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第十二章:督促状

-1-


次の日の朝、部活が終わるとすぐさま教室へと向かった。


乱れた呼吸を整えながら教室内を見渡す…。


あ…。


紫苑の姿をみつけ思わずほっとして体の力が抜ける。


良かった…

今日、来れたんだ…。



すると紫苑は射川と一緒に教室を出て行った。


どこへ行くのだろう…。


まぁ…いいか。

無事登校してきたんだし…。


またひとつ大きなため息をつくと

自分の席についた。


しかしなんだかそわそわとして落ち着かない。


たまらず席を立ち上がると廊下に出た。


秋の朝日は白くまぶしい。

銀色の光の波に思わず目を細めながら

踊場へと出ると

屋上へとつづく階段の上のほうから人の話し声がしたので階上を見上げる。


「そう…じゃあ…ひとつだけいいかな。」

射川の声だ。


何を話しているんだろう。


そっと階段を一段登る。

「なに?」

紫苑の声。


もう一段…もう一段…


「日向君にはあまり近づかないほうがいい」


階段を登る足がぴたりと止まった。


え?

…なんだって?


思わず息を飲む。


「え?…何をいまさら…だれも好き好んであんな奴に近づいたりしないよ」


紫苑が笑い混じりに言う。


なんだろう…胸がツン、と痛む。


「いや…真面目な話なんだよ」


射川がさらに話を続けようとしたところで

学校内にチャイムが鳴り響いた。


慌てて、だが足音を立てないように慎重に

階段を降りると教室へと戻った。


席に着くと暫くして紫苑と射川も教室へもどり

二人とも自分の席に着く。


なんだろう…

なんだか…胸が苦しい…。


どうして射川はあんな事を言うんだろう…。


俺、射川に何かしたっけ?


それに紫苑の奴…俺のこと「あんな奴」って言いやがった…!!


思わず下唇をキュっと噛んだ。


と、突然視界が滲み出す。


やべ…



「ふぁ~ああああ!!」


思い切り両手を天井に向かって伸ばし

大あくびをするマネをしてみせた。


「あー…ちょーねみぃ~」

そういいながらごしごしと涙を拭いた。



-2-

二時限目は音楽の授業だったため

休憩時間に入るとみな教材を持って音楽室へ移動し始めた。


俺も教科書を持って席を立つ。


ふと、振り返ると紫苑が野田と一緒に教室を出て行くところだった。


………。


謝るタイミングがつかめない…。

今日は午前授業だしぼやぼやしていたらあっという間に一日が終わってしまう。


早く…早く謝らなくては!と焦るも

紫苑がなかなか一人になってくれずもどかしいばかりだ。



と、今度は女子たちのグループが教室を出て行く。

その中に美月を見つけた。

美月も俺に気づきこちらをちらりと向いたが、

何故だろう?少し困ったような笑顔を作ると

また前に向き直り教室を出て行った。


美月…。


あいつも…。


俺、なんだか一人ですごくもどかしい…。


紫苑の事、美月の事…。


それに野田や射川だってそうだ…。


ただ一人羽鳥さんだけが事情を知ってくれているが

なかなか話が進まない。


そもそも、なんで俺なんだ?


紫苑でも射川でもなく、

なんで?


羽鳥さんが言っていた。


黄道12星座が覚醒するのは時間の問題。

ただ俺がこうして覚醒していることに関しては羽鳥さんも分らないと言う。


じゃあ…どうしたらいいんだ…。


6年…

6年間ずっとこの呪縛に縛られたまま

ずっと悩み続け生きてきた。


そしてやっと出会えた夢の住人たち…。


なのに、


なのに…


誰一人として俺の存在に気が付いていない。


ただ、いたずらにもどかしく光る彼らの指輪の存在が

夢と現実を混同させ、俺を混乱に陥れていた。


そして、紫苑とのやり取りがまるでオリオンとキク=カのやり取りを

錯覚させるように…。


俺はいつの間にか紫苑の前でオリオンになりきっていた。


意図しているわけじゃない。


けれど…気が付くと

無意識に体が、口が、オリオンのように動いてしまう。


オリオンのように振舞ってしまう。


何故だろう…。


俺はオリオンに縛られたままだった。


一体、いつまでこんな状態が続くのだろう…。


一体…、いつまで……。


-3-

結局俺は紫苑に昨日の事を謝ることができずに

放課後を迎えてしまった。


今日は土曜日。

午前中で授業が終わる。


気が付くと教室内は部活関係者以外帰宅している状態だった。


一人窓辺にたたずみ、

サッシ枠に切り取られた外の景色をぼんやりと眺めた。


秋色。


金倉の山々はほんのりと紅葉が始まり季節の傾きを知らせていた。


空は真っ青に澄み渡り気持ちよいくらいに雲ひとつない快晴の空が

果てしなく広がりを見せていた。


遠くの空をとんびが大きな弧を描いて飛んでいるのが見える。


なんの変哲もない、

ただの、穏やかな景色…。


そう…

なんの変哲もない…。


大きくため息をつく。


俺…何やってんだろうなぁ…


ロッカーからスポーツバックを取り出していると

教室の外から日ノ出が顔を覗かせた。

もう一人、同じバスケ部のメンバー寄居長春よりいながはるも一緒だ。


「日向、飯行こうぜ」


「おう」


スポーツバックを肩に掛けた。


「今日弁当持ってきた?」

日ノ出だ。


「え?持ってきたけど?」

「悪いんだけどさ、俺と寄居、持ってこなかったんだよ。

部室じゃなくて食堂で飯食っていい?」


「いいよ、俺もなんかあったかい飲み物飲みたかったし」


廊下を出ると食堂のほう目指して歩き出した。


「そういえばどう?」

寄居だ。


「佐藤とは仲直りしたの?」

思わず心臓がドキリと鳴る。


佐藤とは美月のことだ。


夏のプールの件以来女子、男子のバスケ部の中ではその話があっと言う間に

広がってしまったのだ。


たぶん、今はもう少し話が広がって部活関係者以外でも知ってるやつも

いるだろう…。


だが俺自身はすっかりその話のことを忘れていた。


気が付くといつも心の中心には紫苑がいたからだ。


「別に…あんなやつどうでもいいじゃん」

「えー?日向、佐藤の事好きなんだろ?」

「誰があんなやつ!!」

思わず寄居を睨み付ける


「え?でも佐藤もお前のこと好きなんだろ?」


「はい?」


思わず眉間にしわを寄せた。


「誰がそんなこと言ったんだよ」


「え?お前知らないの?てか…見てて分るじゃん。

佐藤、ぜってーお前のこと好きだって!」


「やめてくれよ…」


冗談じゃない…。


美月が俺の事を?


俺のことあからさまに嫌ってるじゃないか。

そんなの馬鹿な俺だってわかる。


初等部のときは…

まぁ…普通に会話するぐらいだった。


けど二人で一緒に行動したり、という事は殆どなかったし。


他の女子たちとも話をする機会があって、

美月もその中の一人に過ぎなかった。


美月が俺を好きだってそぶり、一度でも見せたことがあっただろうか?

バレンタインだってチョコは…

女子連名で10円チョコを毎年もらって程度だったし…。


大きくため息をついた。


アホらしい。


考えるのもよそう。


疲れてきた。


そうこうしているうちに食堂へとたどり着く。


中は平日と違ってかなり空いていた。

一般生徒はほとんどおらずスポーツバックを持った部活関係者ばかりが目立った。


日ノ出と寄居がトレーをとったので自分もそれに続く。


「あれ?日向弁当持ってきたんじゃないの?」

日ノ出が小首をかしげた。


「弁当だけじゃたんねーよ。おかず増やさねーと夕方まで持たないって」


そういっておかずコーナーからから揚げとサラダのセットを取り

トレーに乗せた。


カード型の学生証をセンサーにかざし会計を済ませると

座る席を探すため学食内をぐるりと見回したところで

はっとする。


食事をする学生たちのなかに紫苑を見つけたのだ。


一瞬見間違えかと思ったが

間違いない…。


紫苑が野田と一緒に食事をしている。


なんで…?


思わず二人の様子を見ながら近くまで寄ってみる。


「ふふ…♪煮物大好きなんだぁ♪よかったら一口どう?」

自分の弁当を野田に差し出す。

「サンキュー!」

そういって紫苑の弁当箱から芋を箸で取るとそれを口に放り込んだ


「うん!おいしい!!」


「お前ら新婚夫婦みてぇできもちわりぃぞ!」

流し見るように二人を見ると思わず言葉を吐く。


「これから部活?」

野田が眼鏡のブリッジを上げながら言った。

「そ。じゃな」

そういいながらトレーをもって日ノ出たちと二人のそばを離れていった。


なんであいつらこんなところにいるんだろう?

疑問だけが残ったが…しかし…


ああ…そうだ!


今がチャンスだったじゃないか!

どさくさにまぎれて昨日の事を謝ってしまえばよかったのに!!


ああ…俺、どんくさすぎ…!!


-4-

「うーん!!」

思い切り伸びをした。


「終わったーっ!!」

「腹減った~!」


バスケ部の男子更衣室。


汗の臭いとデオドラントの臭い、

それからバスケットボールのゴム独特の臭いが混ざり

更衣室内はなんとも独特の空気が漂っていた。


なんとなく細長い更衣室の一番奥にある小さな曇りガラスの色を確認すると

まるでトマトのように真っ赤に染まっていた。


大分日が短くなってきた。

あと数十分もすれば真っ暗になってしまうだろう…。


「なぁ日向、今日本屋寄らない?」

寄居だ。


「あ、いいね。俺丁度ほしかったやつあるんだ」

「なんだよ、エロ本か?」

二年の先輩だ。


「え?いまどき本屋でエロ本買う奴いるんすか?

買うとしてもネット注文の方がいいですよね。

てかネットでタダでモロ画像いくらでもみれるし!!」


「日向…」

思わず寄居が苦笑いして見せる。


スポーツバックを肩に引っ掛けると

先輩方に大声でおつかれさまでしたー!と挨拶してから部室を出た。


「お前さぁ…」

寄居がちょっと控えめに俺の斜め後ろに立った


「何?」


「そういう本とか読むわけ?」


「え?ああ…まぁ…男のたしなみって奴?

寄居は?」


「えっ!!俺?!

俺は…その…まだ…」


「そう。読みたきゃ貸してやんぜ?」


「よく手に入ったね?親にばれなかった?」

「いやいや、俺のじゃなくて兄貴のだから」


「え?日向、お兄さん居たんだ?」


「そうだよ、知らなかった?今音大行ってるよ」


「音大っ!?」


寄居が細い目を全開にして驚いて見せた。


「何の楽器?」

「チェロ」


「へぇ…チェロ…。

いやぁ…なんか意外っていうか…

もっとこう…日向のお兄さんってくらいだから

アクティブなイメージを思い浮かべたんだけど…

音大でチェロねぇ…」


「でもエロ本持ってるぜ?」


「ははは…そりゃ…まぁ…ねぇ?」


そうこうしているうちに昇降口へとたどり着く。


「日向!」

下駄箱から靴を取り出そうとしたところで声をかけられた。


振り向くと野田が本の束を両手に抱え持ち立っていた。


「野田じゃん。何?」


「今図書室で雑誌借りたままでしょ?早く返してほしいんだけど…出来れば今日」


「ええ?!週明けじゃダメなわけ?!」


「予約が入ってるんだよ。この前渡した督促状も無視して…

いい加減にしてほしいんだけど?」


野田が軽く俺をにらみつけた。


「はいはい。じゃー今持ってきますって。多分教室にあるから。

寄居、わりぃんだけどちょっと待っててくれる?すぐだから」


「あ、うん」


寄居と野田を後にし、階段を2弾飛ばしで駆け上がり教室へと向かった。


窓の光から差し込む真っ赤な夕日が校内を不気味なほどに赤く染めている。


教室の前までやってくるとドアが開いていたので

何のためらいもなく中に入った後、人がいることに気付き

思わず心臓が止まりそうになる。


しかも…


「あれ?紫苑何してんの?」

自分の席に着き小説を手にしている紫苑を見つけた。


「あれ?日向こそ」


紫苑も驚いて顔を上げた。

「俺?忘れ物。てかお前こんな時間まで一人でどうしたの?

誰か待ってんの?」


「あ…いやそうじゃないんだけど

小説に夢中になってて…。

…あ、もうこんな時間なんだ。

僕も帰らないと。


そう言いながら小説を自分のかばんにしまいこむ。

その様子になんとなく安心し小さくため息をつくと

自分も机の中を見た。


たしか借りた本、机の中にしまいっぱなしだったと思ったんだけどなぁ…。


本を探すついでに

学校に置いておこうと思っていた教科書とノートをかばんに入れる。


「っれ~。おっかしいなぁ…」


本が見つからない。


もしかして家に持ってかえってしまったのだろうか?


…と、

すぐ背後で何かが音を立てて倒れた。


驚いて振り向くと

紫苑が胸を押さえてしゃがみこんでいたのだ。


「え?ど…どうした紫苑?!」


自分もしゃがみこむ。


「な…んでもない。ちょっと胸が痛んだだけ~」

そういいながら紫苑は無理やりな笑顔を作って見せた

が、次の瞬間にその笑顔が酷く歪む。


「おいおい…なんともない訳ないだろ…保健室行くか?」


紫苑の小さな肩にそっと手を掛けた。


「や…やめて…これ以上は…」


え?


「本当、大丈夫だよ。思春期特有の痛みみたいだよ?

医者もそう言ってたし」

「え…?そんな話聞いたことねぇぞ?その医者大丈夫か?」

「大丈夫だって!」


俺の手をさえぎると

ゆっくりと立ち上がり、かばんを肩に引っ掛け

「じゃ」と言って教室から出て行ってしまった。


なんなんだ…あいつ…。


そこで、フラッシュバック。


図書室の本を大分前に家に持ち帰って部屋の棚の上に置いたのを思い出す。


ああ…そうだ、そうだ…。

やっぱり持ってかえったんだ…。


って…そんなことより!!


はっとして自分も慌てて教室を出るが

紫苑の姿は既になく

真っ赤な廊下がずっと遠くまでまっすぐに続いているだけであった。


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