言い訳しているのか、自分でももう分からない。しかし、せっかくここまで来てしまったからには、裏見を確認しないわけにはいかない。もしかしたら、あの大蛇は別のところで休んでいる可能性も考えられるのだ。僅かな希望にかけて、裏見からは死角になっている壁からそーっと顔を出す。


 私の儚い希望は一瞬の間に崩れ落ちた。裏見の丁度中央に大蛇はいた。


 ――でも、何か様子がおかしい。その姿に先ほどの俊敏さはなく、むしろへろへろといった印象だ。しかし、頭だけは機敏にあたりをキョロキョロと見渡している。その瞬間、蛇はその体躯を天井まで一直線にしてから、ドスンと倒れ込んでしまった。


 蛇は数秒でポリゴン状となり跡形もなく消滅した。その後も、観察を続けるが特に変わったことは起こらないので、裏見の中央部、蛇がいた場所に恐る恐る近づいてみる。


 

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