第十九章:黒点
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「で?話してくれるよね?」
射川竹人はベッドに腰を下ろした明人と同じ目線になるように
床に膝を付き、俯いた弟の頭をそっとなでて見せた。
しかし何も喋らない。
あれから電車に乗って帰ってきたがその間も明人は一言も口を利くことはなかった。
ため息をつく。
「明人…。何か話してよ。でないと分らないじゃない…ねぇ…」
「………」
あんな事をされた後じゃ無理もないか…。
無理やり聞き出すのも明人の負担になりかねないし…
ここは少し慎重になった方が良いかもしれない…。
「ごめんね…怖い思いさせて…。
僕も全然気づけなくて…。
でも、明人ももう無茶しちゃだめだよ?
途中で具合が悪くなったら大変だろ?
お母さんだってすごく心配してたんだから。
それは分かるよね?」
そうするとそこで明人はやっと僕の言葉に反応し
頷いてみせた。
その反応をみて少しほっとする。
「じゃあもう今日はお風呂入って早めに休みな?
ね?」
そういいながらやさしく明人の頭をなでてあげた。
-2-
「え?」
入間光はその言葉に思わず眉間にしわを寄せてみせた。
「ごめん、もう一度いいかな?」
「うん…だからね」
そういいながら射川竹人は腕組して見せた。
弦楽部の朝練が終わった後
バイオリンをケースにしまいながら入間に昨日の話をした。
「あの後神社に駆けつけたら明人が倒れてて…
紫苑君が言うには、自分が首を絞めたって…。
明人は意識を取り戻したんだけどかなり混乱した状態で…
家に帰った後少し落ち着いたのを見計らって明人から話を聞き出そうとしたんだけど
明人、なにも話してくれなくて…。」
すると入間はバイオリンの弓をもったまま固まったように、ぴくりとも動かず
どことも定まらない一点をじっと見つめながらなんとも複雑そうな表情を作ってみせた。
「許せない…」
入間がぼそりとつぶやいた。
「え?」
「明人君にまで危害が及ぶなんて…
もし明人君に何かあったらどうするつもりなんだ…」
入間の弓を持つ手に力が加わる。
「…いる…ま?」
「下手すると、死人が出たっておかしくない…」
入間は僕を見ようとせず、
ただただ弓を握りしめ静かな怒りをそれにぶつけている。
「…どうしたの?入間?…どういう事?」
訳が分からない。
「射川」
突然入間がこちらに顔を向けると、僕の瞳をまっすぐに見つめて見せた。
「え?…何?」
「射川に話しておかなくちゃいけないことがあるんだ…
でも今は時間がないから…昼休み時間くれる?」
「あ…うん。いいよ?」
「うん。じゃあ昼休み、そうだなぁ…今日は天気もいいし…
裏庭なんてどう?」
「いいよ」
「じゃ、食事が終わったらそこで待ってて。すぐ行くから」
「うん…」
「あ、それから紫苑君にはあまりかかわらないで。」
「え?あ…うん。分かった…」
確かに弟にあんなことをした人物だ…。
関われと言われても遠慮したいところだ。
射川が自分の教室に向かったのを見送った後、
入間光はズボンのポケットからスマホを取り出してそれを手際よく
スライドして操作するとそれを耳にあてた。
「あ…、もしもし?」
-3-
「射川~!!なんか冷たくない?」
「え?」
教室に入ったところで鶴ヶ島が後ろから追いかけてきて声をかけた。
「俺らおいて行くなよぉ~!!」
青梅も後ろから小走りでやってきた。
「ああ…!!ごめんごめん!!」
つい入間との話に夢中でクラスメイトの事を忘れてしまっていた。
「最近入間先輩と仲いいじゃん」
「うん…まぁ…元クラスメイトだった事もあるしね」
「ああ…」
鶴ヶ島が頷く。
「おい!!」
小声で青梅が鶴ヶ島の脇をつついて見せた。
?
「ううん、なんでもない…それよりも射川も青梅も相変わらずうまいよなぁ…
バイオリン難しすぎてめげそうだよ…」
「そんなことないよ!!鶴ちゃんだいぶいい音でるようになってきたじゃん!!」
「うーん…一応チューナー使いながら音階練習してはいるんだけどね…
やっぱりちゃんと先生に習った方がいいのかなぁ…」
「そうだねぇ……
ちゃんとやりたいならやっぱり習ったほうがいいにこしたことはないけどねぇ…」
そういいながら青梅は同意を求めるように僕の顔を見たので僕も頷く。
「バイオリンって独学だと変な癖がついたりするから…
もし可能ならちゃんと習った方がいいかもね。
もちろん僕らや先輩でもできる限りのことはするし鶴ヶ島君も
一生懸命頑張ってるみたいだし…。
楽譜はちゃんと読めてるからあとはやっぱりバイオリンの演奏技術、だよね」
「…やっぱりそうか…。ちょっと親と相談してみようかなぁ…」
と、そこで朝のホームルーム開始のチャイムが鳴り響いたのでそれぞれ自分の席に着いた。
と、
前の席に座っていた紫苑がこちらを向いた。
「あの…おはよう…」
ちょっと申し訳なさそうに、控えめな挨拶。
「…おはよう…」
とりあえず挨拶の返事だけは返す。
「あの…昨日は…なんていうか…本当に…その…。
弟さん大丈夫だった?」
「…まぁ…一応。」
「そう…」
すると紫苑は席から立ち上がり僕の脇に立つと
腰を45度曲げて頭を下げて見せた。
「本当にごめんなさい!!」
と言われてもどうしたらいいのかわからず困惑していると
回りの生徒たちがその様子を不思議そうに見つめた。
「紫苑君、もういいよ。とにかく席について。
先生きちゃうし…」
「でも…」
いつもにこにこな笑顔の紫苑君だが今日はさすがにその笑顔は見えない。
「僕も…どうしてあんなことをしちゃったのか…
本当に…なんて言ったらいいのか…
ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいで…」
「紫苑君、その話はあとにしようよ…。
とにかく席について?ね?」
「………」
「こら、誰だ席についてないのは?」
担任が教室に入ってきて
席についてない紫苑を注意したところで
紫苑はやっと自分の席についてみせた。
-4-
入間には紫苑君にかかわるなと言われている。
だがあんな事があった後だし紫苑君だってバツが悪いのだろう。
ホームルームが終了すると屋上へ通じる階段へと連れてこられた。
そこでひたすら紫苑は僕に謝り続けた。
「もういいよ…。
僕も詳しい話しはよくわからないけど、あれは紫苑君のせいじゃないんでしょ?
もう一人の人格が悪さしたって事でいいのかな?」
「……そうみたいだけど…でも、体は僕のものだし…
僕にだって責任がないわけじゃないと思うし…その…」
「とにかく、もういいから。
明人も無事だし。
ただ、もう明人には近づかないでほしいな。
今回は明人から君に接触してきたから
明人にも責任があるかもしれないけど。
そんなところでいい?」
「…うん」
「じゃ、この話はこれでひとまず終わりにしよう。
僕もこっちに帰ってきたばかりで正直まだ色々となれないし
ちょっと疲れが残っているっていうのもあるから…
悪いけど…いいかな?」
「う…ん…。
本当に、ごめん」
「いいよ、もう分かったから。じゃ」
そう言って紫苑の返事を待たず僕は階段を降りた。
教室に戻り席に着くと
「射川君」と上から声が降ってきたので
顔を上げる。
「?」
誰だろう…見覚えのない女子生徒が僕のすぐ脇に立った。
胸の名札には「佐藤美月」とある。
「なんだか色々と迷惑かけてごめんなさい」
「え?」
「ごめんなさい、ただ謝りたくって…」
「何を?」
「詳しい話しはまた今度ゆっくり…」
そう言うとその女子生徒は自分の席へと戻っていった。
一体何だったのだろうか?
それにしても今日は色々な人から謝られてばかりだ。
なんとなしに教室をぐるりと見回したところで
それに気が付いた。
ええ!?
「な…!!」
思わず席を立ち上がる。
スズ=タケ!!
クラスメイト達と仲良く談笑している。
笑顔で…。
な…
思わず息をのんだ。
一体どうなってるんだ…この学校は…!!
キク=カやアキレスだっている…。
それに愛理ちゃんだってそうだ…。
いや…それだけじゃない、
羽鳥先輩だって…!!
力が抜けてストン、と椅子に腰を落とした。
一体…どういうことなんだ?
-5-
昼休み、昼食を早めに済ませると裏庭へとやってきた。
するとすでに入間がベンチに腰かけぼんやりと空を見上げているところだった。
「ごめん、遅くなって」
僕に気が付くと入間はニコリとほほ笑みながらこちらをみた。
「いいよ、僕も今来たばかりだから」
入間のとなりにそっと腰を下ろす。
「入間…」
「うん?」
「この学校、おかしくない?」
「え?」
「僕のクラスにキク=カだけじゃなくスズ=タケまでもがいて…
すごく驚いているんだ…。
それに入間や愛理ちゃん、羽鳥先輩だって…。
探せばもっと他にも向うの世界にいた人たちがたくさん見つかりそうだよ。」
「そう…射川も気が付いた?」
入間は、とうに気づいていたらしく驚くそぶりも見せず落ち着いて答えた。
「その話は羽鳥先輩から聞くといいよ。」
「え?羽鳥先輩?」
「うん。それより今朝の話しの続きしていい?
そっちの方が今は重要度が高いから。」
「あ、うん…」
「えと…射川…、イネ=ノは太陽神とは会った事あるよね?」
「え?太陽…神…?…って?」
「まだ記憶が全部覚醒しきれてないのかなぁ…12星座守護神なら全員アポロンの顔を知っているはずなんだけど…」
「アポロン?」
なんだろう…聞いたことがあるようなないような
「アルテミスの双子のお兄さんだよ。
今回の紫苑君の件とは切っても切り離せない話なんだ」
「え?」
アポロン…?
アルテミス…?
「順番に話すね。
えーと…太陽神アポロンは双子の妹でもある月の女神アルテミスを溺愛していた。
その女神に人間の身分でありながら馴れ馴れしく少々失礼な態度をとる
オリオンの存在がアポロンは許せなかった。
そこでスコーピオンを操りオリオンを殺させた。
ここまでが向うの世界での話。
で、こっちでの世界でまた同じことが起ころうとしている。
僕も具体的に詳しい話しまではわからないんだけど、
射川のクラスメイトの佐藤美月って子がアルテミスで…」
「え?!ちょ…待って!!
今なんて言った?佐藤?佐藤美月?」
「そうだけど…」
「今日声をかけられたよ。
間違いない、名札に佐藤美月ってあった…」
「なんて?」
「迷惑掛けてごめんって…」
「そう…やっぱり…。
彼女も罪悪感を感じてるのかもしれないね…。
それでね、同じく射川のクラスメイトの
日向って子がオリオンになるわけで、
そのオリオンの命を再び狙っているのがアポロンである佐藤聖。
佐藤聖は直接手を下すことなく、また過去と同じように紫苑君を操っているみたいなんだ…。」
日向?
初めて聞く名前だ。
クラスにそんな名前の人いたかな?
まだ全員名前を覚えていない…。
明日にでも早速確認したいところだ。
「紫苑君のなかにはスコーピオンが宿ってる。
アポロンは紫苑君じゃなくて、スコーピオンの方を手下にしてる。
だから昨日の明人君との件で悪さをしたのは紫苑君じゃなくてスコーピオンの方だよ。
でも…こんなの間違ってると思う…。
日向君はかつてのオリオンではあったけどそれは過去の話し。
紫苑君もそれを理解している。
だから紫苑君だって日向君に手を出してしまうことをすごく苦痛に感じている。
なんとか過去を繰り返すことを阻止しようと、こちらの世界にきたイネ=ノ様も手を貸してくれたりしたのだけれど…上手くいかなかった。
それに全く無関係なはずの明人君にまで危害が及んでいる…
なんとかしなければいけないと思ってる…。
射川だってせっかくこっちの世界に帰ってきてくれたとはいえ
まだ帰ってきたばかりですごく疲れてるだろ?
正直あまり負担を掛けたくないんだ…
だから…と思っても星座守護神でもない僕じゃやれる事に限界がある…
本当は射川には黙っていようかと思っていたんだけど
12星座守護神の射川ならアポロンに口ぎきできるかなって…
ちょっと甘えてしまっている部分があるけれど、でも
そうでもしないとこのままじゃ誰かが必ず傷つくことになる…
それだけは阻止しないとね…」
驚いた…。
入間がここまで考えてくれていたなんて…。
そして入間自身も苦しんでいる。
そんな入間の優しさがアキレスと重なって見えた。
「羽鳥先輩にも言われたんだけど、
僕には今現在はイネ=ノの記憶がない。
けれどいつかは覚醒していくかもしれないって。
だから今はアポロンの事、よくわからないけれど
でも会って話をすることはできるかなって思うよ。
ええと…佐藤聖さん?どこの学年とかわかる?」
「射川…」
入間は申し訳なさそうに控えめに微笑んで見せた。
「1年B組…。本当に佐藤美月そっくりだから会えばすぐ分かるよ。
ただ…ぼくらとちがって彼はアポロンのように力が使えるみたいだから
慎重にね」
「?力…って?」
「アポロンは太陽神。イネ=ノだって不思議な力が使えただろう?
彼だってそう。
具体的にどんな力が使えるのかは僕にもよくわからないけれど、
かなりの力を持っていると思うよ。
なんせ黄道12星座守護神を統括する神様なんだから…。」
「…うん…」
「ごめんね、射川…」
「…なんで謝るの?」
「僕が無力なばかりに…。
本当は僕は射川を守らなければいけない立場なのに…」
「入間…そんなに自分を責める必要ないよ。
だって入間が悪いわけじゃないんだから…。
とにかくさ、後でB組言ってアポロンに頼んでみるから。ね?
みんなで協力し合えばきっと上手くいくよ。」
「射川…ありがとう…」
ここでやっと入間が笑って見せた。
と同時に昼休み終了のチャイム。
二人してベンチから立ち上がる。
「B組、僕も一緒に行こうか?」
「え?」
「…よし!一緒に行こう。いいよね?」
「う…ん…。
そうだね!その方が心強いかな。
それに僕よりも入間の方が色々と知ってるみたいだし。」
「よし、じゃあ授業が終わったらB組前に集合ね。」
「うん。」
仲良く手を振り合い、階段の踊り場で入間と別れた。
アポロンに会って説得すれば…。
そうすれば紫苑君も苦しまずに済むだろうし
明人にだって二度と手をかけるようなまねをしなくなるかもしれない…。
けれど、
もっと大きなものが僕の知らないところで動いている。
そんな予感がしてならなかった。
-6-
授業が終わると鞄を肩にひっかけて教室を飛び出すとB組の教室前までやってきた。
するとB組はまだホームルームの最中のようだ。
良かった…、間に合った。
ほっとしながら入間が遣ってくるのを待った。
教室の後ろの扉のガラス部分から中をのぞき込む。
どの人がアポロンなんだろう…。
しかし真っ黒な髪の生徒たちの後ろ頭だけじゃ見分けがつかない。
と生徒たちが一斉に立ち上がった。
帰りの号令をかけている。
と、教室の扉が開きぞろぞろと生徒たちが出てきたので
そのうちの一人の男子生徒に声をかけた。
「ねぇ、佐藤って人いる?」
「え?…ああ…どっちの佐藤?」
「え?」
「うちのクラス、佐藤って二人いるんだけど…。
男?女?」
「あ、男!男の方だよ!」
「あー…ちょっと待って。
ひじりぃーっ!!お客さん!!」
男子生徒か教室の中に向かって叫ぶ。
すると生徒の一人がこちらをぱっと向いて見せたのだが、
それをみて驚いて目を見開く。
本当だ…。
クラスメイトの佐藤美月そっくりだ…。
佐藤美月がそのまま男子の制服を着ている…。
「なに?」
呼ばれて佐藤がこちらへとやってきた。
「お客さんだよ。じゃあ」
そういって男子生徒は廊下の奥へと消えていった。
「あ、あの…佐藤聖君だよね?
僕A組の射川っていうんだけど…ちょっと話があって…。
今少し時間いいかな?」
「うん?かまわないけど…なに?」
大きな瞳をぎょろりと動かし僕を見つめて見せた。
「あ…えと…ここじゃあ…ちょっと…。」
そういいながら屋上に通じる階段の方へと促した。
すると聖は少し不思議そうな顔を作って見せたが
大人しく僕の後ろをついてきた。
普段は人気のない、屋上へと通じる階段。
のはずなのだが…
階段をぐるりとまわりこんだところで
女子生徒が二人立ち話しているところだった。
お互いの存在に驚いて一瞬見つめ合ってしまった。
「あ…ここはだめか…じゃあ…」
僕が困っていると聖君自ら満天星ホールはと提案してきた。
「でも…たしかガラスが割れたとかで修理してるって話を聞いたけど?」
「昼休みに全部治ったって。もういけるんじゃないかな?
あそこなら人こないし…どう?」
じゃあ…と言って二人満天星ホールへ向かうらせん階段の前まで来た。
特に立ち入り禁止などの札はなくふつうに上まで行けそうだ。
立ち止まって僕が階段の上を見上げていると
聖君が先にらせん階段を上り始めたので僕もその後に続く。
ぐるりと階段の回り込んで登りきったところで
六角錐のホールが広がる。
入間や愛理ちゃんと会ったときと変わらず
ガラスの天井から降り注ぐ太陽の光が白くて淡いカーテンのように見えた。
部屋の隅には相変わらずのグランドピアノがポツン…。
と、その後ろに誰かが立っているのに気が付く。
最初太陽の光が眩しすぎてわからなかったけど
だいぶ近づいたところではっとして立ち止まる。
「…紫苑君…?」
「なんとなくね、そろそろ君らから声がかかるんじゃないかって思って
僕が呼んでおいたんだよ。」
「…どういう…事?」
「ぼくらの事を探っているんだろ?」
どうやらあなたはアポロンですか?なんて質問をする必要はなさそうだ。
聖君はそっと紫苑の肩に手を乗せた。
「気付いたんだよね?イネ=ノ。
僕がアポロンだってことに。」
「………」
「僕の記憶は…まだない、か?
じゃあ教えてあげよう。
黄道12星座守護神は僕の支配下にある。
だから僕の言う事は絶対。
そうだよね?」
すると問いかけられた紫苑は静かにはい、と頷いて見せた。
その表情にいつものにこにこした微笑みは一切なく
完全に凍てついた冷たい目をしていて僕は思わずぞっとする。
「射川竹人君?」
僕の胸のバッチをつんと、人差し指でつついて聖は行った。
「蠍座の暴走を食い止めるのが射手座の役目なんだよね?
でも…今はその役目ちょっと邪魔かな?」
バッジを差していた指を僕の額の真ん中に持ってきた。
「スコーピオンの邪魔はするな。わかったね?」
なんだろう…体が…まるで凍っていくような鈍い感覚…。
喉元が苦しい…。
なんだろう…
なん…だ、ろう……
「これは、命令だよ?分ったね?サジタリウス。」
「……はい…。」
-7-
「射川!!」
螺旋階段から降りてきた射川を見つけ駆け寄る。
「そこにいたのか…。随分探したんだよ?」
入間光は息を切らせながらそっと射川の肩に手を置いて見せた。
が…
すぐに異変に気が付く。
「…いか…わ?」
すると螺旋階段の上から続いて佐藤聖と観月紫苑が降りてきて驚く。
「おや?君は…」
佐藤聖は少し驚いた表情を作って見せた。
「射川に何をした?」
低い声で怒りを込めつつ彼を睨んだ。
「何って?ただ取り留めのない会話を少ししただけだよ?
ね?」
そう言って射川の肩をぽんと叩くと
射川はニコリと微笑んで見せた。
「そうだよ、入間。心配しないで。」
「…でも…」
「じゃあ…僕は用事があるので失礼するよ?」
そう言って紫苑と一緒に佐藤聖は僕らを置いてその場を後にした。
二人が廊下の向こうに曲がって姿が見えなくなったのを確認すると
すぐさま射川の方を向き直った。
「何話したの?」
「何って…彼、記憶ないみたいだよ?僕の話も全然理解してなかったみたいだし
紫苑君とはもともと友達の関係だったみたい。
本当、たまたまだったみたい。
入間も勘ぐりすぎだよ。」
そういって射川はまたにこりと笑って見せた。
「さ、僕らも部活行こうよ?」
そういいながら射川が歩き出したので
慌てて隣について一緒に歩き出すが…
なんとも煮え切らない…。
なんだろう…胸騒ぎがする…。
そうだ!!
日向君!!
「ごめん、ちょっと用事ができたから先音楽室行ってて!」
そう言って走り出そうとしたところで
ぱし!!と腕をつかまれる。
驚いて振り向くと射川が僕の腕を握りながら言った。
「どこへ行くの?」
「いや…だから……
い…かわ?」
「だめだよ?邪魔しちゃ…。」
「え?」
「さぁ、一緒に部活に行こう…入間もちゃんと練習しないと。
ね?」
そういいながら掴んだ僕の腕をぐいっと引っ張る。
射川の目がおかしい。
「ちょ…」
驚いて抵抗するが射川は腕を掴む力を緩めない。
それどころかか更に圧を加える。
少し痛い…。
射川がぼそりと低い声で呟いた。
「アキレス…僕の言う事、聞いてくれるよね?」
ドクン…。
心臓が大きく鳴った。
射川の茶色い瞳がキラキラと揺れている。
綺麗…。
綺麗だ…
射川の瞳がキラキラと揺れて…
吸い込まれそうなくらい…
体全身がその美しさに慄いて痺れていくような感覚。
「入間、部活に行こう。」
「…はい…」




