達磨殿の越後秋紀行 第一話
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
達磨殿の越後秋紀行
【前編】第1話:川風と夕陽の達磨殿
秋の気配は、いつも肌をなでる風の冷たさから始まる。
越後の広い空から吹き下ろす風は、昨日までの暖かさを嘘のように連れ去り、道端にひっそりと佇む小さな花の蕾を優しく揺らしていた。これから咲こうとする瑞々しい蕾が、寒さにきゅっと身を縮めているようでもあり、その健気な姿に思わず足が止まる。
吹く風や 肌を揺さぶる 花蕾
じっと蕾を見つめていた達磨殿がふと顔を上げると、いつの間にか世界はすっかり夕暮れの色に包まれていた。西の空が燃えるような茜色に染まり、大地を、そして達磨殿の真っ赤な身体をさらに深く、紅く染め上げていく。その圧倒的な美しさに、達磨殿は言葉を忘れ、ただただ息を呑んで佇むのだった。
陽も紅く 心奪わる 髭達磨
どこからか、ピーヒョロリと哀愁を帯びた笛の音が聞こえてきた。澄み切った秋の高い空へと吸い込まれていくその音色は、優しく吹く風に乗って、遠くの街へ、そして山へと運ばれていく。耳を澄ませていると、胸の奥が少しだけ切なく、けれどじんわりと温かくなっていくのを感じる。
空高く 笛音の遠く 風運ぶ
歩みを進めると、目の前に雄大に流れる信濃川が見えてきた。川沿いの木々は色鮮やかな紅葉に彩られ、その葉がひらひらと静かな水面に舞い落ちる。川面に映る美しい紅葉の赤と、それを優しく受け止める大河の流れ。まるで、紅葉のほうが信濃川の雄大さに恋をして、そっと見初めたかのような、そんなロマンチックな錯覚を覚えるほどの、贅沢な夕暮れの景色がそこには広がっていた。
信濃川 紅葉にそっと 見初められ
(第2話へ続く)
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




