第二十六話 「はじめてのちゅう♡」
「つまり、ゴブリンの万の軍勢を滅ぼすには必要な犠牲だったという訳だな?」
魔王陛下は、こう確認し、俺達五人をねめつけた。ちなみに新メンバーのラダーは魔王様の威光にあてられて、俺のアイテムボックス内でがくぶる震えている。しっかりしろよ! 元チャンプ!
ここは、王城内の裁判所である。前回俺が受けた略式裁判とは訳が違う。裁判官も検察官も本職の人間によって構成されている。ギルドから弁護人が付いたのが救い(?)ではあるが、よりによって、アイリス嬢ですか。既に半失神状態で魔王陛下に対抗できるとも思えないのですが。
「はい。当時、ゴール教導官殿たちが一万匹のゴブリンに包囲されつつあった状況で、我々の戦力で事態の打開を行うとすれば、他に戦術的な選択肢は無く、結果、王城に被害を与えたことは、誠に遺憾ながら、回避不可能の犠牲であったと断言せざるをえません」
「ふーん、まあ、あの穴については、遺跡地区への行きやすい通路と思えばどうという事も無い」
「「「「「え? いいの?」」」」」
魔王様の豪胆さにこそびっくりである。
「それよりも、問題なのは、むしろお前たちの持ってきた神託遺物の方だな。あのあと、お前らの証言通りに遺跡に潜らせたチームが、大量のオーパーツを入手してきたが、どれも物騒で国家管理にしなきゃいけない代物ばかりだった。それでも俺としては、冒険者の手に入れた物を取り上げることはしたくない」
うーん、確かに魔王様ならそういうだろうとは思うけど、実際使った俺たちとしては、手に余る代物というのも事実だしなぁ。
「そこで、お前たちさえよければ、お前たち自身に国の役職についてもらうことにしたいが、どうだ?」
どうやら、公務員になれるということらしい。
「アルバ=アナード、貴殿には赫月騎士団への推挙が決まっている。同じくジェイド=ルギーム、貴殿は蒼月騎士団の密偵部隊7thムーンに推挙する。そして、ミミ=ファナック。お前さんみたいな美人で戦闘力のあるレディには、良い就職先がある。俺様の後宮に入らないか?」
「え? え! ええええっ!!」
ミミはおろおろしながら、頬を赤らめてはいたが、結局は、前向きに検討するようだ。俺の見解とは違い、この国の女性にとって、ある意味考えうる一番良い就職先という感覚らしい。
アルバとジェイドも異議は無いらしい。と、いうか元々兵士志望だったようだ。
「そんで、ヌコ=シールズも、後宮へと思っていたんだが、内閣の連中が猛烈な反対をするのでな、この話は無かったことになった」
「それはなぜですか?」
「ああ、お前は来たばかりで知らないだろうが、この世界では、猫耳族はどちらかというと被差別民族という扱いになる事がままある。まあ、この国を建国する以前と比べたらずっとマシになってはいるがな。だが、同じ猫の中でも、同じ猫同士で特に差別されている連中が居るんだ。それが、黒猫だ」
思わず、隣のヌコをガン見してしまった。
ちっちゃな体に、黒一色の髪の色。その上に付いてる猫耳も、お尻から出ているしっぽまで真っ黒だ。
「俺達人間の間ではそれ程でもないが、同じケットシー族の間では黒猫ってことだけでも、迫害の原因になるらしい。実際、お前たち親子もほとんど亡命みたいな形でこの国に来たんだったな。タザンはあの料理の腕でこの帝都に居場所を作ってしまったが、ヌコは、これまでも何度か帝都で襲われているよな?」
「にゃ」
それは、切ない表情での肯定だった。
「普通に石をぶつけられるなんて、日常茶飯事だし、うちを知ってる男から手籠めにされかけたことも何回かあるのにゃ」
「そういう連中は、自分の欲望を発散した後、あとくされの無いように被害者を殺す場合が多い。実際、毎年数件はそういう事件があるからな。しかも、下手をすれば、そういう奴らこそ英雄みたいな風潮もあるから始末に負えん」
「勅命でそういうことを禁止できないんですか?」
「残念だが効果は薄いな。既にそういう勅旨を出しているが、守られた試しはない。むしろ、陰に籠るだけだった。そうまでしても、差別をしたがる奴らはどうしても駆逐できねぇものなんだよなぁ……」
あの魔王陛下が苦々しく思う以上の事が出来ないでいる。結局、こんな世界でも、「いじめの構造」って無くならない物なんだなぁと人の業というものを考えさせられた。
「話が脱線しちまったな。それで、結局のところ、賢治、おまえさんの処置だが、罰金は全額うけとった。その後の処置だが、予定通り所払いだ。一週間以内に帝都を出てほしい」
「にゃ! あんまりにゃ!」
たった今まで自分の不幸に凹んでたヌコが、俺の為に陛下に抗議してくれている。そのことに少し嬉しさを感じてしまった。
「まあ、最後まで聞いてからにしてくれ。所払いといっても、別に永久に入ってくるなという措置じゃない。一度外から入国手続きをしてくれって意味だ。そもそも、お前入国手続きしてないだろ。それじゃ、戸籍も作れないからな」
「えーと、つまり?」
「きちんと手順を踏んで入国すれば文句はないぞということだ。お前みたいな面白経緯のキャラをみすみす他国に渡す訳無いだろう」
その言い方もどうだか? しかし、俺、面白キャラだったのか?
「あんな悪戯に乗ってくるノリの良さ、突飛な成果を簡単に持って帰ってくる強運、いろんな意味で〝持ってる〟キャラ、どれをとっても面白キャラだよ。十分にな」
それは、喜んでいいのだろうか?
「で、だ。そんなお前たち二人には別口で頼みがあるんだがな。実のところ、こっちが本命の用事だ」
「「本命の用事?」」
「地方の町、村を回っていろいろ問題点を洗い出してほしい。定期的に似たような使命を持った巡検使をこれまでも何組かは送り出してはいるんだが、いかんせん優秀で首都での仕事が手隙の人間なんて、そうそう居るものじゃなし、かと言って誰でもいいかとなると、今度は大事な問題をスルーしたりするしな」
「「は、はあ」」
「その点、お前たちは、黙ってても、トラブルの方で近づいて来てくれる。無条件で適任なんだよ」
ヌコがてれてれしてるが、褒めてないからな?
「つまり、社会の膿を出す為に仕事人をしろと?」
「察しが良くて助かるわ。大体の旅程表な」
死して屍拾う者無し、か。使い捨ての駒にされないだろうな?
「俺としては、せっかくみんなで仲良くなったんだから、もっとみんなと冒険者したかったがな」
アルバの気持ちは嬉しいが、正直、俺たちは強すぎる力を手に入れてしまった。魔王様が危惧しているのも、そういった事なのだろう。それ以前に、俺たちが手に入れた力に振り回される危険があることをもっと自覚するべきである。本当に、そう考えてしまうほどあのレールガンを発射した時は怖かったんだ。
「「ん~」」
「なに? 二人して唸ってるのよ?」
え? ヌコ?
「どうしたんだ? 旅程表を眺めて溜息なんて」
「んあ! にゃんでも、ないにゃ!」
「いや、何でもないわけないだろ? 顔が青いぞ!」
「……もしかして、ケッツィオのことか?」
魔王様は、何か心当たりがあるようだが。
「……にゃ」
「ケッツィオは、ヌコの生まれた村で帝都から徒歩だと20日位東にある。実は、ヌコたちは、ここの地頭の家の出だったんだが、村人の反乱に会ってここを追われたわけだ。で、今は徴税も払っていない状態の無政府地帯になっている。ヌコたちが追われて三年、いい加減秩序を回復しないと周りの村や町にも示しがつかねぇ」
「それにしては、三年も待っていたんですか? 首謀者はもう、完全に舐めてると思いますが」
「その通りだ。で、最近税の減免を求めてこんな手紙を出してきた」
魔王様から手紙を受け取って読ませてもらった。
「うわぁ!」
そこには、税の減免どころか、自分たちの村を独立国として、自分を国王として認めろとか、魔王様と対等の立場でなら交渉に応じてやるとか、いろいろな要求が11条に渡り記されていた。
「これって、実質自分の死刑執行書になってませんか? 完全に反乱おこしてますよねぇ?」
「その通りだ。だが、こいつらの実力を考えたら、正規軍動かすのも勿体ない。今のお前たちなら二人で充分おつりが来ると思うぜ」
「しかし、ヌコ、いいのか? 顔見知りも大勢いるだろうに」
「うちらは、里を追われた身にゃ。でも、にゃかよくしてくれた人達も多かったのにゃ。問題なのは、これを書いて送ってきた奴だけなのにゃ! 確かに怖いのにゃけど避けて通ったらもっと悲劇がおこるのにゃ!」
「その通りだ。お前たちが失敗や、拒否するなら、やはり正規軍を動かさなければいけなくなる。そうなれば、この程度の村は全滅だ。俺様としても、それだけは避けたい。どうか、引き受けてはくれないだろうか?」
「確かに全滅じゃ、誰も救われないですね。ただ、俺はかまわないですが、ヌコの気持ちを考えると……」
「駄目か?」
「……やるにゃ! 元はといえば、責任を放棄して逃げのびてきたうちらが悪いのにゃ!」
「……すまない、ヌコ。国としても、出来る限りバックアップの態勢は整えるからな」
その確約があればほぼ大丈夫だな。
こうして、ほぼ全ての案件が解決したため、今日はここで閉廷となった。
俺達は、旅立ちの日までに一度会いに来るように魔王様から賜った。
その夜、久々にゆっくりとベッドで眠れると思っていたところ、
こんこん
ノックがあったので扉を開けるとそこには寝間着姿のヌコが立っていた。
「どうした? おしっこか?」
「うちをにゃんだと思ってるにゃ!」
違ったらしい。
「魔王様からの依頼のことだにゃ」
そう言われれば邪険にすることもできない。取りあえず、部屋の中に入れる。
当然の如くベッドに座ったヌコは、普段の姿からは想像できない位控えめな態度で
「依頼の件にゃけど、本来にゃらうちが一人でやるべき責任のある仕事にゃ。もしも、気が進まにゃいなら、うちだけで行こうと思うのにゃ」
そんなことを言い出したので吃驚してしまった。
「おいおい、筋としては、そうなのかもしれないけど、正式な依頼として、俺も魔王様から直々にお声掛け頂いた仕事なんだぞ。今更俺戦力外とか言われて、はいそうですか? とは言えないだろうが」
「でも、うちはあそこから逃げ出してしまったのにゃ!」
「お前だけじゃないんだろ? タザンさんだって一緒に逃げて来たんだし、まして、そうせざるを得ない理由がしっかりあっての話じゃないか?」
「けれど、うちは、うちは……」
「俺としてはさ、むしろヌコをそんな所に行かせたくないんだがな」
「にゃ?」
「だって、俺が初めて会った時のヌコは、元気で、空気読めなくて、イラッとする位テンション高くて、面倒見が良くて、その上、とてもキュートな女の子だったんだから。そんな子が苦しんでる姿なんか見たくないに決まってる」
「ケンジ、もしかして、デレ期にゃ?」
「そういう所だよ。俺がお前に救われたのは!」
口を両手でひっぱりながら、そんな告白めいたことを言ってしまった。デレたと言われてもしかたないのか?
「ひたい! ひたいにゃ! ひっぱるにゃー!」
引っ張ったままぶんぶん振ってやると更に伸びた。こいつ、おもしれー。
なんだかんだ言っても、殺された直後に魔王様に捕まって、シャバで出会った初めての子である。出方次第では、今よりずっと鬱だったとしてもおかしくはない。俺が、今のテンションを維持できたのは、間違いなくヌコのおかげなんだよな。言いたかないけど。
「う~ひどいニャ!」
頬を押さえて涙目のヌコ。改めて見るとやっぱり美形だよな。こいつ。
「俺は、これでもお前には感謝してるんだぜ! 異世界に来て初めての友達が、お前で良かった」
「うちも、ケンジに出会えてよかったとおもってるのにゃ」
そうして、窓から覗く月明かりを何となく二人で見ていた。
最初に動き出したのはどちらからだったろうか?
まあ、どちらでも、そう代わりはないか。
大体、同時に動き出して、どちらからともなくお互いを求めた。
そうして、二人の距離が限りなくゼロに近づき、
ちゅっ♡
触るだけであったが、結果としてファーストキスが成立した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、結局二人して寝落ちした結果、まさかの朝ちゅんが成立してしまった。
別にお互い服も着たままだし、Hなことをしたわけでもない。シチュとしては、最初の日の方が恥ずかしい格好だったくらいである。それでも、何故かヌコの顔がまともに見られない。それはヌコの方も同じようだった。
「メシ、食いに行こうか?」
「にゃ」
最初の日に何かを悟って苦虫を噛みしめていたタザンさんは、今日も、同じ雰囲気を察したのであろうか? しかし、口では何も言わずに只朝食セットを差し出しただけであった。今日の卵はポーチドエッグである。暖かいのがありがたい。ヌコと差し向かいで黙々と朝飯を平らげる。今日は誰も近づいて来なかったことに気がついたのは、食い終って部屋へ戻ってからである。
今日は魔王様の所に行って昨日のつづきを話さねばならない。
ただ、そうするとまたヌコの顔が曇ると思うと居たたまれない。
「うちなら大丈夫にゃ。ケンジがついていてくれるからにゃ!」
ようやく、表面上はいつものテンションに戻ったヌコに安心の溜息をつくと、俺も切り替えて登城の支度を済ませて、外でヌコを待っている。外套を着こんだものの、今から20日間の旅って結構危ないんじゃないのかな? と、考えてしまった。
「おまたせにゃ」
ヌコがやってきたのでタザンさんにひと声かけてから出発する。
登城し、魔王様への謁見を求めると、既に周知済だったのか、直ぐに私室に案内された。簡易裁判を受けたあの部屋である。今日は客扱いなのか、お茶が出されてお菓子も置いてあった。
魔王様は国王ではないので、仰々しい謁見は普通行わないらしい。そういう仕事は王様がやるのだそうだ。
「待たせたな」
程なくして、魔王様がいらした。今日はオードリィ様とダイアナ様がお付でいらしていた。
「お前の椅子を返しておこうと思ってな。ゴブの宝物庫にあったんで結構びびって心配してたんだぞ。ダイアナが」
「御心配おかけして申し訳ありませんでした」
「いいのよ。無事に帰ってきたんだから」
そう、優しく言って下さったが、申し訳なくて。
「で、だ。昨日の件の続きだ。厳しい季節に旅に出てもらうわけだから、馬車を貸そうと思う。結構急ぎの案件になると思うので、明日にでも出発してくれると助かる」
その後、細々とした打ち合わせなんかを三時間程して、大体の方針が定まったところで、最後に馬車を見せてもらった。
その馬車は、飾りなど、特に目を引くものはなかったが、丁寧な作りになっていて、車内は隙間風も入らない気密性と車中泊に向いたベンチシートが非常に快適な仕様となっていた。しかも、サスペンション付きである。
「いくら快適だからって、あんまり車内でいたすなよ! 匂い付けて返したら買い取ってもらうからな」
昨日の今日でそんな釘を刺されたら、どうしたって赤面してしまう。俺達の微妙な雰囲気に何かを察したオードリィ様が魔王様の頭をポカポカしたのはご愛嬌だと思いたい。
ちなみに馬は二頭引きで、冬毛のもふもふした大型馬である。愛嬌のある黒い目がかわいい。
農耕馬とばんえい馬の合いの子みたいな間違っても早く走れるとは思えない馬なのである。
早速、ヌコが名前をつけた。栗毛の方がキンノホシ、葦毛がシシャモチャンである。絶対知っててやってるだろう? 物資は、俺達が乗る所以外にトランクもついているし、俺のアイテムボックスもある。
そして、翌日早朝、タザンさんと教導官殿たちに見守られて出発することとなった。
パーティーのみんなは既にそれぞれの道で用事があるため再度集合出来なかったのは心残りではあるが。
「気を付けて行けな。二人とも無事帰って来い」
涙ながらに見送るタザンさんに
「帰ってきたら三人だったりしてにゃ!」
などと油を注ぐヌコ。まあ、これもこいつの照れ隠しなんだと諦めることにして、いよいよ出発する。
「それでは行ってきます。ヌコは俺が必ず守りますから」
そう、宣言すると、タザンさんは無言で拳を俺の拳に合わせてきた。
こうして、俺達の旅がスタートした。時に11月24日冬将軍はすぐそばまで近づいて来ていた。
破章 完
この作品は、内容に危険な要素が多数含まれます。
精神的疾患をお持ちの方、心身喪失状態の方、心の弱い方、特に、いじめの経験をお持ちの方にはおすすめいたしません。
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(ただし、執筆スピード、スケジュールについての事は除外します)




