達磨殿の越後秋紀行 第2話
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
【後編】第2話:黄金の恵みと星空の帰路
信濃川の川面を彩る紅葉に見惚れながら、達磨殿はさらに歩みを進める。やがて辿り着いたのは、平島の「浪切場」。かつて川の激しい波を遮り、人々を守るために築かれたこの歴史ある場所に、いまは無数のススキが群生している。夕陽の最後の光をいっぱいに浴びたススキの穂は、まるで自らが発光しているかのように黄金色にきらめき、古い遺構と水面を優しく照らし出していた。
平島や ススキが照らす 浪切場
浪切場をあとにし、広大な越後平野へと視線を移すと、そこには見渡す限りの黄金色の海が広がっていた。実りきった稲穂が頭を垂れ、あちこちで収穫の手が進んでいる。ずっしりと重みを増した今年の恵み(目方)に、農家の人々の顔には喜びの笑みがこぼれる。その豊かな営みを、背景にある弥彦山が、いつの時代も変わらぬ雄大な姿でどっしりと見守っていた。
稲穂刈り 目方も増えぬ 弥彦山
気がつけば、西の空の茜雲の向こう側へ、おひさまがゆっくりと姿を消そうとしている。最後にひと際大きく、丸く輝くその姿は、まるでこの秋の美味しい恵みをたくさん食べて太ってしまったかのよう。達磨殿は、そのおひさまに自分自身の丸い影を重ね合わせるように、名残惜しそうにじっと見つめていた。
茜雲 暮れるおひさま 達磨殿
おひさまが完全に沈むと、それまで真っ赤だった空は一転して深い紺色の夜空へと移り変わる。見上げれば、澄み切った秋空にぽつり、ぽつりと、きらめく星たちが顔を出し始めた。
一日中、越後の秋をたっぷり歩いて旅した達磨殿。ふと気づけば、静かになった辺りに「ぐう」と小さなお腹の虫の音が響く。
「さあ、お腹の虫も鳴き出したことだし、温かいご飯が待つ我が家へ一緒に帰ろうよ」
達磨殿は星空の下、幸福な一日の余韻に包まれながら、トボトボと心地よい家路につくのだった。
星きらり お腹の虫も 帰ろうよ
(おわり)
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




