第十九話 「はじめての模擬戦」
「はじめぇぃ!」
模擬戦スタートだ。相手のヌコという少女は、ナイフ二本持ちのようだ。一気に間合いを詰めてきた彼女の攻撃を躱すため、俺は椅子を短めに持ち、盾のようにいなしている。
「ほう! あれをいなすとはな。おいっ! よく見ておけよ。いいお手本になるかも知れんからな」
「「「サー!」」」
鉄壁の防御に無理を悟った彼女がバックステップで距離を取ろうとした。
すかさず俺は椅子を底面に持ち替えて思いっきり振り回す。ピュンと風切音が鳴ったかと思うと、がっちぃぃん! と凄まじい衝突音がして、彼女の障壁ががりがりと削れた。
「うにゃん!」
後方にころころ転がっていく少女に向けて追撃をかける。が、転がりながらもぴょーんとジャンプ、2mほど間合いを取られて構え直された。
(いまので決めるつもりだったのに)
いや、一日の長がある相手との戦闘だ。油断は禁物。それよりも、ここまでスムーズに動けている自分の動きの方が驚愕である。
これがカンストの効果なのかな?
「ふむ、最初は舐めてんのか? とも思ったが、近、中自在の武器か。強化していけば厄介な得物になるやも知れんな」
「教官殿。あの武器は一体?」
「あれは、武器ではない。ただの椅子じゃな」
「「「って! 椅子って座る椅子の椅子?」」」
「もちろん、強化魔法はかけてあるようじゃ。それも、ダイアナ様の魔法なら、油断は命取りぞ!」
その言葉が聞こえていたからという訳じゃないが、俺は、少女の間合いを潰しに動いた。一転して焦る少女。その隙を見逃さなかったのは、我ながらファインプレーである。椅子を投げつけ、小さな少女が防御に縮こまる処を捕まえ、持ち上げた。そして、そのまま直下に叩き付ける。プロレス技のパワーボムというやつだ。障壁に守られているとはいえ、流石にこんな技は受けたことが無いのだろう。かわいそうに、くるくると目を回して伸びている。
「よし、そこまで! 勝者ケンジ!」
とりあえず、最初の関門を突破できた。とはいえ、流石にかわいそうだったかな?
「最後、なぜ武器を捨てた?」
「サー! 自分の攻撃が障壁を粉砕するためには、武器よりも、素手の方が効率が良いと判断したからであります」
「だが、ダンジョン内ではあれは悪手だぞ! 常に武器は手元で把握できるように、そのことが命を縮める前に直すようにしとかねばな?」
「サー! 肝に銘じるよういたします」
「では、本日はここまで。明朝06:00に、ここに集合だ。ケンジ! ヌコの介抱をしっかりしろよ! そして、伝えておけ。ナイフに特化するのもお前の体格では危険だとな」
と、言って教官は去って行った。そして、他の三人も、
「本当は歓迎会でもしたい処だが、今作戦期間は自由も著しく制限されているのでね。我々はこれで。任期が明けたら改めてパーティーをしよう」
と、アルバと呼ばれてた少年は言って去って行った。他の二人もヌコをくれぐれも宜しくと、言いながら帰路についた。そうして、取り残された俺と、まだ伸びてるヌコさん。どうしようか? と思案に暮れていたら、さっきのアイリスさんが出てきて声をかけてくれた。
「ひっ! 強姦殺人!?」
「違うから!」
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「なーんだ。模擬戦でやりすぎちゃったんですか? それなら、しばらくは中で休んでるといいですよ」
どうやら最初に脅かし過ぎたようで、少し遠巻きに見ながらしか話してくれない。くすん。
とりあえず、室内に入って壁際のソファーに寝かせてから、アイリスさんに聞いてみる。
「そういえば、この子はどこに住んでるとかわかりますか?」
「そういったプライバシーに関してはお答え出来ません。ましてや、さっき入会したばかりの人に」
「あ、入会で思い出しましたけど、カード、発行されたんですよね?」
「ああああっ! それをお渡ししようと出てきたんでした」
と、言われてようやく受け取ることが出来た。名前と、メイン技能、発行日、そして、ランクEとだけ記載されただけの白いカード。これが、俺のこの世界での寄る辺となる訳だ。
そう、考えるとなんか意味もなく顔がにやけてくる。これで、本当に独り立ちしたんだ。小さい頃からの夢が今日、この日に達成できたのだ。
「うわーん! 意味ありげにニヤニヤしてますぅー! 怖いですぅ~!」
……いい加減、怖がるの止めてほしいなぁ。
「う、う~ん」
あんまり煩くしてるから目が覚めてしまったようだ。
「は! パチっ! ししし、試合はどうなりまちたか?」
「おはよう、目が覚めたようだね」
努めて優しく言ってみた。
「まさかの朝ちゅん!?」
……流石にその発想は無かった。
「そ、そんな恐ろしい事を画策していたなんて(がくぶる)」
「今、一緒に話してたよねぇ! 俺健全!」
「「まさかのW朝ちゅん狙い!?」」
「がっはっはっは! 流石のルーキーも我がギルドの三大ボケガールにはてんてこ舞いみたいだな」
二階から降りてきたギルマスさんが教えてくれた。三大ボケガール? 三大疾病みたいだな。
「受付のアイリス、ギルド員のヌコ、そして副マスターのウメ婆さんだ!」
一人は本物のボケ老人かよ! ってか、ウメ婆さん会いてぇ!
「まあ、そのうちおいおいな。それより、ヌコ! 君の家で彼の面倒をみてくれないか?」
「にゃっ! もしかして、店子さん♡ いらっしゃ~い♡」
「いや、とりあえず十日間だけだな。もしかすると、所払いになるかもしれんのでな。既に魔王から家賃を預かっている。多少多いが口止め料も含まれていると見た。なので、こいつの素性など、他言無用だぞ!」
「にゃっ! 政治物件でしたか! 了解でにゅ!」
政治物件って。
「と、言う訳で、歓迎するにゃ♡ 当下宿館 山猫館へ、御あんな~い!」
実はなかなか愉快な娘だな。これなら期待できそうだ。どこからか持ち出した緑の旗を持って先導しだしたので、荷物を纏めて(と、言っても貰ったばかりのギルドカードをアイテムボックスに仕舞っただけだが)付いて行った。
ギルドを出て五分程、商店の並ぶ一角を超えて、右に曲がった直ぐの所にその建物はあった。
……うん。期待しすぎはいけないとは思ってたけどね。
「こちらが、当下宿館 山猫館になりますにゃ! 凄い建物でしょ♡」
確かに、凄いことになっている。
木造の3階建てで、一階は石壁になっているものの、一階部分が一番小さくて、二階、三階と段々大きくなっている逆台形型の建物だ。これ、建築基準とか、完全にぶっちしてるよなぁ。
「二階、三階が下宿部屋、一階は、食堂兼共用のリビングになってるにゃ。食事は別料金だから、毎食ここで食べてうちにお金を落としてくれるといいにゃ♡」
早くもぶっちゃけたな、こいつ。
「それから、三階の住民は、荷物の持ち込み量に制限があるにゃ! 守らないと、倒壊するかもしれにゃいので、絶対遵守にゃ!」
「やっぱ、ヤバい建物じゃんかぁぁぁぁっ!」
大丈夫か? 俺。




