第二十一話 「はじめてのダンジョン」
そして、翌朝早朝のことである。余りの息苦しさに、はっ! と、目が覚めた。
「うにゃ~♡ ま~だねむたいにゃ」
と、言って俺を抱きしめ、身動き出来ない様にロックしていた誰かがいた。腕枕をされている所為で左腕は痺れて全く動かない。寝てる間に侵入されるとは、ある意味、生まれて初めての恐怖である。
よくよく見ると、右手は奴の股間に挟み込まれ、こちらも動けなくなっていた。
「おいっ! 起きろ!」
「うにゃ~♡ あと五回ぃ~」
なにの回数なの! 改めて、このちっちゃかわいい、あったか生き物に対して恐怖の感情が湧いてきた。確かに、冬の寒い時期に一緒に寝てたら楽園だなぁ。って、いやいや、何考えてんだ俺!
俺の胸に顔を埋めてふにゃ~っとしているから、猫耳が目の前にある。と、いうか耳が触ってる。もふもふとした柔らかい触り心地は、まさに至高! そして、改めてその寝顔を眺めているとホント、美少女なんだなぁと実感する。見ていて飽きない、というか、もうヤミツキになる可愛さである。
「いや、だからって、この状況は拙いだろ! おーきーろー! じーかーん!」
「うにゃ~♡ あと五分こする~」
と、言いながら腰がこすりだした。具体的に何をとは言えないところを!
いい加減に
「しろっ!」
俺は、唯一動かせる所を使い奴に攻撃を加えた。
ぽぎゃん!
所謂ちょーぱんかましたという奴である。この一撃でヌコは、睡眠から失神へと状態変化した。
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「ひどいにゃ! か弱い女の子に向かってヘッドバットとか、どこの鬼畜にゃ!」
「か弱い女の子は普通男を使ってオナニーとかしない」
「! そ、そりは! えへへ~♡」
なんだよ、その反応は。全く、朝からビミョーな雰囲気で下に降りると、食堂は既に開いていて、ゴール教導官が朝食を食べていた。
「おはよう、二人とも。食事を取ったら直ぐに出発するからな。しっかり食べていくぞ!」
体育会系らしい朝の挨拶に返礼し、早速朝食をいただきに厨房へ。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
一瞬、俺を殺しそうな目で、そんな事をタザンさんに言われた。
「んな訳無いでしょう」
「にゃにを言ってるのか意味不明にゃ!」
二人して抗議した。しらばっくれたとも言う。
「ふん! まあいい。朝はパン食だがいいか?」
「もちろんです」
俺、向こうでも朝はパンだったからな。パンだと朝のカロリー摂取が計算しやすいというのが、理由でもあったんだがな。厚切りのパン一枚と、スープもの、サラダと卵一個の料理、〆に○クルトが定番である。
「ほい、お待ち!」
果たして、出てきた朝食は、大体向こうで食べてたものと同じ感じだった。ヤクル○が牛乳になった位か。
「これは、拙者の意見をタザン殿が取り入れてくれて形となった朝食メニューである。まあ、相当贅沢な分、高めの値段だが、それでも毎日300食は出てる御近所で評判の逸品だな」
そう言いながら、トレーを片付けに来た教導官が教えてくれた。
「では、お先に。準備して待っているぞ!」
と、言われたので、流石に急いで食べてしまおう。と、二人してがっついた。
パンこそ固めであったが、味は、向こうより旨みが深い。小麦の種類も違うのだろうが。スープに浸して食べると、丁度いい感じになるので、ヌコの真似をして食べた。卵は、スクランブルエッグになっているので、これも食べやすかった。ちょっと、黄身の色が緑かかっているが、まあ、普通に卵だな。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
そう言って食器を片付けると、タザンさんも流石に破顔して
「じゃあ、頑張ってな。娘を頼むぞ!」
と、送り出してくれた。ヌコはというと、
「パパ、そういうハズい事いわなくていいにゃー!」
と、悶えていたが。こいつの羞恥心の置き所が今一良くわからん。
「さて、そろそろ出発するぞ!」
ゴール教導官に急かされ慌てて外へ。ギルドまで五分程の道のりである。
「そういえば、俺は、魔王様のハーレムに無断侵入した罪で罰金を払うのにダンジョン入りするわけだが、お前たちは、どうしてダンジョンに潜るんだ?」
「税金の延滞にゃ! うちら、三年前にグリモールに来たのにゃが、市民になる為の税金はとても高いにゃ! オトンも頑張ってようやく店を出せるまでににゃったが、人足税については完全に忘れていたにゃ。かろうじてオトンの分は間にあったけど、うちの分がからっけつだったにゃ! そんで働いて返すことを国から提案されて、うちは、仕方なくドナドナされたのにゃ」
税金か、やっぱ、一番厳しいのか。
「ホントに酷いんにゃ! にゃんと、一年で稼いだお金の九」
九割も持ってくのか?
「9%も持っていくにゃ!」
がっくん。
「あのな、俺らの世界では、累進課税ってな、稼いだ金の二割から五割を持って行かれたんだ。確かに、9%の税金で滅びた国もかつてあったけど、すっごい恵まれてるぞ!」
俺自身、最近は、税額30万以上支払ってたもんな。これで、年金も払ってたら、どんだけ持ってかれてたか。二十歳未満で良かったよ。
「はっはっは、そういうことらしいぞ! ヌコ。まあ、あそこで冒険者やるような連中は、大抵そんな連中だからな。規律を守らせながら、尊法精神を叩きこむことも、拙者の仕事だ!」
「うにゅ~! 納得いかないにゃ!」
そんな話をしていたら、ギルドはすぐだった。
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「おはよう、諸君。それでは、今日も一日、無事故で頑張ってもらいたい。今日からケンジが参加する。十日間だけではあるが、仲良く、協力して頑張ってくれたまえ。それでは、突入!」
そう、言われてギルドの裏手にある入口から、いよいよダンジョンに突入する。入口の門を潜ると、すぐに城の城壁があるのだが、その一部に石垣が崩れた跡があり、そこがダンジョンへの入り口となっている。親切なことに順路を教える看板があり、間違えない様に行き先を示している。
「それでは、突入!」
昨日ヌコと一緒に居たアルバ=アナードという少年が、このパーティーのリーダー格らしい。爽やか系のイケメン君で、俺に対しても、気さくに話しかけてくれる。なかなかいい奴だ。殆どフルプレートといっていい鎧姿だが、ヘルムなしで素顔を晒している。顔を隠したくないのか? と、茶化したが、ヘルムは、既に売却して税金の一部になったそうな。正直スマン! 武器は、大剣で、パーティーのダメージメーカー。
今一人の男ジェイド=ルギームは、大きなウォーハンマーを武器にモンスターを潰して回る分厚いボディの偉丈夫である。体型からは想像できなかったが、これでも、スカウト(密偵)であり、ダンジョン内での立ち回り方など、アドバイスしてくれている。彼は、今日で大凡滞納分の完済が終わるそうで、今日一杯の付き合いとなるらしい。
もう一人、ミミ=ファナックという少女は、スラリとしたスレンダーな体型の美人さんで、魔法使いだそうだ。彼女は、亡くなった母親の遺産を持ってこの国に移住してきたものの、税金の支払いの為に母の遺産を現金化することを嫌い、自らダンジョン行を志願したそうな。後衛専門であり、ヌコは彼女を守って自分の手数が減ってしまったらしい。ただ、全体攻撃魔法を使えるため、全体としての殲滅数は彼女のおかげで増加しているそうだ。
「そういうわけで、今日は、殲滅数を全体で割って、分配したいと思うがどうだろうか?」
「俺は異議なしだ。昨日も、ヌコのおかげで助かった部分があるからな」
「私から、ほんとなら言いださなきゃいけない事だわよね。それでお願いします」
「新入りはどうだ?」
アルバに聞かれたが、否は無いな。
「俺も問題ないよ。殲滅となると、俺がどこまでやれるかだがな?」
まあ、出来る限りやってみるさ。
こうして、俺の初めてのダンジョンアタックが始まった。
「うもょーん」「うみょーん」「うにょーん」「うにゃ~♡」
どれがヌコの鳴き声でしょう?
いきなりダンジョン内に入った直後にエンカウントした蚤のような人間大の生き物。これが、ノミモドキというこのダンジョンの雑魚モンスターだ。蚤といえば、ジャンプ力が凄いのだが、この生き物は飛び跳ねないらしい。ちょこちょこ動き回るだけだ。ただ、数が多いので、ガンガン駆除しないと大変なことになるらしい。噛みつかれると、痒くてたまらないらしいのも嫌だな。
「ファイヤーウォール!」
ミミの呪文に、十匹程のノミモドキが焼かれる。それぞれが瀕死に近いダメージを受けて満身創痍となる。それを、男衆が攻撃して殲滅するというのが、パターンであるようだ。
早速俺も、攻撃してみる。ばきっ! と音がして、ノミモドキの首から上が吹っ飛んだ。一撃で絶命した所を見るとほぼ問題無いようだ。強化に加えて攻撃力UPの魔法をかけてくれるとは聞いていたが。
「ヌコ!」
最後の一匹をヌコに譲り、これを駆除させる。が、一撃では倒せなかった。どうやら火力不足というのは、間違いないようだ。結局連撃二回でようやく倒すと、ノミモドキの亡骸は、土に帰って行った。
こうして、初めての戦闘は、完勝で終わった。が、やはりゴール教導官が言っていたことは確かだったようだ。
「ふにゃ~、終わったニャ」
いや、まだ始まったばかりだよ。成程、どうにかしなきゃな。
汗を拭うヌコを見ながら、どうするか? みんな、これじゃ良くないとは思っているようだ。




