第2話:深まりゆく秋の寂寂
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
第2話:深まりゆく秋の寂寂
山をさらに奥へと進むにつれて、周囲の空気はしんしんと冷涼さを増し、俗世から遠く離れた寂寥感が満ちていく。カサカサと鳴る木の葉の音の向こうから、群れからはぐれてしまったのだろうか、小さな一羽の雀の、微かなかすり傷のような声が聞こえた気がした。まるで深い孤独に耐えかねて、静かに涙を流しているかのように。
奥山の はぐれ雀が 啜り泣く
そんな静寂に包まれた深い山の中で、一際まばゆい出会いがある。幾重にもひだを重ね、まるで山の中で妖艶に「傾き舞う」かのように自生する、見事な舞茸だ。その圧倒的な香りが周囲の空気を支配した瞬間、胸が高鳴り、見つけた歓喜で心の中の踊りが止まらなくなる。
キノコ採り 香り舞茸 傾き舞う
ひとしきり山の恵みに心を躍らせた後、気がつけば周囲は夕闇に包まれ始めていた。日の入りがすっかり早くなった秋の「暮れなずむ」時間。清流のあたりから聞こえていたカジカの声も、冷えていく空気のなかで少しずつ周囲の闇に溶け込み、しずかに息を潜めていく。川底の静けさが、そのまま世界の静けさになっていくようだ。
秋深し カジカの声も 暮れなずむ
すっかり冷気が満ちた散歩道を、足元に気をつけながら家路へと急ぐ。カサカサと乾いた音を立てる枯れ草のなか、ふと何かが動いた。トノサマバッタだ。しかし、彼らが枯れ草に飛び込んだ瞬間、その緑色だったはずの体はすっかり枯草色へと溶け込み、まるで手品のように見失ってしまう。冬を前にした、生き物たちの見事な「早変わり」の知恵。
枯れ草や 殿さまバッタ 早変り
鮮烈な青空から始まり、山の深い営み、そして足元の小さな生命の観察へ。今日もまた、歩いたからこそ出会えた素晴らしい秋の景色を胸に、私は静かに一日の筆を置く。
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




