第1話:故郷の光と豊かな山々
日々の散歩道で見上げる秋晴れの空。その澄んだ青は、いつしか遥か故郷の杉林や、かつて歩いた山々の記憶へとつながっていく。五・七・五の調べに乗せて、山の生命力、油断ならない自然の厳しさ、そしてしんしんと深まる秋の「わびさび」を二部構成で綴る、大人のための瑞々しい自然エッセイ。
第1話:故郷の光と豊かな山々
秋晴れの心地よい風に誘われて、いつもの散歩道を歩く。見上げれば、まるでパレットからそのまま取り出したかのような、濃厚で鮮烈な青が天高く広がっている。その下を流れる川の水面は、柔らかな光を反射して淡くきらめき、青と白の美しいコントラストを描き出していた。
川淡く 絵の具のような 青い空
この澄んだ空の下にいると、想いは自然と遥か故郷の景色へと飛んでいく。しばらく帰っていないあの懐かしい地では、今頃きっと、まっすぐに伸びた杉林の足元に、瑞々しいスギゴケがびっしりと緑の絨毯を広げているはずだ。そこに差し込む秋の陽光と、鮮やかに色づいた紅葉が、静かなコントラストをなしていることだろう。
苔白く 杉の林の 紅葉かな
かつて歩いた山の記憶が、次々と鮮明に蘇ってくる。山の中は、いつだって生命のユーモアに満ちていた。たとえば「いっぽんしめじ」。一本という名を持ちながらも、地面からぽこぽこと何本も群生して顔を出している姿は、まるで大家族のようで、見つけるたびに思わずクスッと笑ってしまう。
山歩き いっぽんしめじは 子だくさん
しかし、山は微笑ましいだけの場所ではない。ふと目を凝らせば、パチッと音が聞こえてきそうなほど見事にイガが割れ、艶やかな実が顔をのぞかせている栗の木がある。「栗みよけ」の豊かな実りは秋の大きな恵みだが、それは同時に、山の主である熊たちの格好の餌場でもあることを意味している。野生の縄張りを察知した瞬間、一歩引いて、静かに来た道を遠まわりする。それもまた、山を愛する者が持つべき大切な知恵なのだ。
栗みよけ 熊の餌場だ 遠まわり
山の持つ豊かな生命力と、油断ならない自然のリアルな緊張感。それらを肌で感じながら、私の歩みはさらに深い秋の情景へと進んでいく。
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




