【第1話】:散歩道の小さな住人たち
前書き
足元の命を見つめていた視線は、川の流れに沿って、やがて越後の壮大な原風景へと広がっていきます。
本文
現役時代は、土日や祝日の休みを何よりの楽しみに、ただ忙しなく過ぎていく日々を送っていた。リタイアした今、ようやく手に入れたのは「立ち止まる時間」である。
毎日の日課となった散歩道。そこは、多くの命が行き交う賑やかな交差点だ。
近所の人が連れた愛犬、気ままに路地を横切るにゃんこ。お互いに言葉は交わさずとも、その確かな命の営みが、私の歩みをどこか温かくしてくれる。
川沿いに目を移せば、そこにもまた、たくましく生きる者たちの姿がある。
宵深けて 灯り探して 亀泳ぐ
夜の闇がしんしんと降りていく静寂のなか、暗い水面にポツリと映る街灯の光。そのわずかな救いを求めるように、音もなく健気に泳いでいく亀の姿がある。都会の片隅、いや、この地方のひっそりとした夜の川にも、それぞれの孤独と小さな希望が息づいているのだ。
しかし、明けない夜はない。翌朝になれば、世界は再び光で満たされる。
秋晴れや 芝生で笑う マルチーズ
澄み切った秋の青空の下、青々とした芝生の上で嬉しそうに表情を和ませている真っ白なマルチーズ。その無邪気な姿を見ているだけで、こちらの心まで穏やかな風が吹き抜けていくようだ。
ふと水面に目をやれば、涼やかな風に誘われるように、一瞬の生命の輝きが弾ける。
秋風に ぴょんと跳ねる 川魚
秋風が水面を揺らす一瞬、きらめく飛沫を上げて「ぴょんと」勢いよく飛び跳ねる川魚。その軽快な躍動感は、寂しげになりがちな秋の川辺を一気に活気づけてくれる。
にゃんこやワンコ、そして魚たち。散歩道にあふれる小さな命の輝きは、どれも等しく尊く、私のささやかな日々に豊かな彩りを与えてくれている。
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のふとした歩みのなかで見つける季節の移り変わりを、五・七・五の調べに乗せてお届けしました。みなさまの心にも、それぞれの秋の景色が浮かんだなら幸いです。




